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戦争と向き合った少女

私の名前はニコ。両親と私の三人家族。
友達は私のことを変わっているていうの。
なぜって聞いたら私が花や動物と話をするからって。
私には花や動物たちの声が聞こえるけど友達には聞こえないみたい。
私たちって誰もが同じ世界にいると思っていたけど一人一人世界が違うのね。
だから考え方も一人一人違うのよ,きっと。
もちろん友達と一緒にいるのは楽しいは。
でも、つい色々なことで自分と友達を比べたりしちゃうのよね。
比べても意味がないのにね。
学校に行くときはケンと一緒よ。
同級の男の子ってちょっと子供っぽいけどケンは優しいし大好き。
ケンも私のことは好きみたいだけど、まだはっきり好きって言われたことはないの。
ちょっと恥ずかしいけど私から言ってみようかな。
ところで私って朝が弱くてすぐ起きられないの。
だから朝はパパやママと話をする時間がないの。
その代わり夜は三人でたくさん話をするわ。
二人とも私の話を楽しそうに聞いてくれるし、いろいろなことも教えてくれる。
だから二人とも大好き。
家は貧しいけど私は幸せだと思ってた。
でもね最近まわりの様子が変わってきたの。
大人たちが難しい顔をすることが多くなってきて、街に行ったときも
「このままじゃこの国が、俺たちが危ないぞ。
あいつらの言いなりになっていたら大変なことになる。
今こそ武器を持って戦おう。平和を守るには戦うしかない」なんて言っていたの。
大人は私たち子どもには仲良くしなさいとか言うくせに、自分たちはできないのね。
平和を守るために戦うってなんか変よ。
戦うって平和の反対側よね。
平和って敵を作らないことじゃないの。
大人って勝手ね。

それからしばらくしてまわりの様子が突然変わったの。
戦争というものが始まって、お父さんも戦場に行くことになったの。
パパは「お前たちのことは私が命を懸けて守るから安心しなさい」
と言って私をだいてくれた。
私は寂しかったけど仕方がないのかなと思ったわ。
でもしばらくして我が家に哀しい知らせが届いたの。
パパが戦死したって。
一瞬何のことかわからなかった。
でもパパとは二度と会えないんだと思ったら、急に悲しみがこみ上げてきてママと抱き合って泣いたの。
何時間も。何時間も。
パパが死んだ。
あの優しかった私のパパが死んだ。
ケンカひとつしたことのなかったパパが敵と戦って死んだ。
いったいパパは何のために死んだの。
これって平和のためには必要なことなの。
バカみたい。
そして、この時私感じたの。
現実ってこんな風に突然変わるものなんだって。
だって大好きなパパと二度と会うことができないのよ。
愛するものを失うって、こんなにつらいものだとは思わなかった。

パパが死んでから、ママは寝る間も惜しんで私のために頑張ってくれている。
そして私には悲しい顔を見せないようにしているみたい。
でも私知ってるの。
夜遅くに写真を見て泣いているのを。
ママがかわいそう。
ママが笑顔をなくしたのは戦争のせい。
戦争がなければパパも死なずに済んだのよ。
質素だけど幸福な毎日だったのに。
それをつらい日々に変えたのは誰のせい。
なぜ苦しい思いや、悲しい思いをしてまで戦争をするの。
大人はそのことをわかって戦争を始めてるの。
それでね。ママに聞いてみたの。
「大人は何故戦争をするの。なぜ止めないの。殺し合いまでして何が欲しいの」って。
ママは一瞬答えに困ったみたいだったけど、ママはママなりに考えて私のために答えてくれた。
「それはね、家族を守るためよ。
お父さんだって戦場になんて行きたくはなかったの。
でもね自分だけ行かないなんて許されないの。
それに何より私たちを守るためには戦うしかないと考えたの。
自分が死んだら何にもならないのにね。
戦争が始まる時ってまるで嵐が来るように止めることができないの。
自分たちを守るためには争うことは仕方がないと思ってしまうね。
そして争わないで済む方法を考えられなくなってしまうの。
おまえにもつらい思いをさせてごめんね」
そう言うとママは泣きながら私を抱いてくれた。

