人工知能がインタビューをする日も遠くないかも…?メディア人各位はどう備えようね

ロボット記者がインタビューに挑戦、という記事が、友人が主催するライター・編集者コミュニティでシェアされたのでチェックしてみた。中国の国営通信社である新華社通信による試みだ。

ロボット記者「Jia Jia」がインタビューに挑戦--新華社通信が動画を公開
Bonnie Burton (CNET News) 翻訳校正: 佐藤卓 吉武稔夫 (ガリレオ)2017年05月02日 11時39分

ここで紹介されているロボット記者「Jia Jia」によるインタビューはまだまだたどたどしく、実用化には耐えないレベルだが、同記事のレポーターによる以下のコメントは、いささか楽観的すぎるかなと思う。

人間がさまざまな仕事をロボットに奪われる時代がたとえ来たとしても、新たに公開されたロボット記者の動画を見ると、ジャーナリストは心配する必要がないと筆者に希望を持たせてくれる。
(同上記事より引用)

この記事の筆者本人の願望も入っているのだろうし、言葉を選ばずに言えば"職人気質"の人が比較的多いであろうジャーナリスト界隈でも、同じような感想や願望を抱く人もいるかもしれない。

だけど大抵の場合、技術の進歩はそれに抗う人の願望よりはずっと早く、そして広く影響を及ぼすだろうから、人間しか出来ないだろうと思われていたインタビューの仕事が人工知能に取って代わられる未来も、そう遠くはないのではないかと思う。

インタビューではないが、新聞記事を人工知能が書くという事例は、すでにいくつか紹介されており、しかも実用化段階まで発展している。

たとえば日経新聞は、人工知能による決算サマリーをβ版としてすでにウェブ配信している。

決算サマリーの人工知能は、企業が開示する決算短信添付資料と決算短信サマリ情報から決算情報を抽出した後、適切な文章を選んでサマリー記事を作成し、ウェブサイトへの配信まで自動で行う。人はそのプロセスに一切関わらない。人工知能が作成した記事は、日経電子版と日経テレコンで読むことができるが、日本経済新聞の紙面には使われない。

「日経のAI記者が始動、1日30本の決算サマリーを量産」
TechCrunch Japan, 2017年1月26日 by Nozomi Okuma (@ok_nozomi)


企業の決算発表サマリーのような記事は、比較的読んでまとめるべき要点をパターン化しやすいし、特段記者の主観を必要としないから、人工知能に学習させやすいのだろうと思うが、以下の中部経済新聞の事例を見ると、もう少しナラティブでエッセイ調の文章すらも、人工知能がそこそこ上手に書けるレベルにまでなっているようだ。

文末表現「~ました。」「~であった。」の混在や、誤字などはあえてそのまま残すことでAIの課題点を明らかにしつつも、人工知能の可能性を感じさせる内容となっています。
(同記事より引用)

確かにところどころ文法や表現上の誤りはあるが、この程度の粗は、大学生の出来の悪いレポートや感想文でも珍しくはないし、新聞の投書欄やらSNS上の議論を見れば、人間の書くナラティブの方がよっぽど支離滅裂なこともあるから、これはもう十分に「人間らしさ」と張り合うレベルまで来ていると言えるかもしれない(笑)


もちろん、起こったできごとのサマリーをまとめるだけでなく、「今、ここ」で相手との双方向のやり取りから生起するインタビューには質的な違いもあり、求められるスキルも単なるサマリー力だけでなく、相手に合わせた質問や応答、呼吸の置き方など、より"人間的"なものではある。

だけど、基本的には「人工知能が学習をするための適切かつ大量のデータをいかに用意するか」という話だろうから、決算サマリーを書くよりは時間がかかるにせよ、人工知能がある程度の"人間性"や"創造性"らしきものを表面的にでもなぞってインタビューをできるようになる日が来るのは、時間の問題なのではないかと思う。

そもそも、世の中にあるインタビューやインタビュー記事というものは、「この人とこの人の関係性でなければ出来ない」と言うほど個別性の高いものばかりではない。

ちょっとしたニュース記事のために行う取材なんかは、簡単な一問一答だけで終わるものもあるし、それこそ電話でなくメール回答でも済むようなものも少なくないから、その出来事の基礎ファクトと、当事者や関係者の思いを聞く程度の質問なら人工知能でも十分に代替可能な気がする。

それに…芸能人や政治家の記者会見やスポーツのヒーローインタビューなんかを見ていても、「その質問、要るか?」みたいな間の抜けた質問を投げる記者はたくさんいるわけだから、無慈悲な言い方をすれば、独自性も出せないのに空振りばっかりする人間よりは、ほどほどのクオリティでもミスなく上げてくる人工知能使った方が確実やん、みたいな判断をエラい人たちが下す可能性は当然あるよね…


