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この事業で、いちばん大切なもの

再チャレンジするのは、
もう、何度目になるだろう。

みっともなくて、数える気にもならない。
どちらかというと、忘れたいくらいだ。

もしもリセットボタンがあったなら、
間違いなく押していた。
あの時とあの時と、あの時。

残念な人生だ。


それはともかく、
また、ふりだしに立たされた、37歳の夏。
今度こそ本当に、ゼロからの再チャレンジだ。

これから、事業プランを考える。


まず、そもそも、
何のために、この事業をやるんだろう。
ゴール設定は、何だ。

簡単だ。はじめから決まっている。

わたし自身が、
「もしこの事業に、もっと早く出会えていたら、
わたしはもう少し、マシな人生を送れたのに」
と、心から思える事業。

これがゴールだ。
自分が欲しかった事業をつくるのが
いいに決まってる。

以前書いた、
縫製職人の所得構造の問題点の通り、
わたしが欲しいものは、これだ。

【目標:毎日3万円分の仕事を確保する】
そのために
①仕事を受注できる場所
②打ち合わせに行かなくて良い仕組み
③条件を自分で選べる権利
が欲しい。

これをもとに、
よく聞く「5W1H」とか「6W3H」とかに
当てはめてみたい。

【6W3H】
●When:いつ→「24時間いつでも」
●Where:どこで→「自宅で」
●Who:誰が→「わたしが」
●Whom:誰に→「わたしに」
●Why:なぜ→「収入を上げるために」
●What:何を→「縫製の仕事を」
●How:どうやって→「インターネットで」
●How much:いくら→「1日3万円分」
●How many:いくつ→「10日分」

