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第十八話 嫉妬

 いちゃついた後しっかりと朝ごはんも済ませて李仁は仕事、湊音は友人の美容院へ。

 美容院に入ると担当でもあり湊音たち二人の友人でもある大輝が待っていた。

最近改装したばかりの店内。いつもの個室に通される。

「ねぇ、李仁は元気?」
「うん、あ……お見舞いありがとう。快気祝い……本当は李仁が渡したかったらしいけど予約が取れなくて」
「わざわざありがとう。また僕から連絡入れておくよ」

 李仁の快気祝いの品を受け取った大輝。実は彼、李仁の元彼である。李仁がいなくて心なしか寂しそうな顔をする彼に対して湊音は複雑な気持ちになる。

 元彼と知ってながら彼のところに行くのもわけがある。大輝は腕が良くてセンスもあり正確できめ細やか。
「もみあげのところ少し刈るのも良いかも」
 支障のない程度に、と湊音は言おうとしたらかなり刈られた。

 お洒落に無頓着な湊音はほぼ大輝に任せているのだ。自分のパートナーの元彼に髪を整えさせる、普通なら嫌がるのだろうが湊音はどうってことはないし、李仁もどうも思ってもない。

「ねぇ、こないだ言ってた自宅でも簡単に白髪染めできるキット……売ってる?」
「あ、うん。あるよ」
「二つセットで」

 いつもは二人ともここで染めるのだが何の気の回しなのか。
「ねぇ、染め方のコツとか教えて」

 湊音は大輝と談笑する。なかなか友達のいない彼にとっては少し気の知れた話し相手になっている。

 たまに李仁の悪口も言い合うこともあるが不思議な関係である。

  湊音は家に帰り、鏡を見るとやはり切りすぎたと後悔する。後悔してもしょうがないだろうが何度も鏡を見る。
 仕事から帰っていた李仁が  
「すごくいいじゃんっ、セクシーね」
 って褒め、湊音は照れた。
「李仁ほどじゃないよ」
「あら、わたしのことセクシーだと思ってた?」

 二人はまたまたいちゃつく。湊音が李仁の髪の毛を撫でる。少し混じる白い髪。そこまで目立たないが数本生えている。互いにもう40間近。

「ねぇ、白髪染めてあげる」
「なによ急に。今度大輝のところで染めてもらう」
「大輝君の店で白髪染めのキット買ったから。染めたい……李仁の髪の毛」
 李仁は湊音よりもお洒落にこだわりがある。大輝にずっと髪の毛を切ってもらっている。

 李仁と大輝は10年以上前はカップルだった。ゲイダンサー時代からの仲で周りからも美男子同士のカップルだと言われていたが李仁の奔放さに傷ついた大輝も寂しさを埋め合わせるために同僚の美容師の女性と一晩過ごした結果妊娠、結婚することになった。

 そのことで二人は別れたという……。李仁には未練がある状態での突然の出来事でショックを受けたらしい。

 湊音も何度かその時のことをものすごく酔っ払ってグダを巻く李仁から聞いていたが心の中では李仁が浮気してたからだ、自業自得だと思いつつも泣きながら騎乗位を求め上でオイオイと泣くので本心は言えなかった。

 湊音にとって李仁から大輝の過去の恋心は忘れて欲しい、正直もう大輝には彼の髪の毛を触って欲しくないという嫉妬心がある。

「大輝くんから染め方のコツ教えてもらったから今日染める。もしよかったらこれからも僕が染めるから……一度だけやらせて」
 と強気で湊音は李仁にお願いした。李仁は苦笑いして頷く。


  少しいつもよりも柔らかい染料の匂い、湊音は準備をして李仁の髪の毛を染め始める。慣れない手つきながらも教えてもらった通りに染める。

「お上手ね、ミナくん」
「ありがとう、相変わらず褒め上手だ」
「そうかしら。ちゃんと教わってきたのね」
「うん。大切な人の髪の毛を染めるんだから……よし、終わったからしばらく経ったら髪の毛洗うね」

 大切な人、湊音がそういうと李仁は目尻を垂れた。
「わたしもあなたのことはとても大切な人よ、いつまでも、ずっと……」
「僕もだよ、李仁」
 耳に付けていたカバーを外す。李仁の両耳には無数のピアスの跡。李仁の過去の奔放さが露わになる。

 付き合った人ができるとピアスをすぐ開けていた李仁は湊音と出会った頃には大量のピアスを付けていた。その姿に湊音はドン引きしていたが一つ一つに思い出があった。
 だが湊音と出会い、付き合うことになり、夫夫になることによってたった一人の大切な人のためにもと気持ちが変わっていく。

 そして今は湊音からもらったピアスのみ、両耳たぶに一つずつしかつけていない。

「ねぇミナくん、私……決めた」
「何を?」
「ミナくんには心配かけたくないから、バーテンダーの仕事辞めることにする……」

「えっ、どうして?」
「健康面と金銭面のこと考えたら夜の仕事やめて、給料の良い書店の本部で働いてた方がまだいいかなって。どっちも好きな仕事だけどミナくんともっと一緒にいたいし長く二人で生きたいから……前からバーの店長とは話しててタイミング失ってたけどさすがに倒れた時にもう辞めようって思ったの」
「李仁……」

 湊音は李仁の頬を触った。
「もう心配かけたくない。悲しい顔してるミナくんを見たくない……」
 珍しく李仁が涙を流した。湊音がティッシュで李仁の涙を拭き取る。
「ありがとう……カッコ悪いところ見せちゃったわ」
「いつものことだろ」
「そうね」
 湊音の目からも涙が流れた。

 シャンプーをし、髪を乾かし、李仁の髪の毛を乾かす。
「今度私がミナくんの白髪染めてあげる」
「うん」
「ずっとしてあげる」
「僕もだよ」
 2人は互いの髪の毛を触り合ってソファーの上で夢の中へ。

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