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「憧れの印税生活」 〜出版までの道のり〜 中山祐次郎

(前回までのあらすじ)
河でおさかなをとって好きに暮らしていたぼくに、「本を書きませんか」と依頼をよこした幸薄そうな編集者さん。なやみながらもオッケーしたところ、彼は印税、つまりぼくに入るお金について語りだした。

※ ※ ※

ニューオータニのバーで、彼はシガーを咥えながら言った。
「…で、印税は13000部の10パーセントだ。ただし始めからお前さんに全部は渡せねえ。わかるよな?」
ドスの効いた声でそう言うと、彼は使い古されたジッポをかちゃかちゃ鳴らした。

「いいかい」

そう言ってぼくの目を覗き込むと、
「初めに渡せるのは7割だ。重版になったら残りの印税と重版の分の金もくれてやる」と言った。
「なるほど、面白いシステムですね」
ぼくがそう言うと、
「だろ」
そう言って煙をうまそうに吐き出した。(Sかぐちさんのキャラは一部脚色してあります)

ふつう、出版すると同時に「印税」と呼ばれる執筆料をもらう。基本的には本の価格の10%なので、1冊売れるたびに700円の本なら70円、1500円の本なら150円だ。それに、かける初版の部数だ。
昔は初版3万部なんてよくあったみたいだが、いまは5000部とか8000部がいいとこだ。少ない時は3000部なんてこともあるらしい。

ぼくの本は900円位になるだろうから、初版9000部とすると僕の印税は81万円になる。多いとお思いだろうか?
もしぼくが執筆だけで食べていこうとしたら、この本を年に2冊書いてもまだ年収162万円だ。さすがにこれでは自分と家族を養っていくことはできない。ベストセラーと言われる3万部になったって、243万円だ。「出版不況」というのは本当で、本を毎年出してもこれぐらいの収入にしかならないのである。

ちなみに、普通は1冊800円で初版7000部だとしたら80円x 7000=56万円が最初に筆者に入る。このソフトバンククリエイティブという会社は、初版は13,000部とたくさんにしますけど、売れなければ(=重版にならなければ)8000部くらいの印税しか渡しませんよ、そして売れたら(重版になったら)残りの5000部ぶんの印税も渡します、というシステムだ。これはちょっと珍しい方法だけど、初めに13,000部で全国の本屋さんにバッと配れるので、話題にもなりやすい、というような意味で効果的かもしれない。


話を戻すと、結局のところ「憧れの印税生活」なんて夢のまた夢なのだ。

ぼくがもう一つ不思議に思うのは、本を書いた筆者に10%しか入らないという点。他のクリエイティブな仕事を知らないけれどもいくらなんでも10%は少な過ぎるのではないか。まぁこれはぼくの感覚なのだけど。

そう考えると、ぼくは書くコストを最小化したいと思う。今本を出している有名人のほとんどは、ライターが10時間ほどインタビューを行いそれをライターがまとめて書いている。かと言ってぼくは一応もの書きを自称しているので、ライターさんにお願いするのは性に合わない。

そこで、ぼくはこの本を「音声入力」を使って書くことにした。
そうすれば、「執筆にかかる時間」というコストを大幅に削減できる。音声入力はアップルもGoogleもかなり高いレベルでできるようになってきた。10年前のいったい誰が、この連載をハワイのホテルのプールで泳ぎながら書いていると想像できただろうか?(すみません、いま新婚旅行中です)

そしてさらに、ぼくは本が確実に売れるように戦略を考えたのだ。それは、本の出版までの過程をスケルトンにし、読者参加型の本にしようという作戦だ。本っていつも、とつぜんfbとかで「出版しました!」なんて報告がある。びっくりして「ほえー、あの人も本書いてたのか」なんてなり買おうかどうしようか考えるのだ。

そうじゃなく。

そうじゃなくて、執筆して悩んでいることとか、編集者さんと喧嘩したこととかも全て晒しつつ本当に8月に本が出る、というスタイルがいいんじゃないだろうか。

ぼくはそう思い、編集者さんの許可を得ることにした。

第四回に続く)

※この連載は、2018年8月に出版した「医者の本音」(SBクリエイティブ) の、執筆依頼を頂いたときから出版までのいきさつをリアルタイムに記録したものです。アマゾンリンクは↓こちら。kindle版もあります。






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