最後の「10日分」というのは、
既存客から入ってくる仕事の工数を除いた、
わたしのすき間の工数を、
だいたい10日分くらいに設定した。

これをまとめると、こうなる。

【わたしが欲しい仕組み】
わたしがわたしの収入を、
月に30万円上げるために、

縫製の仕事を、自宅でインターネットを使って、
24時間いつでも受注できる仕組み。

おお…最高だ。もうすでに、幸せすぎる。
わたし、これめちゃくちゃ欲しい。

ああ、これがもっと早くあったら、
わたしの人生、だいぶマシ。


わたしが欲しかったサービスをつくる。
シンプルで良い。

ではこのサービス、
わたし以外に、誰が使うだろう。

わたしと同じ属性の人

ああ、簡潔だ。

わたしと同じ属性の人、
つまり、縫製職人や衣装屋さん、
小規模縫製工場などは、
どう考えても、このサービスを欲しい。


そしてこの時、重要なことに気がついた。

わたし、縫製職人の知り合い、
いない。


そうか。思い返すと、
わたしがキャパオーバーになってしまい、
外注したかった時に、外注先がなくて困った。

わたし自身も、自宅で縫っていた。

ほかの職人も、だいたいそうで、
誰かに紹介してもらうくらいしか、
縫製職人に出会う手段はない。

自宅で縫ってる縫製職人には、
自力では出会えない。

だから、職人同士でさえ、
お互いに仕事を振り合うこともできない。

まして縫製を依頼する側は、なおさらだ。
アパレルや衣装製作会社みたいなプロでさえ、
縫製の依頼先に困っている。


それなら、
アパレル業界と無関係な一般個人は、
なおさら縫製職人に出会えないだろう。

一般個人が、プロに縫製を依頼するケースは、
あり得るだろうか。


あった。

そもそも、いまわたしの
メインの仕事のひとつになっている
ダンス衣装ECさんは、
アパレルと無関係な人が始めた、個人事業だ。

CtoCというらしい。
いまネットショップはカンタンに安くつくれて、
個人でネットショップを始める人が多いようだ。
ダンス衣装ECさんも、それに近い。

他にも、元嫁が通っていたバレエ教室から、
生徒用のおそろいの練習着の製作を
量産で依頼されている。

その教室では、子供たちのバレエ発表会でも
衣装の手配に困っていて、お母さんたちが
無理やりつくることもあるらしい。

きっと他のダンス教室でも、同様だろうし、
同じように、子供の入園グッズでも困るだろう。

個人が洋服をオーダーすることは、
あまり多くなさそうだ。
それでも既製服の寸法直しは、
よく入ってくるし、
カーテンだって丈上げしたい。

要するに個人の家には、もうミシンはなくて、
昔なら家庭の「お裁縫」で完結していたことが、
現代社会にそぐわなくなった。


個人からの縫製の需要は、ある。
そしてそれは、
下請けの仕事よりも工賃が高かった。

ああ…それなら、個人から依頼されたい。
下請けだけの毎日は、いやだ。

縫える量には、限界がある。

元請けからの仕事に依存してしまうと、
仕事を切られると、一発で詰む。

だから、無理な納期も請けざるを得ないし、
工賃の交渉も難しい。

アパレルの下請けの仕事に依存しては、ダメだ。
半分くらいは自分で仕事を選びたい。

スポットの仕事でもいい。
そのかわり、

エンドユーザーの笑顔が見たい。


ああ…これだ。

誰のために縫うのか。
これ以上に大事なことがあるだろうか。

わたしがアパレルより衣装の仕事が好きなのは、
わたしがつくったものを着て、舞台に立つ人と、
それを鑑賞する人々の
感情に触れることができるからだ。

縫うのなら、誰かの笑顔のために縫いたい。
誰のために縫うのか、自分で選びたい。


そうか。よくわかった。
わたしには「選ぶ権利」がなかった。

この事業で、いちばん大切なものは
「選ぶ権利」だ。


依頼する側は、自分の需要に合った依頼先を、
受注する側は、誰のために縫うのかを
お互いに対等に「選ぶ権利」。

縫製の業界になければならなかったものは、
「選ぶ権利」だったんだ。


まとめると、こうなる。

【この事業の定義】
縫製職人と、縫製を依頼したい人が、
インターネットでいつでも相手を自由に選んで、
マッチングできる場所。

つまり、お互いに自由な基準で、
相手や仕事内容を「選ぶ権利」を提供する、
「マッチングプラットフォーム」をつくる。


依頼者は、多数の職人リストの中から、
自分に合った人を選んだらいい。

無駄に高い職人や、技術の低い職人は、
依頼者から選ばれなくなる。


縫製職人は、
仕事内容を自由に選んでいい。
その金額も受注量も好きなように決めたらいい。
安ければ請けなければいい。

そうすると、
安い仕事は、誰からも選ばれなくなる。


プラットフォームの運営者は、
ただひたすら「選択肢」を提供し続ける。

「選択肢」を提供できないと、
両ユーザーから選ばれなくなる。

「縫製職人」「依頼者」「運営者」の3者が
「選ぶ権利」と「選ばれるためのハードル」を
対等に備えたプラットフォーム。

ああ…もっと早くこのサービスがあれば、
わたしの人生は、
こんなみじめじゃなかったはずだ。

このサービスがあれば、
わたしはもっとまともに、稼げていた。
もっと幸せに暮らしていけた。
縫製の仕事だけで、生きていけた。

もしかしたら、
若い弟子を持てていたかもしれない。
夢みたいだ。

縫製職人に、もう若手がいないのは、
まともに収入を得られないからだ。
食えない仕事に、誰が弟子入りするだろう。

縫製職人の所得を上げて、
ちゃんと稼げる仕事に変えて、
若手がそれを目指して、修行に励む。

そんなことが実現できたら、
本当に、夢のようだ。


事業は決まった。
わたしは、縫製職人の笑顔のために、
このサービスを立ち上げる。

再チャレンジできるのは、これが最後だろう。
たぶんもうわたしには、次のチャンスは来ない。

とりあえず、エントリー通過者の80人を、
全員抜く。


(つづく)

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