見出し画像

新潟の宝、川の跡にあり

アサザガガブタ
この二つをご存じですか?正解は植物の名前です。「いや分かるか!」という声が聞こえてきそうですが安心してください、知らない人が大多数です。アサザとガガブタはとっっっても貴重な植物です。この二つは、新潟県は新潟市北区岡方地区にある「十二潟」という潟に生育しています。

この記事では、アサザとガガブタについてとその貴重性、そしてこれらが生育している十二潟について紹介します。


十二潟とは

新潟市 潟のデジタル博物館より
十二潟のCG図

新潟市 潟のデジタル博物館

まずは、アサザとガガブタが生育している十二潟の基本情報についてご紹介します。
十二潟は新潟県新潟市北区灰塚にある潟で、面積は約6haです。6haと言われてもピンとこないと思うので、よく比較で使われる東京ドームと比べてみましょう。東京ドームの面積が約4.7haなので、それより少し大きい感じです。上のCG図のように三日月の形をしていることから、三日月湖というタイプに分類されます。潟は左から順に「下池」、「中池」、「上池」と呼ばれます。


かつて、濁流あり

新潟市には「阿賀野川」という川が流れています。実はこの阿賀野川が、十二潟誕生に大きく関わっています。

阿賀野川河川事務局より
1713年頃の阿賀野川

阿賀野川河川事務所

かつての阿賀野川は、上の図のように大きく蛇行していました。そのため、大雨での洪水の際はすぐに川から水が溢れ、川周辺の住民は水害に悩まされていました。そこで、阿賀野川の流れを変える改修工事が行われ、今の阿賀野川になりました。その過程で阿賀野川から切り離されて残ったのが十二潟なのです。現在の十二潟の形になったのは1818年頃だといわれています。十二潟が三日月の形をしているのは、十二潟が川の蛇行した部分そのものだからなんです。このことから、十二潟が「古阿賀」なんて呼ばれることもあります。
十二潟はかつての阿賀野川の面影を残す唯一の場所なのです。

十二潟は生活に欠かせない場所

そんな古阿賀こと十二潟は地域住民の生活とどうかかわっていたのでしょうか。今回、十二潟の近くに住んでおり、NPO法人「いいろこ十二潟を守る会」の理事長でもある、山崎敬雄さんにお話を聞くことができました。

山崎敬雄さん

山崎さんが子供のころ、十二潟でどんな遊びをしていましたか?

「学校が終わるとすぐに十二潟へ行って釣りをしていました。フナやコイがたくさん釣れました。昔の十二潟は今の3倍くらい広かったんですよ。私の時代は小学校(近隣の岡方第一小学校)にプールがなかったので、潟で水泳をしていました。冬になると潟が凍るので、スキーやスケートをしていました。当時は農業機械がなかったので、牛や馬を使って田んぼを耕していました。それが終わった後、牛や馬を洗うためにも潟を使っていました。子供も大人も十二潟を使っていたんです。」

今の十二潟は岡方地域にとってどんな場所ですか?

「昔の水生植物が残る唯一の場所だと思います。昔の田んぼの水路は土でできてて、ドジョウとかが住んでたんだけど、今はコンクリートで舗装されているから生き物が住めなくなっています。だから、十二潟は昔からの生物が残る貴重な場所なんです。」

十二潟をどのような場所にしていきたいですか?

「開発などはせず、今の環境を維持していきたいと思っています。夏はアサザやガガブタが開花するし、冬は野鳥が飛来するから、自然のまま残していきたい。最近はカエルやモズクガニ、フナなんかが少なくなってきて、ライギョやクサガメだけが残っているから、これ以上減らないようにしたい。」

どのようにして自然を守っていきますか?

