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ルポ・空港とモラトリアム

松山空港の出発ロビーは、根無し草たちでごった返していた。
きっとここで聞こえる四国訛りも、東京に到着した瞬間空間移動の洗礼のようき、人々のコミュニケーション空間からすっと消えていく。
羽田行きの飛行機は機材点検のために、30分以上も遅れるというアナウンス。
どよめきが起きる。
短絡的なのだ。
私は思った。
8月になると、恒例のようにテレビから吐き出される黒焦げになった機体の残像が脳を掠め、機材点検という大衆的パッセンジャーとは隔絶されたプロセスが、乗客ひとりひとりのストーリーと情動を左右するということが、私には強迫のように思い出される。

巨大な金属の鉄の塊が、プロパンガスを吐き出しながら宙に浮かんで、ひとりひとりの身体と、そして情動を運んでいく。
技術という言葉に覆い隠された、安全神話と言ってもいいだろう。
点検、遅延、人々の身体、周縁化された四国の片田舎から東京へ行くことがロビーには詰め込めれていて。
飛行機は脆い。
でも、人生のストーリーがこの金属の塊に委ねられている事実は、もっと脆いと定義できるかもしれない。

東京に帰る前日は、ひどく不安定だった。
情緒の落ち込みはひどく、子宮に刺すような痛みを感じて気絶しそうになり、呻き声を上げた。
救急を呼ぼうとした両親を、婦人科は土曜でも東京なら空いてるよ、とふわふわと言いながら制した数時間後、空港で点検不備のあるらしい飛行機の遅れを待っている。

保守的な土地なのだ。
どよめきいても、乗務員につっけんどんに問い詰める人なんていない。
仕方がない、と無為に重い、床に座り込んで待っていた。

子宮はズキズキと痛む。
福岡便も伊丹便も次々と出発していく。
青い航空会社の中で、四国の片田舎は周縁化され、その地域的階層から滑り落ちてしまったみたいな錯覚に陥る。
土地の保守的感と、東京便への遅延と、ロビーの倦怠感が、グロテスクに絡み合う。
この偏狭な乗客の共同体と、金属の塊と、航空技術への危うさと不信感は私の気分を落ち込ませて、
東京に帰った後に、私を待っている蒸し暑い日常と、子宮というある種グロテスクな身体機能への検診を心理的に遠のかせている。
いいことか、わるいことかという次元のことは考えない。

保守乗客共同体には、モラトリアムが生じていた。
わたしにも、東京というクラムジーな、そしてマグネットのような大都市への帰還へのモラトリアムを手に入れた。
センスを感じない、柑橘をモチーフにしたキャラクターの笑顔と穏やかな瀬戸内の巨大看板を(きっとこういうのは、あっても無くても関係ないような広告というやつだ。)ぼんやり眺めてこの土地への愛憎をただ無為に深めてしまっていた。
子宮がちくりと痛んだ。
ガラスの窓を隔てた両親に、精一杯笑いかける。

#ルポ
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#モラトリアム
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#飛行機
#あの夏に乾杯

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yuu.murakami

文系M1/興味のあることはフェミ、英語教育、お笑いと。/西日本出身のお笑いフリーク。

りょこうき

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