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【連載】お互いに緩やかに繋がって 第20回

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 貴樹と初めて会ったあの日から、おおよそ一年が経つ。僕の誘ったあの日からその話は着実に進み、それから数日もしない内に僕たちは同じ空間で同じ音を鳴らした。それは予想した通りの快楽があって、僕はその音の流れの中にしばらくの間酔いしれていた。自分で言うのはおかしくも思えるけれど、その時は自分がそんな”調子に乗っている感覚”を間違いなく感じていた。
 僕がやっていたバンドのメンバーからはドラムを担当していた人間を連れてきて、貴樹がやっていたバンドからヴォーカルを連れてきた。ヴォーカルは当初他のメンバーを探すと言っていたのだけど、それは貴樹にとってぴったりと当てはまるような人間が現れなかった。僕はいつもより早いスピードで曲を書き、貴樹がそれらの曲をアレンジして仕上げていった。
 その時期、僕は本当にメジャーデビューが出来ると思って疑わなかった。それくらいに自信に満ち溢れていたし、他の誰かが「自意識過剰だ」と言ったとしても、それらの言葉は一切耳に入ってこなかった。そうやって、少しずつまともな形になってきた頃にライブを行い、最初の感触はまずまずだったものの、半年もすれば程々の固定ファンが付いた。今までそこまで皆に受け入れられることはなかったし、自分のバンドが受け入れられるというのは、何より自分という人間を肯定されているようで、僕はより”自信過剰”になっていったのだと思う。

 貴樹が大きく口を開き始めたのは、その半年が経った頃、僕たちのバンドがある程度形を伴ってきていた時のことだ。
「俺はやっぱりあいつは気に入らないんだよ」
貴樹の言う”あいつ”が、僕たちのバンドでヴォーカルを務める彼のことを言っていることはすぐに察しが付いた。ここまであからさまに言ったことはなかったけれど、でもそれは、貴樹のそれらの態度に顕著に表れていたと思う。

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