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ロックバンドに祝祭を!

僕が世界一好きなロックバンド、UNISON SQUARE GARDENは、7月から「kaleido proud fiesta」と銘打った全国ツアーを回っている。

このバンドのベーシストであり、ブレーンの田淵智也はこの頃、新曲の必要性について疑問を呈しており、「過去の曲も組み合わせを変えれば全く違う聞こえ方をする。新曲が無くたってツアーやセトリのアイデアなんて無限に出てくる」と発言することが多い。

その真意に迫るのに最適なのが、今回のようにセトリの自由度の高いシングルをひっさげたツアーだ。自他共に認めるセットリストの天才は、今回どうやって我々を魅了してくれるのだろうか。

(この先ネタバレ注意)




9月4日、会場は広島県のJMSアステールプラザ。入場するとステージには薄い幕がかかっており、奥の様子はぼやけてよく見えない。
これまでに見られなかった仕掛けに早速セットリストの天才の先制攻撃を喰らった気分だが、同時にどういった演出でライブが始まるのか期待が高まる。

定刻通り17:30に開演。いつものようにSE「絵の具」が流れ、メンバーが入場してくるが、その姿は影になっていてよく見えない。どことなく不穏な空気が漂う中、斎藤宏介(Gt.Vo.)がクリーンな音のギターを鳴らし、歌い始めたのは「harmonized finale」。
この時点ではまだメンバーは影の姿のままであり、サビで背面に現れる満天の星空がうっすらと姿を映し出すほどである。まさかの選曲に会場もどよめく中、目に涙を浮かべる人もちらほら。

1曲目に別れと旅立ちを歌う曲を持ってきたことに一瞬緊張感も感じてしまったのだが、かねてからユニゾンは「飽きたらバンドをやめる」と発言していながらも、「このバンドに飽きたと思ったことは一度もない」とも同時に発言しており、こういった新しい仕掛けからも3人のもっと面白いライブがしたいという渇望を感じ取ることが出来る。

harmonized finaleをしっとりと弾き終えて、斎藤が「ようこそ!」と叫んで幕が降り、ご機嫌に始まったのはインディーズ時代からの名曲、「箱庭ロック・ショー」。続いて最新アルバムのリード曲、「世界はファンシー」、さらには9年前にリリースされ、今なおライブ定番曲となっている「シャンデリア・ワルツ」とこれまでライブの核やラストを担ってきた曲を惜しげもなく披露していく。
あまりのハイペースぶりに目眩がしそうだが、新旧のキラーチューンたちが共演を果たすことで爆発的な盛り上がりを見せ、早くもこのライブの山を作ったように見えた。



その大興奮の流れから一呼吸おいて、セッションを挟んでから不穏なイントロのベースが特徴的な「CAPACITY超える」で一度空気を掻き乱したかと思えば、疾走感あふれる「Silent Libre Mirage」でまたクリーンで爽やかな空気に戻し、自在に空気を操って完全にアステールプラザを掌握する。

圧巻だったのは、次の「Own Civilization(nano-mile-met)」、「ラディアルナイトチェイサー」、「fake town baby」の所謂「治安が悪い」曲3連打。

ここらでぐらつかせてやろう 有体たる流れを変えてやろう(Own Civilization(nano-mile-met))


甘いか苦いかは君が決めろよ(fake town baby)

と3人とオーディエンスには一定の距離があり、自分たちは自分達で好き勝手に演奏する、だからあくまでもこのライブを味わい尽くすか否かは我々オーディエンスにかかっていることを強調し、その覚悟を問うた上で

勝算万全、お待たせ(fake town baby)

と自分たちのライブへの絶対的な自信を誇示し、それに賛同、呼応した観客が万雷の拍手を彼らに浴びせ、称賛する。



チューニングの時間を空けて、少し落ち着いた雰囲気で始まったのは、「5分後のスターダスト」、さらに生演奏ではこのツアーが初披露の「弥生町ロンリープラネット」とバラードが続く。
前者は秋の落葉や金木犀を想起させる温かみのある黄色の照明、後者は春の訪れを歌う鮮やかなピンクの照明と、季節感がバラバラでもこの2曲が自然につながることに驚かされる。

少し間をあけてギターとのセッション込みの長尺ドラムソロを交えてスタートさせたのは「ワールドワイド・スーパーガール」、そこから今回のシングルのカップリング曲、「ナノサイズスカイウォーク」へと続いていく。
「星」、「惑星」、「世界」といった数多くの共通項を持つこのセクションでも、

僕らは孤独な惑星だから (弥生町ロンリープラネット)

今世紀最大のってあおってる割にはちっとも俺には期待はずれだな(ワールドワイド・スーパーガール)

ナノサイズで世界を描く あちこちコネクトする それが空になる!(ナノサイズスカイウォーク)

