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第八話 好きなんだ

 湊音が家に帰ったのは日を跨いで二時だった。もちろん親は寝ていて家は静まり返っていた。

 タバコの匂い、汗、お酒の匂い。まずは着ているものを全部脱いで洗濯機に入れてシャワーを浴びた。喉が少し痛い。足も腕も。騒いではしゃいだ代償である。
 あと数時間で起きる時間である。剣道部の朝練である。こんなことがあっても日常は待たない。休みでもないのに羽目を外してしまったと反省する。

『李仁さんに悪いことをしてしまった……』
 シャワー室から出てスマホを見たが李仁からはなにもなかった。

『怒っているよな、絶対……』
 体を適当に拭き、全裸のまま部屋に行って下着とパジャマを纏い倒れるかのように眠った。


 それから一週間。湊音はメアドを変えた。そして仕事中は自分の力を発揮できず空回り。休憩中は上の空、部活動の指導も力が入らない。
 週末の剣道部の交流試合で引率しているバスの中。大島が恋人との話をしているのだが聞き流すだけ。ここ一週間の湊音の様子がおかしいのにも気付いてはいたが声をかけても空返事ばかりで大島にもどうすることもできなかった。
 生徒たちの試合中もなんだかぼんやりとしてしまい、大島に声をかけられる。

「お前、昨日寝てないだろ。仕事とプライベートはごちゃ混ぜにするな。お前のその顔、佇まいはここには合わん、生徒に示しがつかないから外に出てろ」
 剣道に関しては昔から厳しい大島が湊音を外に出した。

 帰りのバスは大島とは席を離れて座り、気づいたら寝ていた。生徒たちからも彼の様子の異変に気づいたようだが駅に着くとみんな帰っていく。
「明日1日しっかり休め。失恋したのは辛いけどな……引きずるな。やってけんぞ」
 どうやら大島には失恋のショックだと思われていたようだ。

 スマホを見ても李仁から連絡はない。もう一週間も無い。駅近くにあるあのモールの本屋に李仁がいる。もうあの本屋にはいかなければいい、もう連絡もしなくてもいい。駅も一駅先の駅でも構わない。
 もう二人であったことはなかったことにすればいい。そうすれば自分が李仁に好意を持っていたこともなかったことになる。

 湊音はもう一つ向こうの駅に向かって歩き出した。

「湊音くん!」
 後ろからの声に湊音は立ち止まった。振り返るか悩んだが……。

「ねぇ、湊音くん!」
 腕を捕まえられ、抱きしめられた。李仁の服からいい匂いがする、と湊音は自然と李仁を抱きしめた。

「なんでメアド変えちゃうのよ! 着信拒否もするし! ……大島さんにここでバスが来るって教えてもらわなかったら逃すところだった……」
「なんで僕を……怒ってるだろ」
「怒りたい気持ちもあったけど……しょうがないって思った。こういうの慣れてる」
 慣れている、というのは同性愛者だからノンケとの恋愛がうまくいかないということである。

「グイグイ行きすぎた私がいけなかった。びっくりしちゃったでしょ……ごめん」
「ううん、僕もごめん……自分が二人きりになりたいって言ったのに、気持ちがうまく整理できなくて突き放しちゃった……ごめんね」
 湊音はさらにギュッと抱きしめ返す。

「……私ね、最初あなたをあのパーティーで見た時から好きだったの。婚活なんてするつもりなくて、知り合いのお店でやる婚活でサクラだったのに……」
「さ、サクラ?!」
 湊音は李仁を見る。どうしても彼の方が背が高いので見上げる形になるが。

「そう、ドリンクバーで声をかけたのもそうなのよ。チビちゃんで可愛いって……少し野暮ったかったけど」
「野暮ったくて悪かったな」
「だから私好みに髪の毛切らせたし、服も……」
「そうだったのかよ」
「ふふふ」
 今の湊音は李仁の好みの姿なのである。そしてそこから彼の手中でコロコロ転がされ、湊音は李仁に入れあげてしまうようになったのだ。

 湊音はここは外だということに気付いて李仁から離れた。周りには人が行き交う。
「こ、こんなところで抱きついちゃったよ」
「そういうてれるところが好き」
 李仁がそう言って微笑む。湊音も顔を赤らめる。

「僕も、李仁が……好き」
 湊音はようやく口からその言葉がでたのだ。

 そのあと李仁が車で湊音を一旦家まで送って行き、そのあと夕方前ともあったので二人で李仁の家へ。
 湊音の父、広見が誰かの車に息子が乗って出かけたのをベランダから見て志津子に
「おい、湊音が高級車に乗って出かけたけど」
「あらー、今度の彼女さんかしら。もうあの子ったら部活動の引率に疲れたのに恋人と今からデートなんでタフね」
「ここ最近夜遅くてルンルンだったと思ったらドヨーンとしててなんか変な感じだったのにさっきまたニコニコしてでてったからおかしいと思ったらさ」 
 志津子は広見の腕を握る。

「あなたもなんだかんだで心配してたのね。多分今度も相手にコロコロ転がされているのよ。今楽しければいいじゃ無いの」
「ああ、明日もきっと彼女の家から出勤か。若いっていいなぁ」
「なぁに、私たちも若いじゃない……」
 二人は見つめあって笑う。
「今夜どうだ」
「いやよ」
 志津子は広見の誘いをサラッとかわした。広見はうなだれた。



 湊音はドキドキしながら李仁と車中で話をしながら向かった先は李仁の家。
 中層マンションの上の方の階だという。エレベーターの中では李仁に寄り添い、李仁は湊音の腰に手を回していた。

