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おでん屋で愛を叫ぶ

一人旅に夜のぶらり飲み歩きは欠かせない。高山のでこなる横丁には、素敵なローカル酒場が軒を連ねる。

実は2年前にも、一度高山を訪れている。そのときに入った店はどこだったか。ふと、小さなおでん屋の中から、人の良さそうなママと常連風なおっちゃんがこちらに手を振っている。手招きまでしだした。ここまでされて入らないのは武士じゃない。腹を決めてガラガラと戸を開ける。

カウンターのみの小さな店。既視感。もしかしてコレ、前来たとこじゃないの。2年前に一度来ただけだし、あのときは地元のおっちゃんたちと飲んでそのままスナックで歌いまくったから記憶が鮮明でない。

ひとまず席につき、かわいいから手振っちゃったよ〜なんておっちゃんのお世辞をかわしつつ、ママからおしぼりをいただく。既視感。

あれ、前来たよね?金髪の子じゃない?

やっぱりそうだった。摂食障害に苦しんだ末に新卒で入った会社を半年そこらで休職し、ちょっと良くなってきたからって急に日本放浪旅に出た金髪の22歳の私もここに来たんだ。あのときも確か、ママが手を振ってくれたんだった。

運命だ。またスピってしまう。あのときの高山はコロナのせいで人もまばらで、どこか寂しかった。そんな中でも元気な地元のおっちゃんとママが温かくて、心地よかった。今の高山はと言えば、観光客で溢れかえり、でこなる横丁も活気に満ちている。

色んな人が集い交わる。海外の人。地元の常連さん。一体感が心地よい。いい感じにお酒も回った。明日の座禅に備えて今日は帰ろう。お会計をお願いすると、全部さっきのおっちゃんが払ってくれたらしい。おっちゃんかっこいい。ありがとう。

明日も来ようかな。思考を飛ばして言葉が漏れる。待ってるよ、とママ。


翌日、無事座禅を終え、仕事も済ませた。空は淡く色づいている。今日はどうしてもサウナに入りたい。最終入場は21時。早めに飲みに出かけよう。

夕暮れ時のでこなる横丁。おでん屋の前。先客がひとり。戸を開ける。見覚えのある顔。

おう、久しぶりやな!

2年前にいっしょに飲んだお兄さんだ。一緒にスナックに行ったおっちゃんお兄さん二人組のお兄さんのほうだ。でも何故。

昨日私が呟いた、明日も来ようかな。それを聞いて、ママが二人に連絡したらしい。少ししておっちゃんもやってきた。

おー、元気やったかー!

たった一度会っただけで、偶然一緒に飲んだだけで、こんなに愛が溢れていいのだろうか。

体を壊したこと。2年前ふと高山を訪れたこと。今回座禅をしたいと思ったこと。高山の善光寺をおすすめされたこと。ママが手を振ってくれたこと。私が明日も来ようかなと呟いたこと。

すべてが繋がっている。

みんなが私のことを覚えていてくれたことも、集まってくれたことも、ママが私のまた来るを信じてくれたことも、すべてが幸せだ。このお店が好きすぎるし、ママが大好きだし、おっちゃんたちも大好きだ。

いまなにしてるんや。おっちゃんたちは私のこれからの話、夢、色々と聞いてくれる。二人とも経営者だから、割とちゃんと相談も乗ってくれる。

ゼロからイチだけしんどいけど頑張れ!そしたらどこでも生きてけるからな!

私は彼らの妹分になったらしい。高山にお兄ちゃんやらお父さんやらお母さんやらおじいちゃんやら、色々できてしまった私は、時々高山に帰らなきゃいけないようだ。お父さんには年一で来いと言われているが、ちょっと難しいかもしれない。

でも必ず戻ろう。今この瞬間、もう一度出会ったことにはきっと意味がある。私が座禅をしたいと思ったこと、座禅のために高山を選んだこと、おでん屋に吸い寄せられたこと。全てには意味があって、私はここでたくさんの愛をもらい、与えた。でもちっとも与えたりない。与えるキャパも足りない。

またおでん屋で乾杯するんだ。いつかもっと、与えられる人間になって。

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