池尾優/編集者・ライター

編集者、ライター、時々ヨガを教える人。東京生まれ、20代でバンコク現地採用生活、帰国後…

池尾優/編集者・ライター

編集者、ライター、時々ヨガを教える人。東京生まれ、20代でバンコク現地採用生活、帰国後トラベルカルチャー誌「TRANSIT」副編集長を経て現在はフリーランス。2018年より京都在住。3歳と0歳の子どもと7歳のトカゲがいます。 www.yuikeo.com

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最近の記事

可視化できないことが潰されていくオンライン時代に

9月になるととたんに秋の空気にかわった。あんなにうるさかったクマゼミの声も聞こえなくなると寂しくなる。 8月はお盆でお寺さんが忙しいため、お茶のお稽古はお休みだった。この機に、今なぜ茶道なのか?私なりに考えてみた。 最近コンスタントにやらせていただいているお仕事に、"オンライン"をテーマにしたwebメディアがある。 内容はそこまでテックテックしたものではなく、オンラインの根底にある企業や人の哲学などにフォーカスしているメディアだ。 ここで取材するのは、たとえばアプリと

    • 直径3cmの中に広がる美意識の宇宙

      「今日は"拝見"をしてみようかね」 お稽古を始めて1ヶ月が過ぎた頃、先生が言った。私がお稽古でやることといえば、まだまだお菓子を食べてお茶をいただくだけ。そこに加えて、「拝見」という新たな作法を学ぶことになった。 拝見とは文字通り、掛け軸や器などの亭主が準備したものを見させてもらうこと。結論から言おう。拝見するのは大変なのだ。 例えば、床の間の諸飾り(掛け軸、生花、お香の3点セット)を拝見する際には、正座をし両手の平を畳に添え、掛け軸、生花、お香の順に見るというルールが

      • お茶会の「段取り」力

        「来週の日曜は月釜当番さかいに、あなたもよかったら来なさいね」 お稽古終わりに先生が声をかけてくれたのは、月釜へのお誘い。月釜とは毎月各地の茶室で開かれる、一般の方向けのお茶会のこと。お稽古場のお寺では、年に一回このお茶会の当番がまわってくるそうで、それが今年は7月なのだとか。 ”誰でも参加OK”の月釜。これまで気になってはいたものの、さすがに経験ゼロで行く勇気はなかった。今もまだまだビギナーゆえ不安は多いが、その月釜に行けるチケットが、それも亭主である先生公認で、私のも

        • 「控えめ」がちょうどいい

          さて、お稽古初日。 袱紗(ふくさ)、古帛紗(こぶくさ)、扇子、菓子切り、懐紙、袱紗挟み(ふくさばさみ)というお稽古に必要な6点セットを準備して、いよいよ本格的なお稽古が始まった。 この日は七夕。『平家物語』にも登場する乞巧奠(きこうでん)という七夕の原型みたいな行事があって、そこで梶の葉っぱに芸が上達しますようにとお願いごとを書いていた習わしにちなんで、梶の葉を使ったお手前が行われた。 水指(茶釜に入れたりお茶碗を洗うための水を入れておく容器)の上に、よく洗って水に浸し

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        • 茶道の向こう側
          5本

        記事

          よそさんが京都で茶道を始めたらどうなる?

          京都に住んたら、ぜひやってみたいと思っていたのが茶道だ。東京から京都へ来て2年8ヶ月、その機会になかなか恵まれてこなかったが、遂にそのチャンスが訪れた。 「一見さんお断り」「いけずをされる」「ぶぶ漬けを出される」など、“よそさん(よそ者)”を嫌うといったステレオタイプな京都気質を表す言葉がある。私も京都に住むまで、そんなことあるの?と思っていたのだけれど、実際、そういう人はいる。移住者の多いエリアに住んでいるので、そこまで頻繁には起きないが、いろんなケースがあっておもしろい

          よそさんが京都で茶道を始めたらどうなる?

          メタル(金属)を介して繋がる宇宙

          念願だったジュエリーブランドCURIOのアトリエにお邪魔すべく、神戸は六甲へ。金属の装身具を中心に制作する職人のまゆみさんが作品とともにSNSで発信するストーリーに毎回うっとりしていて、どんな方なのか会ってみたかった。 標高500mというだけあり、京都の市街地に比べて気温が5度も低い。山がすぐそこにあり、広いお庭から抜ける風が気持ち良い。そんな「山の家」というのがぴったりなアトリエで生まれる作品群は、ほぼ自然からのインスピレーションでできている。 どれもデザインは素敵だが