 部屋に着くと玄関、廊下、部屋の広さに湊音は驚き、更に居間から見える景色にも感動する。

「今から晩ご飯用意してあげる、と言っても実は用意してたの」
「えっ……李仁さんの手作り?!」
「美味しいんだから」
BARでも李仁が目の前で作る姿を見ていた湊音は嬉しくなった。

「でももし今日僕をここに連れて来れなかったら……」
「ん? 絶対見つけて食べさせてやるって思ってたんだからね」
 とダイニングの椅子に掛けてあった黄色のエプロンを身につけた李仁。湊音はソファーに座った。そこからカウンターキッチンも見ることができて李仁が用意している姿が見える。

「いつものように見にきてくれてもいいよ」
湊音の気持ちはもう李仁にはバレていた。

「いいよ、ここで待ってる」
少し照れ臭い湊音であった。

 温められたビーフシチューは赤ワインが効いていてとても濃厚。自分のために用意してくれたんだと湊音はうれしくなる。

 そして食後はソファーでテレビを見ながらリラックス。身体を寄り添い、時折見つめ合う。

「ねぇ、湊音くん……じゃなくてさ……ミナくんって呼んでいい?」
 湊音は自分の母親から呼ばれてる愛称で呼ばれてどきっとしたが、まぁ……とうなずいた。
「じゃあ……李仁って呼ぶね」
「その方がいい。……ミナくん」
「李仁」
「私は好きよ、あなたのこと」
李仁に見つめられる。かなり近距離。湊音もドキドキしながら、普段視線を合わせるのが苦手な彼だが勇気を持って視線を合わせた。
「僕も好き、李仁が好き」
その言葉の後、二人はキスをした。さらに湊音からも。

「ミナくん……」
「キス、しちゃった」
「嬉しい」
「……恥ずかしい」
 また李仁からキス。さらにキス。そして舌を恐る恐る湊音は絡ませると李仁から激しく舌を絡まされる。

「んんんんっ!」
 キスがどんどん濃厚になる。抱きしめ合い、脚も絡み合う。湊音は戸惑いながらも受け止める。李仁は湊音のアレをズボンの上から触る。大きくなっていた。

「ミナくんってさ、チビちゃんのわりには大きい……」
「チビは余計だっ……んあっ!」
「欲しいっ、欲しいっ」
 李仁が湊音をソファーに押し倒す。さらにキスキス……。

『李仁っ! 欲しいって……まさか僕たちっ……ええええっ?!』


 湊音はあたふたしているが自分のアレはズボンの中で大きくなっており、心臓もバクバク言っている。
「上半身脱いで……肌と肌で触れ合いたいの」
「ええええっ」
李仁はピッと照明を薄暗くした。
『照明を落とすとかそういう問題じゃなくて、もうそんな関係……て、李仁と僕は男同志だし……』

「私がリードしてあげる……」
 と李仁の目がトロンと垂れてシャツを脱ぎ出した。湊音も慌てて脱ぐが固まった。なぜなら……。

「あ、これ? びっくりするよね……若気の至りで……元彼が彫り師でさぁ。ここだけじゃないよ。下半身に、びっしり彫ってもらったの」
 薄暗くても見えた。脇腹にあったタトゥーに驚いたのだがさらに李仁がそのついでにとズボンと下着も一気に脱いだのだ。
 そこには彼のいう通りお腹から膝の上までぎっしりとタトゥーが彫られていた。

『すげぇものを見ちまった……』

「じゃあ、ミナくんのも見せて」
「あああああっ!」
 李仁は湊音のズボンを一気に下ろした。湊音は顔に手を当ててされるがまま。

「あんっ、こんなのでされたら……たまらないっ」
『んんん? されたらって、僕がその?』

 李仁は湊音にキスをする。恐る恐る湊音は腕を回して抱きしめるとガバッと抱きしめられ体勢は逆転して李仁が下になる形に。

 変な感覚である。彼の身体から香るものは甘ったるいもの。
『いい匂い……ああ、お菓子のようだ……男の人の身体をこうして触るのは初めてだけど温かくて気持ちいい……これは……初めて触るけどどうさわればいいんだろう……』
「ああっ」
『あ、すごい反応している。色っぽい……まるで女のようだ』
「あんっ、ミナくぅん……」
「んああああっ……」
『ダメだっ、すごいっ、耐えれない……んで、どうすればいいんだ?』

 すると李仁が長い脚を広げ、あの場所を見せた。両サイドには桜のタトゥーが入っている。
「さっき綺麗にしてきたから……」
『……そ、そこ……てかタトゥーが綺麗すぎる……他のタトゥーはいかついのにその部分だけ……』

 湊音は息が上がる。

バタン。


「ミナくん?!」
 湊音にとっては刺激が強すぎたようだった。



 目を覚ますと朝、湊音は見覚えのない部屋のベッドで目を覚ました。枕元を見るとメモが置いてあった。

「おはよう。仕事の疲れが残ってたかもね。あれからミナくんはいびきかいて寝ちゃって五時に起こしたけど目が覚めなくて。私はお仕事なの、朝ごはんは置いてあります。食べてください 李仁」
 と書かれていた。時計を見ると6時。慌てて起きて近くに持ってきた仕事着の入った鞄から出そうとしたら近くにスーツがかけてあった。

『これってあの時作ったスーツ……』
 そう、初めてのデートの時に採寸してオーダーしていたスーツである。李仁がとりに行って今朝掛けてくれたのだ。

 湊音はドキドキしながら腕を通す。ぴったりである。こんな綺麗なスーツは着たことがない。とてもうれしくなり、部屋を出ようとしたその時であった。

「だれ、あんた」
 扉が開いた。湊音は目を丸くする。知らない男の人。

「あなたこそ……」
 そしてそのあと学校でもとんでもないことが待ち受けていたのであった。

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