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なぜパラスポーツ団体のバックオフィスを作ったのか(34/100)

こんにちは、まえゆかです。

昨日は「渋谷の体育会」の収録でした。
元車いすラグビー日本代表、現パラサイクリング選手の官野一彦選手がゲストに来てくれました。
痺れる1時間だった・・・聞いたらきっと元気になって明日からの活力の湧く話なので、公開されたらぜひご視聴ください!

前回のふりかえり

この前、パラスポーツとは関係ない記事でこども哲学のことを書きましたが、マガジンとしての前作は、パラスポーツ競技団体向けに共通で用意したバックオフィスサービスの概要についてでした。

今回は、なぜこのサービスを作ったのかについて触れたいと思います。

ニーズはあったのに利用団体がいない!

意気揚々とリッチに作ったサービス。
さぞかし大忙しなのではないかと期待したのですが、最初はなんと利用団体はほぼ現れず…

あれれれれ??

共同オフィスが開所したのは年末。
助成金の精算作業は年度末に向けて忙しくなるので、利用申し込みが殺到することを想定して、6名の派遣スタッフを用意していた。

でも、なぜか…全然…利用者が…現れない…

26団体に助成金を拠出していたので、半分くらいは利用すると思っていました。
どの団体にとっても必要なものと思っていたのですが。。。
予想に反して待機するだけの時間が続きました。

切り出すのも一苦労

今振り返って思うのは、私自身が本当の意味で競技団体の運営状況を理解できていなかった

これに尽きます。

ニーズを把握しているつもりでも、ニーズをはき違えていたんだと思います。

交通費の経路を調べる
領収書を貼り付ける
支払ったものを順番に報告書に記載する

これらの作業は「やっといて」といえばできるものだと思っていました。

でも、誰かにお願いするとなると、新たに発生する作業があるんですよね…。

交通費の経路一つを調べるにしたって、
その合宿に参加するメンバー全員の名簿(名前と居住地、最寄り駅の情報入り)が必要です。
合宿はいつ・どこでやったのかの情報も必要です。

初日から最終日まで全員が参加しているなら簡単ですが、平日は会社員を務めている選手やスタッフがいる場合、部分的な参加になるケースもあります。
この場合は、日程表に沿っての参加・不参加をまとめた一覧も必要になります。

領収書の貼り付けに至っては、何を何のために使ったのかによって、対象になったりならなかったり。
その判断は助成金の支給元の判断によりますが、判断してもらうための情報を記入したりする必要もあったりします。

交通費の精算ルールも助成金で定められているのは「上限金額」のみだったりするので、基本的には競技団体の内規に従って処理します。

ガソリン代の計算方法や、新幹線の指定席は対象外とか・・・、競技団体によって細かなルールが異なるので、入力や精算金額に誤りがないかのチェックをするためにも、こういった内規類を共有してもらう必要もあります。

これらを代替する場合、担当者もある程度は状況を理解する必要があることは想定していたので、競技団体ごとに担当者を定めたりはしていたのですが、最初の対応が結構大変だったんですよね…

「作業が大変だ」とは聞いていました。
だから代行しようと思ったのですが、競技団体側の本来のニーズとしては、「わかってる人を雇えるお金ください」ってことだったんだなと理解。

そもそも、1,2名しかスタッフがいないというような競技団体ばかりの時代。
2020大会に向けてメディアの取材依頼や一般からの問い合わせなども殺到している中で、猫の手も借りたいけど、新たに発生するための作業の時間は取れない!! という状況であることを私が理解できていなかった結果、しばらくは閑古鳥が鳴く状況になってしまいました。。。

サービスへの信用度も重要

体制への理解が足りなかったのと合わせて、信用に足るサービスなのかという点も重要だったなと思っています。

私自身は設計側にいるので、絶大なる自信を持っていましたが、サービス提供側とサービス利用側のニーズが異なってしまうというのは起こりがち。
特に公的なサービスは、公平で間違いが起きないように配慮した結果、めちゃくちゃ手続きが不便になってしまうことが多々あります。

パラスポーツ競技団体の多くが、この”不便さ”に苦労していたと思います。

資金が少ないことに悩んで声を上げた。
資金を増やそう or 追加で別の支援をしようということが決まった。

ここまでは良くても、

そのための報告書作業で通常業務が余計に忙しくなった! 

