生涯猫派 犬を飼う⑦ 真夜中の脱走
午前1時30分。
ジンジャーが夜中にトイレに行きたいというので、寝ぼけたままベランダに向かい、ジンジャーを外に出した。
用を足したジンジャーをそろそろ中に入れようと思ったその一瞬の隙をついてステラがベランダに飛び出した。
あっ!と思ったのは私だけではなかった。
ジンジャーも体でステラを止めようとしたのだけれど、白くてしなやかな体がベランダの柵をすり抜け、闇夜に消えていった。
あー、しまった〜!出してもうた〜!!
こんな真夜中に外に出ていった猫を探すなんて愚策だ。
待ってたらきっと帰ってくるよね。
と思うのだけれど、気になってなかなか寝付けない。
ステラがすぐに帰ってきた時のことを考えてリビングのソファーで寝ることにした。
10分ほど経った頃だろうか。
バッターン、ガッターン、とそう遠くない場所から音が聞こえる。
岩か何かが落下するような、真夜中の住宅地には相応しくない音だ。
やがてそのバッターン、ガッターン!が家の玄関先から聞こえたので飛び起きた。
な、な、何事ごと?!
窓を開けると、冬眠明けのクマが各家庭に備え付けられたゴミ回収車用の大きなゴミ箱をひっくり返しながら歩いている。
回収待ちの生ゴミを漁ろうと、家庭用のゴミ箱を狙って歩いているのだ。
やばい、クマが出てる。ステラ大丈夫かな。。。
そう、私の地域では交通量は少ないものの野生動物に仕留められて行方不明になる家猫が後を絶たないのだ。
*
ベランダに出ると、まもなく満月を迎える月が闇を明るく照らしている。
「ステラー!」と呼んでみるも姿は現れない。
その代わりに、庭向かいの家の方からバッターン、ガッターンと聞こえてくる。クマが順調にゴミ箱を蹴散らして歩いているらしい。
なんの慰めにもならんわ。
そう思いながら、しばらくしてソファーに寝転がると、
今度は
「ギャアー、ミャアアアアアア!」
という、猫が何かに対峙したときの切迫した叫び声が聞こえた。
え、ステラかな?!
どうしよ、怖い怖い怖い!
ステラはバウンダリーがゆるゆるなのもあって、外に出したら生存率は高くないだろうというのは感じていた。仕留められてしまったかも。。。!
それとも発情期の猫のオス同士の喧嘩?
ベランダに出てまたもや小さくステラを呼んでみたがやはり姿が見えない。
春の満月が不気味に明るく空を照らす。
今宵はなんだか野生動物たちが興奮している気配がする。
クマやアライグマやコヨーテそして猫たちも、満月の妖気に踊らされているかのように。
*
ソファーに戻って今一度目をつぶる。
もしかしてあのベランダをするりと抜けていった姿がステラとの今生の別れになってしまった?
そう思うと泣けてくる。
あの一瞬を逃したことで、彼女の柔らかくてふわふわな体に、
真っ青な上目遣いの瞳に、
人の足の間をゴロゴロ喉を鳴らしながらくぐり抜ける時のいじらしさに
もう触れることができないなんて。
そんな風に考え出すと眠ることができなくなった。
「indoor cat run away midnight comeback」
真っ暗な部屋でブルーライトを浴びながら、安心を得たくて検索する。
ほとんどが「無事に帰ってくるから大丈夫」だったが中には「帰ってきたけど顔の半分が崩れ落ちていた」というものもあった。
結局4時まで眠れなかった。
わたしも満月の妖気に惑わされてしまった。
*
猫のストレスという回で書いたのだが、実はステラはストレスを抱えている。
ジンジャーとそれなりに楽しく遊んでいるようなステラを見ていて、微笑ましいと思っていた。
しかし、本当は嫌だったようだ。
トイレ以外でのおしっこ癖や夜中の大鳴きがどんどん悪化していった。獣医さんに相談し、よくよく観察してみてはじめて、ステラは大きなストレスを抱えていることに家族全員ようやく気がついた。
犬のジンジャーに対してストレスはわかるのだが、実は姉妹のソフィーに対してもストレスを感じているようなのがやっかいだ。
ステラは2匹に対して「No!」を言えない分、自分のテリトリーを開け渡さずを得なくなり、結果、家の中に居場所がないと感じて、あちこちにマーキング的な排泄や脱走を試みる。
わたしたちも色々考え、場所分けをしたり、さまざまなアイテムを試した。
ステラから離れるようにジンジャーのしつけを強化した。
愛情も今までの倍かけるようにした。
人に甘えることも、他の動物が近くにくるとすぐに諦めてしまう子だから。
そうしていくうちに問題行動は改善されてはきた。
だけど、根本的にはもしかしたらステラは猫好きな飼い主さんに1匹だけで飼われている方が幸せなのかもと思う気持ちがくすぶっていた。
そんな最中の夜中の脱走劇。
心配でそわそわ、そして心の中にぽっかり穴が空いている。
ステラがいないってこういうことなんだよね。
*
ようやくうとうとしかけた午前6時30分。
またもジンジャーのトイレに起こされた。
ベランダに行くと、妖気を放っていた夜が開けて、凛とした朝の空気に変わっていた。
そして、そこには、ステラがいた!!
ステラ〜〜心配したよお〜!!!
もちろん無傷で、顔も目も足も全部ちゃんとくっついている。
ステラを抱き上げ、空っぽになった心を彼女のぬくもりで埋めていると、なにも知らない家族がのんきに起きてきた。
*
ステラが外に行かなくても満足できるように、壁につけるキャットウォークのセットを買った。
あんまり主張できない彼女にかわって、私達が注意深く介入してそれぞれの快適な場所を作ってあげよう。
これで、少しでもステラとソフィーが自分たちの居場所を感じてくれたらいいな。
猫2匹と犬1匹の試行錯誤の暮らしはこれからも続きそうだ。
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