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病院M&A時代が来る。その時あなたは?

はじめに、診療報酬を知ってほしい理由。

こんにちは。
元看護師、現在病院経営コンサルタントをしているさわだです。

これから、医療従事者向けに診療報酬の情報をまとめてnoteで発信することにしました。診療報酬ってとっつきにくいけど、現場で働く医療従事者の方にこそ、知ってほしいからです。

私も臨床時代、診療報酬が苦手でした。日勤後に診療報酬改定のセミナーに行くだけ行って、途中で寝てしまい、起きたらだれもいなかったこともあります。そのくらい興味がありませんでした。

ですが病院は「診療報酬というルールの元で収益が上がり、給料が支払われる」という、他の企業とは圧倒的に違う体質を持つ組織です。
診療報酬を知らないということは、何をしたら収益にマイナスになるのか?プラスになるのか?ということを知らないということです。もしかすると今あなたがしていることは圧倒的に赤字を増やす行為かもしれません。赤字が続くと当然病院は運営できなくなりますから、地域で医療を継続的に提供したいのであれば診療報酬を絶対に学ぶべきです。

あともう1つ知ってほしい理由があります。ここから医療ニーズのピークと言われる2025年問題を乗り越えるために、医療制度周りは目まぐるしい変化が予想されます。その時にベースの知識がないと、議論にすら参加できません。カネカの育休問題がtwitterで大きく問題になりましたが、知識がないと自分達に大きく影響することなのに「この制度はダメだろ!今こそ声をあげるんだ!」とアクションもできないのです。

とはいえ診療報酬の情報は文字が多くて目が超チカチカしますし、結構つまらないです。笑 私も今でこそ診療報酬を読むと面白いなと思いますが、面白いなと思えるまでに5年かかりました。そこで、診療報酬をものすごくかみ砕いて解説をして、自分事としてとらえる」お手伝いができればなと、noteを始めてみることにしました。読んでみて色々ご意見あると思いますので、いつでも連絡ください!

twitter:@813_yuka_sawada

さて、第1回は「地域医療構想」について書こうと思います。

1.地域医療構想とは?


地域医療構想は、医療従事者として医療機関に勤務するのであれば知っておくべき情報です。
もう知っているよ~!という人は、最後の「5.お役立ちリンク」だけどうぞ!!

まずはこのニュース、知っていますか。

6月5日に、医師不足による運営難に直面している大阪府三島救命救急センターが、医師の人件費などに充てる運営費2000万円を、インターネットで寄付を募るクラウドファンディングで集めると発表しました。

そして6月11日に、6日で達成しました。

運営会社によると「これほど高額が短期間で集まるのは極めてまれ」とのことです。三島救命救急センターは高槻市唯一の三次救急施設であり、その存続は地域の住民にとって非常に重要な意味を持ちますし、地域医療への貢献度は計り知れません。

このニュース、私は「医療者」と「患者」側で大きく反応が違ったと思っています。

患者は「(お世話になった/必要だから)なんとか存続してほしい」
医療者は「2000万で何するの?」「そもそも医療行政は何しているの?」

私も医療者側の考えで、今回のクラファン2000万円だけではおよそ医師1名分の金額であり、継続的な効果は残念ながらないと考えています。今回の大減収の原因となったと記載のある院内感染再発防止策や労働環境改善を含め、経営状態の立て直しに相当な努力が必要であることは間違いありません。

その改善策の1つとしてでしょう、三島救命救急センターは、3年後に運営主体が「学校法人大阪医科薬科大学」へと変わることが決まっています。つまりは、三島救命単独の単独運営から、大阪医大附属病院との併設運営へ変更とする、ということです。

これは地域医療の再編と言えます。

地域医療の再編に関しては、5月31日に、経済財政諮問会議という場で有識者が「診療報酬の加算・減算により病床機能の再編や病床削減を進めよ」との見解を示しました。つまり地域医療の再編に予算をつけて各病院が進めやすいようにしてはどうか?というものです。

なぜ国が予算をつけることを検討するほど、病床機能の再編や病床削減を後押ししなければならないのでしょうか?

