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夢の話 死を見た日


目が覚めると自分の意識と身体は別々に存在していた。
自分の身体がそこに横たわっているのが見える。
動かなくなった私の身体を家族や親しい友人達が囲んでいる。
私はちゃんとここにいるのに。
肩を震わせながら俯く友人、突然のことにあっけにとられたような両親。
父はステージ4の肺がんを患っており、相変わらず具合が悪そうだ。
そうかこれが「死」というものなのだと悟った。

私の身体はといえば、特に外傷もなく、ただ眠っているようだ。
そうだ、だって昨夜もいつもと同じように眠ったのだから。
しかし、なぜ私の意識は身体から離れてしまったのだろう。
死因は何だったの聞きたいのだが、みんなには私の声は届かない。

そこへ背の小さい小太りのおばさんがやってきた。
彼女の存在は、私にしか見えていないようだ。
おばさんが言うには、彼女は「次の世界」への案内人らしい。
出発が近いので、今のうちにみんなに別れを言ってきなさいと。
それから火葬の際、棺に入れた物だけは次の世界に持っていけると。

「死」というのはこんなに手ごたえのないもので、
そして「次の世界」とやらに進む通過点にしか過ぎないのか。
あまりのことにどう受け止めたら良いのか、特に感情もわかない。

泣いている友人達に、
「大丈夫!私全然痛くも痒くもなかったし!
気づいたらほらこの通り。身体と中身が別々になっちゃってたってわけ!
全くやんなっちゃうよね。」
などと、おどけてみせる。

「父さん、父さんまで死んだらあの人(母)一人になるから、
死んじゃダメだよ!私は大丈夫だから、心配しないで。
なんかよくわかんないけど、次の世界とやらに行ってくるね!」

棺に遺品を入れようとしている母に
「ここに入れた物は次の世界に持っていけるんだって!
どうしよう、あのカシミアのセーターとウールのコートは持っていきたいよね。ポールスミスのやつ。それからAに買ってもらったお気に入りのリング。それから、あの本とこの本と…どうしよう、決められないんだけど。
棺もっと大きいのにしてくれない?」

棺に入れるものに迷い喚いているところで、
目覚める。今度は身体と意識は一緒だった。
それに父さんは5年前にその肺がんで死んだのだった。あの死にかけで苦しんでた父によくあんなこと言ったなと、相変わらずのデリカシーのなさに我ながら呆れる。

いま、隣にはAがかすかな寝息をたてて、眠っている。
心から安堵と幸せを感じた。
死は怖いものではないようだ。だけど、まだまだ彼の体温を感じながら目覚める幸せを味わっていたい。

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