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第十七話 いちゃつき

 数日後の夜、2人は宅飲みをしていた。李仁が業者からもらったサーバーから出るビールと、つまみは焼き鳥とか皮とかネギマとか砂肝とかにんにく刺しなど。仕込みは全部李仁である。

 湊音はビール片手に口は焼き鳥をもぐもぐ、左手にペンを握って2人の日記帳に今日のことを書いていた。
「ねぇ、ミナ君。日記書けた?」
「うん、あと少し」
「食べながら書くとは、行儀悪いわよー湊音先生っ」
「ハイハイ」
「ハイは一回よ、湊音先生!」
「ごめんなさいっ」
 いつも通りのイチャつき。2人で一冊の日記帳を使うことにした。書店営業マンである李仁が選んだ日記帳、1日1ページ、半分線を引いて一人一人自由に書く。
 剣道部顧問で高校教師もやってる湊音、サラリーマンとバーテンダーを兼務してる李仁。
 互いに忙しく2人でいられる時間も限られている。すれ違いをなくすために、そして二人の思い出を残すために用意した日記帳。先日李仁が倒れたことで何かを残したい、その気持ちが高まったのである。
 今はスマホやネットでなんでもできちゃうがあえて手書きがいいと李仁は言う。

 丸くてクセのある湊音の字、綺麗で力強い李仁の字。2人で観に行った映画やライブの半券、写真、なんかのキャラクターと思われる変な絵。数日の間に色々紆余曲折しながらかき始め、2人の思い出が詰め込まれる。SNSには拡散はしない、2人だけの世界。

 その夜も下戸な湊音が酒をたくさん飲み、酔い潰れながらも李仁をベッドに誘い布団の上で2人は乱れた。

「ミナ君、変態」
「もっと言って」
「変態っ」
 重なる唇、何度も組み換える手、絡み合う脚……。やはり湊音はまだ不安なのだ。
「李仁……李仁……」
 以前よりも積極的になった湊音を見て李仁も何か変化を感じていた。強く抱きしめて
「大丈夫、ずっと一緒だから……」
 そう湊音に囁くと湊音の顔は安らぐ。
「もっと、もっと……」
 その日は酒の勢いもあったのか日をまたいでも行為は終わらなかった。湊音は李仁を求め続けた。実は湊音、かなりの絶倫男なのである……。

  朝。湊音の隣で寝ていた李仁はいない。
「李仁ぉっ」
 湊音は慌てて体を起こしベッドから降りると机の上にあった日記帳は開いていた。見ると昨日の欄にハートマークと『5』と数字が書いたあった。
「5って……ってしかもハートマーク……」
 5、他のページにも李仁の字で書いてあった。今までも書いてあったのだが気づかなかったが、これは何だと思いつつも湊音は二日酔いで頭が痛かったのか、んんんんっと頭を抱える。
 ふと前の日のページをめくる。李仁の書いた文字を見て湊はハッとする。

『ミナ君がここ最近不安定で心配。何度抱きしめても何度声をかけても寂しそうな顔をする。今まで嫌がってた体位も無理してやって……わたしに好かれようとしてる。そんなことしなくてもいいのよ。わたしはミナ君から離れないよ。心配しないで』
 湊音は日記をそっと閉じた。

 台所からいい匂いがする。朝ごはんを李仁が用意している。焼き魚と目玉焼きであろう。
「李仁に心配かけちゃダメだね……」
 湊音は部屋を出た。台所では李仁が待っていた。ちょうどトーストを入れるところであった。
「おはよう」
「おはよう。ミナくん。そろそろ起きる頃かと思って」
 湊音はすぐにでも抱きしめたかったがさっきの日記を見てしまうとそばに行けなかった。だが李仁が近づいてきて湊音を抱きついた。

「もぉ、ほんとミナ君は甘え下手……」
「だってぇ」
「今からトースト焼くから早く身支度してきなさいよ」
「うん」
 湊音は微笑んだ。
「でもあと少しだけ抱きついてていい?」
「もちろんよ、ミナ君」
「あのさ、日記帳にさーハートの中に数字書いてあったけどあれは何?」
「気づかなかった? エッチした回数」
「っ! そんなの書くのかよ」
「昨日だってすごく激しかったー」
「恥ずかしいっ、消してよ」
「いやだー、このまま抱きついてたら回数増えちゃうー」
「もぉ! ご飯食べるぅー」


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