お互いに緩やかに繋がって_ヘッダー画像_

【連載】お互いに緩やかに繋がって 第19回

 しかしながら、今僕たちがいるこの居酒屋には、それなりの賑わいという喧騒が存在し、アルコールは十分に蓄えがあった。僕はそれに便乗して、
「なあ、一緒にバンドでもやらないか?」
と誘ったのだった。僕がそう言うと、貴樹は一瞬怪訝な顔を見せた。もし、逆の立場だったとしても、僕は今の貴樹と同じような顔をするだろう。それはやはり、僕たちが”あまりにも近すぎる存在”だからなのだと思う。一瞬の否定、一瞬の反発を貴樹は見せ、それでもその後、彼は二つ返事でそれを快諾した。

 その日、それから言葉が止まることはなかった。僕たちが次に作る音楽はどういうものになっていくのか、どういったメンバーを集めるのか、どういったバンドを創っていくのか。それらの話は底を知らないままに発せられて、過ぎ去ってみれば、ずっと暗く、寒い夜も明けてしまっていた。喋り過ぎたせいで喉は渇き、声は掠(かす)れた。僕たちのこの会話はどこへ向かっていくのだろう。僕たちが創り出す新しいバンドはどこに向かっていくのだろう。そして、どんな形を成すだろう。それらを考え、また、貴樹と話していることは、僕にとってその音楽を行うことと同等の幸福を得ることが出来たのだった。

 僕たちは居酒屋を後にして、既に走り出している冷え切った電車に乗りその家路に着いたのだった。結局朝まで一睡もしていないというのに、僕は興奮して、布団に潜ってからもなかなか寝付くことが出来なかった。次第に太陽は高く昇り、その新しい一日が始まった。

■古びた町の本屋さん
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