          メタル(金属)を介して繋がる宇宙

          2才8ヶ月の娘が語った胎内記憶らしきもの

          胎内記憶とは、母親のお腹にいた時の子どもの記憶のこと。20代の頃に妊婦&新米ママ向け雑誌の編集をしていた時期があり、記事の企画にもよく上がるトピックだったので、昔から頭では理解していた。 でも、それが我が子の体験として現れることになるとは思ってもみなかった。そもそも私も夫も第六感のようなものとはさっぱり縁がなかったし、感受性が高いとか生まれながらにして何か特別な子だけに起こるものだと思っていた。胎内記憶の研究で知られる池川明先生によると、3人に1人の子どもが胎内記憶を話すら

          2才8ヶ月の娘が語った胎内記憶らしきもの

          フリーランスと不安

          6月に入ると、コロナの影響でずっと止まっていた案件が再開したり、新規案件の連絡をいただけるようになった。とはいえ、コロナ前と比べ仕事量はまだ5分の1にも満たず、毎朝保育園に子どもを送り出す時には少し悶々とした気分になる。 京都市では、保育園のコロナ対策として、3/5〜6/14の間は登園を自粛するよう保護者に協力を依頼してきた。さらに、コロナで登園自粛した場合は、その日数分の保育料を保護者に返金するという。 だから、私と同様、これを機に改めて保育料の日割り計算をしたという保

          渡部建の浮気報道とメディアリテラシー

          これまでPrime Videoだけで頑張っていたが、自粛期間中にNetflixにも加入した。とはいえ、話題の『愛の不時着』や『ザ・キング』などにはまだたどり着いておらず(ハマるとただでさえ足りない時間がさらに無くなるのでは…という恐怖から)最近はドキュメンタリー番組ばかり観ている。 先日観た『ミス・レリゼンテーション』はとてもおすすめ。長年、女性を偏ったイメージで描いてきたアメリカのメディアによって、女性の権利がいかに脅かされてきたかに迫る。 そもそもインターネットやSN

          渡部建の浮気報道とメディアリテラシー

          コロナ自粛中に考えた、発信することの意味

          仕事の忙しさを理由に更新が止まっているのを放置し、気づけば最後の投稿から1年が経っているのを知り愕然とした。がーん。 久々に筆(手)をとったのは、簡単にいうと、書きたくなったから。やはり制御されるとやりたくなってしまう、という心理現象が人間にはあるらしい(カリギュラ効果というらしい)。コロナショックで大半の案件が止まってしまったので、溜まっていた本を読んだり、ラジオやpodcastやインスタライブを聴いたりして2ヶ月近くを過ごした。でも、どんなものを見聴きしていても、編集や

          コロナ自粛中に考えた、発信することの意味

          水無月に思う、ハレとケの食卓について

          京都生活を始めてから、街中に点在する和菓子屋さんを一つ、また一つと訪ねるのが、ささやかな楽しみになっている。店先に「さくら餅」などと筆文字で書かれ張り出された紙をチェックするのも、季節の移り変わりを感じられるから好き。 6月に入ると、あちこちの店先には「水無月」の文字が。恥ずかしながら、「6月」の名をもつお菓子があるとは(!)知らなかった。ググると、半透明のういろうの上に甘く煮た小豆をのせ三角にカットしたもので、京都発祥の和菓子とか。写真は京橘総本店さんのもので、他に黒糖タ

          水無月に思う、ハレとケの食卓について

          宇治抹茶の茶摘みは美しかった(茶園見学1)

          少し時間が経ってしまったが、5月初旬、宇治抹茶の茶摘み作業を見せてもらった。訪れたのは、宇治市内で数種のてん茶を栽培する茶園 清水屋さん。宇治で茶の栽培・製茶業を始めたのは今から300年以上前という、歴史ある茶園だ。摘み子さんによる”手摘み”と、年に一度だけの収穫(”一番茶”のみ使う)にこだわり、高品質の抹茶を作りつづけている。茶摘みで忙しい時期にも関わらず、まずは取材を受け入れてくださったことに感謝。 今回の同行者は、世界一周の旅を終え先日帰国した写真家のさやかちゃん。オ

          宇治抹茶の茶摘みは美しかった(茶園見学1)

          矢萩多聞「本の縁側」@dddギャラリー  に行ってきた

          敬愛する装丁家・矢萩多聞さんの「本の縁側」展に行ってきた。 10代のほとんどを南インドで過ごしたことからインドの伝統や風習にも明るい多聞さん。私が彼と知り合ったのは、雑誌『TRANSIT』の南インド特集でエッセイを書いていただいたのがきっかけ。穏やかで繊細で、けれどもハラの底から出てくるような太い文章はとても好きなのだけれど、これまで装丁のお仕事をじっくり見ることはなかったので、今回はそういう意味でもたまげてしまった。 会場には装丁を手がけた500冊超の本がずらり。本は、

          矢萩多聞「本の縁側」@dddギャラリー  に行ってきた