そんな未来が実際に到来する前に、生身の人間としてしばらくは現役で食っていかねばならないメディア人各位はどのように備えるのが良いだろうか。

僕たちが望むと望まないとに関わらず、人工知能が様々な仕事を代替する未来は来るわけだから、人工知能の仕事"ではないこと"、すなわち人間の仕事はどこからどこまでで、それを食いっぱぐれずにやっていくためにはどんなスキルが必要かを常々考えて準備していくしかない。

以下、雑感・概論レベルだが、少し考えてみた。


①ライターの立場なら?
これは、冒頭の記事がシェアされたコミュニティの中でも意見が出ていたけど、人間の仕事はむしろノイズや飛躍があるからこそ価値が生まれるのだとも言える。

インタビューにおいても、論理の飛躍とか比喩的なツッコミとか、あえて黙って待つとか、相手がドキッとするような質問を投げるとか、予定調和"ではない"やり取りは、人間のインタビュアーならではの魅力、と言えるかもしれない。そういった、飛躍のあるやり取りも含めて、「その人ならでは」のインタビューや記事執筆ができるライターであれば、編集者やインタビュイーからも信用されて、食いっぱぐれずやっていけるのではないだろうか。

ただ、こういう人間らしい"呼吸"や"間"みたいなものも、当日その場で予期せず生まれものと、ある程度技術的に体得できるものと、その両方あるいは掛け合わせて成り立っているとも言えるから、ある程度は人工知能に模倣されちゃう日が来るかもしれない。

だけど、インタビューの空間というのは決して技術だけで成り立つものではなくて、インタビュイーとインタビュアーの信頼関係というか、インタビュイーの側が「この人にならここまで語っても良い」と投げ出してくれるか勝負みたいなところもあるから、そういった"信頼関係資本"の積み重ねそのものが、人工知能に代替不可能な、人間の領分、なのかもしれないね。


②編集者の立場なら?
やっぱり編集者なら"企画"で勝負、むしろ人工知能の存在をコンテンツにどう活かすか?ということを考えたい。

インタビュイーが受け入れてくれそうなら、あえてロボット記者を同行させて、そのズレたやり取りも込みで記事にしていくとか、

ロボット記者と人間記者でインタビュー対決させるとか、

「人工知能を育ててみた」みたいな感じで、ある特定のテーマの記事を人工知能継続的に書かせていくことで、その成長の過程をもコンテンツにしていくとか。

とかとか。まぁ思いつきですけど、人工知能が想定可能なフレームの"外側"から企画を打っていくことが、たぶん「人間の編集者」の仕事なのだろうと思う。


③編集長の立場なら?
運営するメディアのビジネスモデルやコンテンツの性質を踏まえたとき、人工知能で代替可能な領域、あるいはこれまで手を出せていなかったけれど人工知能を活用することで展開出来るコンテンツラインは何か?ということを考えていく必要がある。

たとえば、AP通信では人力運用ではこれまで取材するほどの余力もなかった領域を、人工知能部隊に担当させるということを実際にやっている。

自動生成された記事が配信されるのは、AP Sportsの人間記者が取材も報道もしない、142のMLB協讃チームと13のリーグにわたるトリプルA、ダブルAおよびクラスAの試合だ。

AP通信、マイナーリーグ野球の記事を「ロボット」記者が報道
TechCrunch Japan, 2016年7月04日 by Lora Kolodny


もう1つ、編集長なら考えなきゃいけないなと思うことは、「人間ならではの仕事ができる人材をどれだけ育成・輩出できるか」ということ。

メディア業界の仕事全体が次第に人工知能に侵食されていくことを見越して、自分の部下のライターや編集者が「それでも食っていける」ためには、どんな育成環境を作っていく必要があるのか…

いま現在のコンテンツ制作フローにとらわれずに、人工知能に代替不可能なレベルの仕事に、部下をどんどん挑戦させていかないといけないよね。たぶん。

それからさらにその外側の話として…

「人工知能の活用インフラや体制を社内に整えるための総合コストが、人間を雇って育成して活用していく総合コストより安くなるのはどのタイミングか、自分の会社の仕事のうち、どこからどこまでを「人間の仕事」として残し、それを見据えた人工知能への先行投資や人員整理の計画をどうするか」

…みたいなことを④経営者の立場なら当然考えて実行に移していくだろうから、雇われの身でやっている人なら、そこんところも踏まえて自分の身の振り方を考えていかねばならんのでしょうね。


いやはや、ただでさえ労働集約でシャカリキ働いている人がたくさんたーくさんいるメディア業界というのに、なんとも大変な時代になってきましたね。

現代のラダイト運動は、工場労働者じゃなくて新聞記者が起こすのかもしれない。なーんて。

でもま、本来メディア人の多くは、「自分にしかできない表現を!」なんて野望を抱きながら飛び込んだ人が、"オリジナル"たらんとしてシノギを削る業界だったわけで。オリジナリティが不要な仕事を人工知能が全部やってくれるなら、まさしく待望していた世界がやってきた、ということなのかもしれません。

"職人の仕事"、"人間の仕事"に矜持を持つなら、ますます言い訳の効かない時代になっていくのでしょうね。




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鈴木悠平

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