理由は「財政」と「高齢化の地域格差」にあります。

皆様ご存知の通り、今日本の財政は厳しい状況にあります。下記は債務残高の対GDP比を主要先進国で比較したものですが、日本は主要先進国の中で最悪の水準です。

そして、今後も債務は膨れ上がることがわかっています。人口が爆発的に多い団塊の世代が後期高齢者となり、医療費が爆発的に増加する所謂2025年問題が待ち受けているからです。

また、高齢化の状況は地域によって大きく異なり、東京・大阪・神奈川・埼玉・愛知・千葉・北海道・兵庫・福岡で、2025年までの全国の65歳以上人口増加数の約60%を占めることがわかっています。都市部の高齢化が進み、地方では過疎化が進みます。高齢化がピークを迎えた地方では、人口減少に伴って高齢者人口が減少に転じ、医療・介護ニーズも縮小していくと言われています。このため、地域ごとに医療提供体制を考えていく必要があります

お金もないし、医療ニーズも増えるし、しかも地域によって医療ニーズの増え方、減り方は全然違う…こんな状態ですので、限りある資源を最大限効率的に使い超戦略的に医療提供体制を整える必要があります。

ではどう医療提供体制を整えるのでしょうか?
国が目をつけたのは、病床です。

まず日本は諸外国に比べめちゃくちゃ病床数が多いです。そして病床数は入院医療費と相関関係にあります(R²=0.6615)。

引用:令和時代の財政の在り方に関する建議(令和元年6月19日)

こうした背景を受け、将来の人口や高齢化率などを元に2025年に必要となる病床数を機能別(急性期・回復期等)に推計し、地域の医療関係者での協議を通じて病床機能の最適化(機能分化)と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取組みが開始されました。

この取り組みこそが、地域医療構想です。

尚、状況は地域によって大きく異なるため、地域医療構想は医療計画の一部として都道府県が主導権を握って進めています。
(参考:全日本病院協会

そして、この地域医療構想の進捗が芳しくないことが、国が予算をつけてまで病床の再編・削減を検討する理由です。

2.地域医療構想が目指す「医療提供体制」とは

 現在は日本全体でみると急性期病床が過剰であり、回復期病床と在宅機能が大幅に不足している状態です。国は2025年のニーズは急性期病床が3床に1床減り回復期病床が3.4倍に増える推計を提示しています(対2013年度)。3床に1床って、ほぼ全急性期病床が意識しなければならない数字です。。

推計上はかなり大規模な病床再編でありますから、進捗管理が要となります。その要である進捗管理の手段の1つとして、病床機能報告制度というものが開始されました。
 病床機能報告制度では、病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」に分け、それぞれ自院にどのくらいあるか、を病院が報告します。

この病床機能報告の平成30年度の結果が、5月13日に出ました。

報告内容は「地域医療構想は徐々に進んではいるが、今のスピードでは2025年問題に間に合わない」と言える結果でした。

例えば東京は回復期病床が極端に少ないので(下図)、後方連携を担当する看護師やMSWらが疲弊してしまっているのではないでしょうか…。患者さんも、急性期度の高い病床から一足飛びに慢性期病床に転棟せざるを得ないパターンが多いでしょう。理想としては急性期から一度回復期病床を経て、段階的に慢性期に移行していくべきです。

赤:高度急性期 橙:急性期 黄:回復期 紫:慢性期

この結果を受けて、「(もっと強力に進めないといけないから)診療報酬の加算・減算により病床機能の再編や病床削減を進めよ」との発言につながるわけです。

個人的な見解で恐縮ですが、2025年に向け医療提供体制の再編が急務であることをふまえ、報酬化される可能性は高いと考えます。安倍晋三内閣が閣議決定した骨太方針2019においても地域医療構想実現に向け「国による助言や集中的な支援を行う」とあります。(6/27追記:ただ報酬化されてもしょっぱいインセンティブである可能性も高く。過度な期待は危険です!)

