見出し画像

底なしの青い空

 マドリードを訪れたのは10月のはじめで、気候はだいたい東京のような感じだった。
 涼しいけど寒くない。朝晩は肌寒く上着が必要だが、天気の良い日に日なたを歩くのには少し暑い。シャツに薄いニットを着て歩いた。
 ホテルから大通りに出て、広場に続く緩やかな石畳の道を下る。朝なので人のいない広場を通りすぎ、ぶらぶらと歩いて行き、瀟洒なお屋敷が並んでいるところを曲がれば、マドリードの王宮脇の広場に出た。
 だいぶのんびり散歩してきたが、まだ道路清掃の車が止まっている。邪魔にならない距離を取っていたが、掃除夫がこちらの足下にホースを向けた。水の勢いが強く、また路上を流れる水もだいぶ遠くまで届くので、瞬く間に靴の下の石畳は濡れて黒くなった。水の流れる路面を慌てて歩いた。

 この王宮は正面から見るとそんなに大きくないように見えるのだが、こうやって裏手からぐるりと回るとなかなか広い。白っぽい壁に均等に窓と柱が並び、屋根の辺りはやや豪華な飾りになっている。なんとなく、四角いバタークリームのケーキを連想した。
 秋のマドリードの空はとにかく深い。見上げているとそのまま吸い込まれそうな、空の深い淵に落ちていきそうな感じがする。
 白いケーキのような王宮とよく似合っていて、それはそれは美しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?