とあくまで自分達は異質な存在であると認めながらも、だからと言ってマジョリティに迎合するのではなく、自分たちが格好いいと思うことを愚直に追い求めることをやめない。このバンドの根底にあるスタンスは、曲調に関係なく滲み出ている。



いよいよライブもクライマックスにさしかかるというタイミングで演奏されたのは久しぶりの「サンポサキマイライフ」で会場を熱狂させたあと、代表曲の一つ、「オリオンをなぞる」に。
背面には再び星空が映し出され、ここまでの流れをまとめ、一気にフィナーレへとつなげようとする中、この曲最後の歌詞、

ココデオワルハズガナイノ二

からつながるのは、満を持してのツアー表題曲、「kaleido proud fiesta」。冒頭の

かくしてまたストーリーは始まる

と共に背面には「UNISON SQUARE GARDEN」の文字が映し出される。
そこから3人のギアがもう1段階上がったような気がして、16曲目にしてこのバンドの体力、気力の凄まじさを思い知る。
そこまで行きついた3人はもはやゾーンというか、無敵状態に突入しており、虹色の照明をバックに歌われるサビの

その願いを叶えようか

の圧倒的ヒーロー感たるや。
ここまでの15曲は全てこの曲の為にあったかのような、そんなオーラすら漂わせていた。


当然観客はこの日一番の興奮で、3人に地鳴りのような拍手を送るのだが、その拍手の隙間を縫うようにして微かに同期音源の音が鳴り始める。
さっきのツアー表題曲の集大成感すらも踏み台にしてさらなる興奮の渦を生み出したのは、「to the CIDER ROAD」。
もう何の迷いもなく爆音を鳴らし、その音をただ浴びるだけ。オーディエンスたちはどの曲も自分の好きなように楽しんでいるように思えた。知っている曲も知らない曲も関係なく、ただロックバンドから慣らされる音に身を任せるだけの90分であってほしいという田淵の願いがここで結実していたように思えた。

そして最後の曲ですとだけ告げられてセッションと共に「10% roll, 10% romance」をプレイし、多幸感と充実感を充満させて本編は終了。いつものように本編90分、MCは一切なしで爆速で駆け抜けていった。


アンコールを求める拍手が鳴り止まない中、すぐにステージに舞い戻ってきてすぐさま演奏し始めたのは「Cheap Cheap Endroll」。さっきまで希望や明るい未来を歌っていたかと思えば、

君がもっと嫌いになっていく

と連呼するこの曲を選ぶとはどれだけ天邪鬼なんだと思わせてくれるが、その後に「シュガーソングとビターステップ」を持ってくるあたりがニクい。
そして本当のラストとしてこれまた久しぶりの「場違いハミングバード」を演奏し、会場を大熱狂させて終演。
これまではアンコールの時に軽くMCをしていたが、それすらもなく、ただいい曲を作って楽しくライブをするだけという彼らの美学にさらに磨きがかかっているのだと感じる。


今回のツアーでは、最も古い「箱庭ロック・ショー」から最新曲の「kaleido proud fiesta」まで、この間16年間に作られた曲たちが絡み合い、引き立て合ってセットリストを構築していた。個人的にも死ぬまでに聞ければいいやと考えていた曲たちを数多く聞くことが出来、感無量だった。(広島より前に山口、岡山、福岡と近隣で開催されたにも関わらず、参加しなかった自分を恨んでいる)

ユニゾンにとってはこうしたライブが日常的なもので、彼らの言う「平常運転」なのだが、その平常運転、いつも通りのライブこそが我々が一番求めているものであり、バリエーション豊かな楽曲たちが一堂に会し、万華鏡のように見方によって様々な景色を見せてくれる「祝祭」なのだと感じる。

そして、このツアーが終わってすぐに、新たな全国ツアーを行うことが発表されている。ツアータイトルは、「fiesta in chaos」。このツアーで作り上げた色とりどりの祝祭を、どう混沌の海へと落とし込んでいくのか、そこに10月発売のシングル、「カオスが極まる」はどう絡んでいくのか、UNISON SQUARE GARDENはどこまでも我々をワクワクさせてくれるロックバンドだ。


セットリスト
1 harmonized finale
2 箱庭ロック・ショー
3 世界はファンシー
4 シャンデリア・ワルツ
5 CAPACITY超える
6 Silent Libre Mirage
7 Own Civilization(nano-mile-met)
8 ラディアルナイトチェイサー
9 fake town baby
10 5分後のスターダスト
11 弥生町ロンリープラネット
12 ワールドワイド・スーパーガール
13 ナノサイズスカイウォーク
14 サンポサキマイライフ
15 オリオンをなぞる
16 kaleido proud fiesta
17 to the CIDER ROAD
18 10%roll, 10%romance
ENCORE
19 Cheap Cheap Endroll
20 シュガーソングとビターステップ
21 場違いハミングバード