みたいなことが頻発していたんです。

そのため、私たちが「皆さんを楽にするためのサービスを作りました」といっても、本当に楽になるの? という疑問を持たれていたと思います。

だからこそ、みんな様子見だったという状況もあったのかなと思います。
根拠がない状態だったんですよね。

私自身も教師を経て博士課程の大学院生からパラサポに入ったので、ビジネス経験は皆無。
お客さま目線での伝え方とか、そもそもの設計の部分とか、至る所に不備があったなと今では思います。

特に、なぜ必要なのかという部分の想いは、今でも伝わってないんじゃないかなと思います。
きちんと自分が伝えて設計ができていなかったことに、今でもちょっと後悔している部分もあります。

伝えたかった”必要性”

共同オフィスのオープンと助成金の支給とほぼ同時にバックオフィスサービスを提供したかった理由は何か。

それは、どうしても向き合わざるを得ない”規模の小ささ”です。

スタッフの人数が少ないからこそ

これまでも何度も書いていますが、パラスポーツ団体の専従のスタッフは1,2名という現実があります。
もっと多くいる団体も増えてきましたが、当時は0~2名くらいが一般的でした。

少ない人員として活躍していたスタッフの多くが、日本代表を近くで支えていた方々。

競技そのものや選手を支えることのプロフェッショナルであり、競技をだれよりも愛している方々だったので、おそらく事務局業務が仕事になるとわかれば手を挙げる方はいたでしょう。

でも、法人としての業務でこなすことと、これまでやってきたことに大きな乖離があると感じました。

競技団体の業務は多岐にわたるため、どうしてもマルチに働かなければなりません。
日本代表を支えるだけではなく、広報的な業務、営業、経理などのガバナンス面、本当に多岐にわたる仕事があります。

すべてを1人でこなすのは到底無理。
とはいっても、人件費を追加するほどの資金力もない状況。
何かを選んで、何かを捨てないと回せません。

じゃあ、何を選ぶのか。

どんなに私たちが頑張っても、競技によってやるべきことが様々なので、日本代表を支えるサービスはできません。

広報面はもしかしたら一部は共通化できるかもしれません。

それでも、パラスポーツの認知度がかなり低い時代。
選手一人ひとりの個性を把握して、魅力を打ち出していかないといけない時に、自信を持って提供できるサービスではありませんでした。

マルチにやらねばならない状況で、競技のプロフェッショナル達がやらなくてもいい仕事を外に切り出さないと、せっかく世の中の関心がパラスポーツに向いている中で、拡大するチャンスを逃してしまう。

だからこそ、共通化できるサービスを外に出せる仕組みを考えました。

プロフェッショナルが、プロフェッショナルとして活躍してほしいと思ったからです。

ガバナンスの強化は絶対

世の中の流れ的に、パラスポーツ競技団体が任意団体のままで助成金を受け取るのが難しくなり、NPOまはた一般社団といった法人格を取らなくてはいけなくなりました。

法人格を取ったからには、ガバナンスは任意団体の時よりも厳しくなります。

”法人として”運営する場合は、それが従業員1人だろうが、1000人だろうが、最低限やらねばならないことは変わりません。
上場企業とかになるとより一層厳しくなるものがあるのかもしれませんが、一般社団であっても税金から拠出された助成金を使用することが多いパラスポーツ団体は、かなりガバナンスを厳しくする必要がありました。

