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森のような空港

 KLIAの国際線出発エリアで、帰国便を待っていた。
 高い天井に不規則に埋め込まれた照明からこぼれ落ちる光が木漏れ日を思わせる。広い空間を貫く柱も、白い塗装の人工的な質感とは裏腹に、まるで木の幹のように感じられた。
 数日前に降り立った到着ロビーはガラスのすぐ向こうまで鬱蒼と茂る木々に囲まれ、温室を外から眺めているような、反対に人間が温室の中にいて木々がそれをとり囲んでいるような、不思議な気分になったものだった。「森の中の空港、空港の中の森」をコンセプトとした黒川紀章の設計だ。

 クアラルンプールは都市部にも緑が多い。
 成長が早くて巨大に育つマメ科の街路樹が至る所に植えられていて、街を歩いていると時々、遠近感が日本の基準からズレる。棕櫚が扇のように葉を広げているのもいかにも南国らしい。街路樹の足下には下草が生えているし、公園や広場も多い。
 白やベージュを基調とする幾何学模様の美しいイスラム建築と、緑の木々や鮮やかな花の色の取り合わせの美しさには、ため息を禁じ得ない。
 東京の街路樹はそこまで大きくないし、植え替えられたばかりのほっそりした樹も多い。湿度が高くじっとりと暑い日にはクアラルンプールの木陰を恋しく思う。

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