「外来種の駆除をしていますが、一つの種を減らすとほかの種が勢力を伸ばすので、苦労しています。また、最近はヒシが大量発生しているのでその回収も行っています。ヒシの回収は、潟船という手漕ぎ船に乗って行っています。

潟船

さらに、近隣の岡方第一小学校の児童と十二潟の学習を行うことで、十二潟を次世代へつないでいきたいと思っています。十二潟の生態系の調査や水深の測定を行うことで、環境保護につなげていきたいです。児童が生態調査を行う際にも潟船を使いますが、最近はヒシが多くて漕ぐのが大変です。(笑)」

山崎さんのお話から、十二潟は単なる遊び場ではなく、地域住民の生活になくてはならない場所だったということがわかりました。「地域の宝」だったということです。
山崎さんは終始笑顔で明るくお話しくださいました。山崎さん、ありがとうございました。

アサザとガガブタ

ここからは、冒頭でお話ししたアサザとガガブタについてです。

アサザ

アサザ 「いいろこ十二潟を守る会」ホームページより

アサザは黄色い花弁を持ち、葉はギザギザし、割れ目が閉じています。開花時期は8月~9月、県の絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。花弁は晴れた日の午前中にしか開かず、午後には閉じてしまうという変わった特徴があります。しかも、曇りや雨の日はそもそも花弁が開きません。これからがちょうど開花時期ですが、天気予報はしっかり確認したほうがよさそうです。

等花柱花(とうかちゅうか)

アサザはおしべとめしべの長さで二つに分類されます。一つはおしべが短くめしべが長い「長花柱花」(ちょうかちゅうか)、もう一つはおしべが長くめしべが短い「短花柱花」(たんかちゅうか)です。アサザは基本、この異なる二つのタイプ同士が受粉しなければ、種子ができません。
しかし、十二潟に生育しているアサザはこのどちらのタイプにも属していないんです。十二潟のアサザは、おしべとめしべの長さが同じ「等花柱花」というタイプになるんです!この等花柱花のアサザは、自分だけで受粉し種子をつくることができます。なぜ十二潟のアサザがこのようになったのかはわかっていませんが、非常に貴重であることは間違いありません。ちなみに、この等花柱花のアサザは全国に十二潟と、茨城県の霞ケ浦にしかありません。まさしく「新潟の宝」なのです。

ガガブタ

ガガブタ 「いいろこ十二潟を守る会」ホームページより

ガガブタは白い花弁を持ち、葉はなめらかで割れ目が開いています。ハートの形に似ています。開花時期はアサザと同じ8月~9月、県の絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。


現在の十二潟

十二潟下池側

現在の十二潟は、下池側にこのような観察デッキや案内板が設置され、潟の様子が観察しやすいようになっています。

十二潟の案内板
観察デッキから潟の上を歩くことができる

観察デッキからの景色です。

この写真を撮ったのは7月下旬だったので、水面には植物の葉が大量に浮いていました。

この水面に浮いている葉はすべてアサザの葉です。これから黄色い花が潟一面に咲き誇ります。十二潟は県内最大のアサザの群生地です。
と、写真を撮っていると、葉の隙間からこんな花が見えました。

これは「コウホネ」。アサザと似ていますが、これは花、葉共に水面から出ているのが特徴です。開花時期は6月~9月です。


十二潟に来てみない?

いかがだったでしょうか。新潟の宝である十二潟とアサザ、ガガブタの貴重性と保全の必要性が伝われば幸いです。また、これらについて少しでも興味を持っていただけたのなら、これ以上うれしいことはありません。次はぜひご自身の目で十二潟を見ていただきたいと思います。これからの時期はアサザ、ガガブタが咲き始めるのでぜひ十二潟へ来てくださいね。

住所:新潟県新潟市北区灰塚1343 JR新崎駅から車で約10分

参考サイト

http://www.niigata-satokata.com/wp-content/uploads/zyuni-guidebook.pdf


あとがき

実は筆者、岡方第一小学校出身で、十二潟の学習を行っていました。今回の取材で、当時のことを思い出して懐かしくなりました。筆者は「全国川サミット」という発表会に岡方第一小学校6年生として出席したことがあります。その際も十二潟とアサザ、ガガブタの貴重性について発表しました。その時の経験が今生きてくるのは感慨深いものがあります。
最後に、今回の取材に快くご協力くださった岡方コミュニティセンターのセンター長、坂井様、NPO法人いいろこ十二潟を守る会理事長、山崎敬雄様、本当にありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?