第1章 ゲーム理論導入

ポーカーが今よりも進歩していなかった時代、間違った方法で対戦相手を上回ることができました。基本的に対戦相手より良い「1つのハンド」をもって利益をだしていました。しかし最近では、たくさんの教材によって全てのプレーヤーのゲームが改善されてしまっています。以前のやり方で利益を出すことが非常に難しくなってきているのです。大きな間違いを犯すプレーヤーはそう多くいません。今では、弱いプレーヤーでさえ大体「マルチウェイでのQハイフラッシュは強くない」ということ、「ドローの多いボードでのトップセットがとても強いハンドではない」ことを知っています。ゲームははるかに理論的になり、とりわけゲーム理論の影響が大きいです。いわゆるGTO(game-theoretic optimal approach)戦略、対戦相手のどのような対応にもつけこまれないことを目指した戦略です。

第1章では、あなたのPLOを改善するために、ゲーム理論という重要なトピックに注目していきます。原則となる2つが、GTO戦略と搾取的(exploitative)戦略です。ただし、あくまでこの本はPLOをメインにあつかっているので、この数学的で理論的なトピックについてはそれほど深く掘り下げません。ポーカーのゲーム理論に関する著書はたくさんありますので、この本では導入にとどめます。

ではまず、ゲーム理論的観点からポーカーというものを再評価していきましょう。ポーカーは不完全情報ゲームに属します。カードはただ単に配られるもので、それ自体は何も決断しません。従って、「決断の質」こそが勝者と敗者を分けることになるのです。

勝っているプレーヤーは、勝っているハンドでより大きく勝ち、負けている時は小さく負けています。そのウィンレートは決断の質に基づいています。配られたカードによるものではありません。短期的に勝っている人間はひょっとしたらよいカードばかり配られていたのかもしれませんが、長期的視点から見れば意味のない議論になります。あなたのウィンレートを上げるためには、1ハンドが対戦相手より良いというだけではいけません。全体的な決断の質を改善しないといけないのです。

ポーカーは決断の連続です。テーブルに座りプレイを始めたときはもちろん、それ以前から実はたくさんの決断があるのです。このテーブルでプレイする事が利益的なのか?自分より良いプレーヤーしかいないのではないか?いいポジションにつけるか?強いプレーヤーが左に座ってしまって難しい立場になってしまわないか?このステークスをプレイするのに十分なバンクロールはあるのか?いちかばちかのギャンブルになってしまっていないか?自分は良い精神状態にあるのか?ちゃんと集中できているか?等、たくさんの疑問があります。このあたりのことは後の章で解説します。

ゲームが始まったらあなたにカードが配られ、ブラインドをポストしなければいけません。もう決断に迫られています。フォールド?コール?レイズ?同じことが全てのプレーヤーにも言えます。それぞれのプレーヤーは決定木(フローチャート)をもっていて、チャートは”フォールド”で終わります。もしあなたがブラインドにいてフォールドを選択すれば、ブラインドを失ったという結果に終わります。コールを選択すれば、他のだれかがレイズするかもしれません。あなたにまた、選択を強いてきます。フロップに辿りついたとして、そこでまた決断しなおします。フォールド?チェック?コール?もしくはレイズ?ターン、リバーでも同じことが言えます。

以上のようなことは、まだ”戦略”と呼べるものではありません。ただのゲームの進行です。あなたがテーブル上の様々な情報を基にしはじめたとき、それは”戦略”と呼べるものになるでしょう。例えば、あなたのポジション、ホールカード、他プレーヤーの傾向などです。あなたが更に戦略を築いていこうとするときに、いくつかの仮定を立てます。例えば、UTGのRFIを15%に、BTNのRFIを50%に、そしてブラインドは40%レンジをディフェンスするとします。フロップは、マージナルなハンドはコールし強いハンドと弱いハンドでレイズ、ターンは20%のレンジでブラフしようか、などなどそういう事です。終わりが見えないほど、様々な選択の枝分かれがあります。

あなたは対戦相手に応じて、様々な戦略を使い分けます。EVを最大化するために、ゲームプランを変化させていくのです。理論上は、全てのポジションにおける全てのスターティングハンドで完璧な結果があるのかもしれません。AK5r(レインボー)ボードやT98モノトーンボード、422ボードをどうやってプレイするか。ターンにおける相手のチェックレイズやリバーでのポットレイズにどう対処したらいいのか、など。

言うまでもないことですが、複雑なポーカーというゲームにおいて、全てを体系立てることは不可能です。オマハにおいてはなおさらで、270725通りのスターティングハンドを、起こり得る全てのシナリオ(テーブル人数、相手の傾向、スタックサイズなど)、フロップ、ターン、リバーの組み合わせ(2598960通り)及び様々なベッティングパターン全てに適用させることなどできません。

通常、ゲームを学ぼうとするときは、どうプレイしたらいいかの曖昧なアイデアくらいしかありません。よって、勝っているプレーヤーのスタイルを真似たり、インターネット上のいろいろな戦略記事を参照します。しかし、ただ真似るだけでは勝つことなどできません。全てを真似ることなど不可能なのですから、あなた自身のゲームプランを立てなければいけないのです。

完全なゲームプランというものが存在しない以上、ゲーム理論的アプローチをベースにして決断していかないといけません。もちろんベースとなるものは1つだけではなく、利益を最大化する戦略は様々にあります。

2つの戦略があります。exploitative(搾取的)戦略とgame-theory-optimal(GTO)戦略です。どちらの戦略にも異なるメリットがあります。良いプレーヤーはどちらも身につけなければいけません。弱いプレーヤーに対しては搾取的(EXP)戦略を、強い、良く思考しているプレーヤーに対してはGTO戦略を選択します。しかし結局この2つはコインの裏表のようなもので、どちらも最終的には期待値を最大化することを目的としているのです。


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