報酬化されると、やはりインセンティブが働くので、病院が病床の再編・削減に動きだすでしょう。現在、経営状況が悪化している施設では既にM&Aを検討していますし、実際に事例も出てきています。必要に迫られて事例が出始めてきている中で、更に2020年改定にて報酬化されれば、病床の再編・削減の波が来るだろうと推測できます。

3.再編・病床削減の有効な手段「病院M&A」

実際に再編・病床削減をする際、有効な手段の1つとなるのが「病院M&A」です。病院M&Aが有効な理由は主に下記3つです。

理由1:病床再編の規模が大きい
先述の通り推計病床数はかなりストレッチです。これほど大規模な病床再編ですから、とても病院単独では達成できません。シームレスな医療を提供するためにも、地域全体で、隣の病院と手を取り合って考えるべきです。

理由2:収益の頭打ち→固定費シェアのメリット
2025年問題に向けて様々な打ち手をとっている診療報酬ですが、多くの地域では2025年が医療需要のピークであり以降は医療需要は低下します。収益は頭打ちになります。そうすると、病院経営的には費用の方を工夫して利益を出すしかありません。病院統合では、他施設と人財や医療機器等の固定費シェアが可能です。固定費を単独経営よりも抑えることができるのです。
参考:http://jmap.jp/pages/guide

理由3:症例数の集約化による「医療の質向上」のメリット
症例の集約化が進めば、当然医師や看護師の経験も積まれ、医療の質が向上します。高い医療機器等も症例数が一定程度いれば購入に踏み切れることもあるでしょう。
参考:In Search of Higher Value in Medicine in Japan and in the US,” (2015), Denis Cortese, MD; Natalie Landman, PhD; Robert Smoldt, MBA; Sachiko Watanabe, MHSA; Aki Yoshikawa, Ph.D

主にこれら3つの理由から、
病床再編・削減が進むなら、病院M&Aが有効な選択肢であり、2020年以降病院M&Aが増えるのでは!?
と考えられます。

4.まとめ

日本の財政状態が悪化の一途であり、更に超高齢化社会(地域格差大)の医療ニーズが押し寄せる。この状況を受け、最大限効率的に地域医療ニーズに対応する必要がある。
そのための医療提供体制を整えるべく地域医療構想が開始されているが、「効率的に医療ニーズに対応できる」とされる推計病床数と現在の医療提供体制はかけ離れており、次回改定で病床再編・削減に加算/減算がついて病床再編・削減が大きく進む可能性がある。
そして、病床再編・削減するなら病院M&Aは有効な選択肢の1つ。
⇒2020年以降は今まで以上に病院M&Aが活発になるのでは

とても大きな話ですよね…。「点」ではなく「流れ」で、そして「今後」を知っておいてほしいランキング第一位のネタだったので、第一回目としてまとめましたー!

5.お役立ちリンク

➀病院M&Aに興味を持ってきたら、ハイパー読み応えありますがこちらの資料が最高にまとまっており超勉強になります。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/dl/houkokusho_h22_gappei_02.pdf

②「収益頭打ち」で参考にしたこちらのサイトでは各地域の医療・介護ニーズの伸びをさっくり分析できます。神サイトです。
http://jmap.jp/pages/guide

③地域医療構想を今回は超かみ砕いた(つもり)でまとめてますが、もうちょっと難しくても大丈夫だからもっと教えてっていう方はこちらのサイトが勉強になると思います。
https://www.ajha.or.jp/guide/28.html#p1

ちなみに地域医療構想に関してはその目的の大きさから、構想区域や推計方法等本当に様々意見や見解があります。今回は最もオーソドックスな資料を中心にまとめています。(例えば”病床機能報告の質”の問題とかもありますが、今回は割愛)

指摘などあれば、twitterに連絡下さい^^

ではまた!

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