それを意識したからこそ、1人の事務局員を経理担当にする競技団体が多くありました。

経理的な面だけではなく、個人情報の管理とか、選手選考であっても手続きは年々複雑化しています。

やること自体は、定められたルールがあるから単純です。
でも、簡単ではありません。

できて当たり前、できなかったら大問題という性質のものです。

悪意がなくても間違えたら問題になります。
人が少なかったからと言って期日を遅れて出せるわけではありません。
無知だったからと言って許されるわけではありません。

だからこそ、経理のスタッフを競技団体が雇ったという判断は正しいのかもしれません。

でも、財源的には1人しか雇えない状況で、最優先が経理なのか? という問題が残ります。

各競技団体が意図せずに起こしてしまったミスであっても、ミスはミスとして法人として責任を負う必要が発生します。

でも、1つ前の項目とも重複しますが、メディアからの取材が殺到したり、協賛を考える企業が増えたり、競技をやってみたいと思う当事者や一般人が多数ではじめた時代。

もっと競技のことを知ってもらう機会や、もっと選手たちの競技力を上げなければいけない時代に、唯一の競技団体のスタッフを経理に充てていいのだろうか。


お金が重要じゃないって話ではないです。
でも、もっと注力するべきタスクがあるんじゃないかと思ってました。

だからこそ、サービスが必要だと思いました。

競技団体のスタッフの多くが、ガバナンス面の業務のプロではありません。

専従だからと言って、経理のことだけをやっていても競技団体の運営は立ちゆきません。

だからこそ、このサービスは必要だと思っていました。

もっと競技を広げる場面で活躍するために、そして法人運営としてミスを起こさないために。


確かに、切り出すのは大変かもしれない。
でも、それ以上にやる価値はあると思っていました。

将来的な目線

2020大会が終わった後このこと

2020大会が終わった後のことを常に私は考えていました。

2020のメダルを期待されて、協賛企業が増えたり、強化費が増えたり。
このムーブメントは、2024のパリ、2028のロサンゼルスに向けて加速していくのだろうか。

Yesなわけないですよね。

2018年頃から、発掘の予算は削られ始めました。
それ以降に発掘しても2020大会には出られない可能性が高いからです。

パラリンピック自体は2020以降も続くのに、シビアな世界です。

これはきっと他の部分にも派生していくだろうなと思いました。
2020大会前に当たり前にあったものがなくなる想定をしなければなりません。

そもそもこの当時、パラサポだって7年間の時限組織としての活動であり、その後の活動は続くのか続かないのか未知の状態。
続かない可能性がある以上、金銭的な支援が今よりも減って、責任だけは強く残ることを想定していました。

それなのに共通のバックオフィスを作ったら、逆に無責任に思われるかもしれませんが、私はパラサポがなくなる可能性があるからこそ、このサービスを作ったとも言えます。

運営の母体となる競技人口は増えない

シビアな発言になると思いますが、パラリンピック競技が爆発的な人気を博すことを想定したとしても、競技人口が爆発的に増えることは考えられません。

なぜなら、パラリンピック競技は障害者を対象にしたスポーツだからです。

健常者と比較して圧倒的に少ない分母を対象にしています。
国内の身体障害者の人口が約400万人、知的障害者が約100万人。トータルでも500万人です。
競技によっては対象障害が限定的なものもあるので、分母はさらに小さくなります。

野球人口のよに100万人もいれば、用具も売れるし会員登録するだけでもそれなりの収益になります。コーチや審判員の講習費用だって大きな収益の柱になります。

でも、パラスポーツの1競技で100万人に拡大するというのはそもそも難しい。
競技によっては100人未満になるしかない状況での運営を考えねばなりません。

競技人口が1000人になれば、ある程度自立した経営ができる可能性があるかもしれません。
でも、競技人口が100人だったら?

会員一人から1万円の年会費をもらっても100万円にしかなりません。
人をフルタイムで雇うことすらもできません。
大会の開催なんて会場代にもなりません。

100人しかいない競技のために、協賛金を出してくれる企業がどれくらいいるでしょうか?
全部ボランティアで法人運営ができるのか?
グッズを売ったりして、1人分の人件費(300万~400万)を捻出できるでしょうか?

1人はできたとして、2人は? 3人は? ・・・難しいですよね。

だからこそ、共通して作業できる体制を作りました。
当初は派遣スタッフの6人体制でしたが、今では2名で複数団体のサポートをしています。

1人分の30万円/月を各競技団体が雇うとしたら、月に780万円が必要です。1年だったら9360万円。
各競技団体にたった1人の競技団体をつけるだけで約1億円です。

パラサポの助成金があればなんとかなるとはいえ、ずっとは続かない。

でも、5万円/月を払える団体が6団体集まって1人を雇うとしたら?
26団体のうち、2団体くらいは独自採算で運営できるとして、24団体で4人。月に120万円で年間は1440万円。

24団体にそれぞれ競技人口が100人だったら、競技人口は全部で2,400人。

2,400人のマーケットに対して1440万円なら、1人当たり6000円の価値を示せれば回収できるかもしれない。
そんなことを考えました。

実現するにはきっと難しい部分があるかもしれません。
それぞれの競技の成り立ちや団体の設立経緯が違うので、団体を1つにまとめることは難しいでしょう。
でも、経理をアウトプットして5万円ずつ払うんだったら、できなくなさそう。

パラサポが仮になくなったとしても、「みんなで5万円持ち寄ろう」と誰かが旗振りをしたらできるかもしれない。

そんなことを考えてこの仕組みを作りました。

そんな絵空事はなかなか実現しませんが。。。
でも、それに近しいマインドは残っていて、P.UNITEDという団体も新たに出来ていたり。

これの設立には私はまったく関わっていないので、ご紹介のみですが。
連帯することで強みを作るために、共同オフィスもあって、助成金もあって、共同でのバックオフィスも作った。

すべては2020年以降もパラスポーツが発展していくために。
そんな思いで作りました。

他にもいろいろな企画をやりましたが、すべては未来の発展をベースに考えています。

今回はかなりの長文になりましたが、今後も当時作っていった企画について書いていきたいなと思いますので、お付き合いいただけたら幸いです。

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