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月9『女神の教室』の楽しみ方(弁護士視点)

ロースクール生の日常を取り上げた月9ドラマ『女神の教室』。視聴率の低迷が続いていますが、「見どころが分かりづらい」ことがかなり影響しているように感じています。そこで、私なりに考える『女神の教室』の楽しみ方を、簡単にまとめてみました。

唯一無二のロースクールを取り上げた人間ドラマ

これまで、「〇〇派弁護士」「〇〇系弁護士」など、弁護士を取り上げたドラマは多々ありましたが、ロースクール生を正面から取り上げたドラマは、おそらく唯一無二ではないかと思います。

実務で活動する弁護士と比べれば、ロースクール生の日常は地味なものです。毎日、勉強、勉強の連続で、学外での人との出会いも大きく制約されます。これまでロースクール生が脚光を浴びる機会がなかったのは、「ドラマにならない存在」として位置づけられてきたからだと思います。

そのような先入観を脱して、ロースクール生の日常をクローズアップしたことは、画期的であり、(大げさにいえば)革新的です。

ロースクール生にはドラマがある

描かれているのは法律家の「下積み時代」

現在、経験15年以内で弁護士、検察官、裁判官として活動する方のほとんどが、ロースクールを経験しています。ロースクール時代は、いわば、法律家の「下積み時代」です。

芸能界の「下積み時代」を描いたドキュメンタリーはしばしばありますが、このドラマは、その「法律家版」という側面があります。

ドラマ自体はフィクションですが、自習室に閉じこもって黙々と勉強する姿や、答案用紙にボールペンで必死に解答を書き続ける姿、試験の成績に一喜一憂する姿は、リアリティにあふれるものです。

人物設定のリアリティさ

  • 裕福でない家庭環境の中でアルバイトをしながら切磋琢磨する水沢

  • 満たされないプライドと劣等感に葛藤し続けた真中

  • 犯罪被害の経験から法曹を目指す照井

  • 成績が振るわないことで前向きになれない桐矢

  • 父親のプレッシャーに翻弄されて「自分」を見つけられないでいた天野

登場するロースクール生は、それぞれ異なる思いを抱えています。

このような人物設定について、「地味で面白みがない」の感じる方も多いかもしれませんが、逆に、そのような設定にこそリアリティがあるように思います。

5人の人物設定は、まさに「現実のロースクールにいそう!」と感じられるものです。ロースクール生は、多くが社会人経験なく大学後に進学していますので、「ドラマ的に面白みのある人生経験」を重ねた方はなかなかいらっしゃいません。むしろ、ちょっとした悩みや過去を抱えながらそれを乗り越える方が多い世界です。

そのような意味で、(ドラマ的な面白さよりも)「リアルなロースクール」を優先させたドラマといえます。

柊木先生と藍井先生の対立を描く意味

柊木先生と藍井先生は、(冬のヒイラギ、夏のアオイという名のとおり)対極的な存在として描かれています。

柊木先生は、司法試験の合格よりも法律実務の面白さを知ってほしいという、いわば「理想」を体現した存在です。

一方で、藍井先生は、とにかく司法試験に通らなければ意味がない、それ以外のことは知らなくていいという、いわば「現実」を体現した存在です。

現実社会でも、ロースクールはもともと「法律を学んだ多様な人材」を育てることを理念に立ち上がりましたが、結局は司法試験の合格者の多寡で優劣が決められ、合格者を増やせないと廃止に追い込まれる現実があります。

柊木先生と藍井先生の対立は、現実社会で起きている問題を体現しており、リアリティがあります。

これまで取り上げられなかった「本音」

藍井先生は、作中では冷酷な存在として描かれていますが、実は、現実のロースクールの「本音」を代弁しているところが多々あります。

ロースクールは、「受験対策をしてはならない」とされていますが、その一方で、受験対策をしなければ合格者を増やせないというジレンマに陥っています。そして、ロースクール生の多くは、将来法律家になったときに使える知識よりも、来年、再来年の司法試験で使える知識を望んでいます。

もちろん、ほとんどのロースクール生が「法律好き」だからこそ、その道を選んでいますので、「法律家になったときに使える知識に関心がない」わけではありません。ただ、目の前に「司法試験」というプレッシャーがある以上、そのような関心よりも、「試験にすべての力を尽くしたい」という思いが優先してしまうのです。

ドラマでは、そのようなロースクール生の本音が、巧みに描かれています。

そして、柊木先生の授業は、ロースクール生が陥りがちな司法試験偏重に気づかせてくれます。

スタッフの意気込み

このドラマに対して1番感心するのは、法律ネタに対する妥協がないことです。例えば、藍井先生が授業中に読んでいる書籍1つや、発言の節々からも、「藍井先生はきっとこういう考えを持っているのかな」と推測できるようになっています。柊木先生の課題も、法律実務において必要な考え方がうまく織り込まれています。ロースクール生が持っている本1つとっても、実際に人気のある教材が厳選されています。

おそらく、制作スタッフの皆様は、法律関係者の助言を受けながら、ストーリーから小道具に至るまで、かなり細かい検討を重ねられているものと想像します。

残念なのは、その努力が法律関係者以外には「伝わらない」ことです。当然、制作スタッフもそのことは分かっていると思いますが、それでも細部へのこだわりに妥協がないのは、「ドラマへの意気込み」があるからこそだと思います。

そのように感じたことから、第1話から毎回、自分なりに気づいた法律ネタを、noteに書き留めることにしました。

月9『女神の教室』各話の考察はこちら

月9『女神の教室』を実際に視聴して、法律関係者にしか伝わらないネタや、個人的な考察を1話ごとに取り上げています。マガジンでまとめていますので、ぜひお読みください。最新話の考察も、順次更新しています。マガジンへのリンクはこちらです。

月9「女神の教室」を弁護士視点で考察する|弁護士石田優一|note

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