ママに聞いても困らせるだけだ。
その時急に思い出したの。スダジイのことを。
そうだスダジイだ。スダジイに聞いてみよう。
スダジイって森で一番古い椎の木なの。
何百年もの間この世界を見守ってきた森の長老。
この世界のことは何でも知っている私の先生。
「スダジイこんにちは。教えてほしいの。私のパパが戦争に行って戦死しちゃったの。
戦争ってどうして起きちゃうの。
私どうしていいかわからない」
私は真剣に話したの。
するとスダジイはいつものように
「今日は笑顔がないと思ったら大変なことがあったようだね。
さあ落ち着いて話してごらん」
スダジイは優しくいってくれた。
だから私は心に感じたままをスダジイにぶつけたの。
「なぜ大人たちは苦しい思いや悲しい思いをしてまで戦争をするの。
殺し合いまでして何が欲しいの。
戦争でお父さんが死んでとても悲しいはずなのにママはわたしを守るために頑張ってくれているの。でも毎晩私にわからないように泣いている。
ママが可哀そう。
そうよ、戦争を始める大人たちがいなくなればいいのよ。
戦争が終わればきっとママにも笑顔が戻るわ。
どうすれば戦争はなくなるの?教えてスダジイ。」
私は真剣に訴えたの。
そうしたらスダジイは優しく答えてくれた。
「つらい目にあったね。
自分も悲しいのにお母さんの心配をしてくれてありがとう。
どうやらニコには聞く準備が出来ているようだからこの世界の秘密を話してあげようと思うのだけれど大事なことが一つあるんだ。
それは自分の考えで判断しないで、話したそのままを素直に受け入れてみてほしいんだが。出来るかい」
「はい、やってみます」
私は真剣にスダジイの話を待った。
「ニコにとって初めて聞く話だと思うが、この世界のすべてのものは時が来ると皆この世界を離れ、生まれる前にいたところに戻って行く。
ニコのお父さんもそこに戻ったのさ。
すべてのものはこの地球に夢を持って遊びに来て、いろいろなものと出会いいろいろな経験をして心を輝かせて再び故郷に帰る。
死ぬことは本来の自分に戻ることなのさ。
だから死ぬことは生まれることと同じで悲しいことではないんだよ。
わしらも必ずそこに戻る。
それがこの世界の仕組みなのさ。
もちろん愛する人に会えなくなることは悲しいさ。
だから悲しいときは泣いて心をいたわりなさい。
そして戦争のことだが、人間は自分のことが大事で恐れと欲望からしなくてもいいことをしてしまう。
何がなんでも自分たちの利益を守ろうとするんだね。
そして戦争も始まる。
でもそれは仕方のないことなんだよ。
何故ならニコやニコのお母さんが一生懸命に生きているように、誰もがその人なりに一生懸命に生きているからね。
お父さんを殺した兵士たちだってそうなのさ
。彼らも自分のことや家族のことが大切で自分でもよくわからないで、してはならないことをしてしまう。
でも彼らの人生を生きてみればわかることだけれど、そのようにせざるを得なかったことは何かしらあるのさ。
お父さんが仕方なく戦場に行ったようにね。
実はこの星に住むすべての者たちは地球のシナリオにしたがってそれぞれがそれぞれの人生を演じているのさ。
ニコから見て良く見える人も悪く見える人も、それぞれがそれぞれの役を演じているだけなんだよ。
だから今はできなくても、いつかは争いを始めてしまう大人たちを許してほしいんだ。
彼らは目の前のことにとらわれてしまって本当に大切なものに気づいていないだけなのさ。
すべての人の心も豊かな心なんだが毎日の暮らしの中でそれを忘れてしまうんだね。
そしてとても大事なことだからよく聞いてほしいんだが、憎んでいる相手を許すことは憎しみにとらわれたニコの心を解放してニコを幸福へと導いてくれる。
戦争をなくしたいのなら戦争に反対するのではなく、すべての魂の平安を願い、敵味方を考えないで一緒の未来を創っていくことなんじゃないのかな」スダジイの言葉は愛に満ちていた。
でも私はその話を聞いてもすべてを受け入れることはできなかった。
だから愛するものを失ったつらさをスダジイにぶつけたの。
「でも兵士たちは逃げ惑う女の人や子供まで銃で撃ったのよ。
家族や友達を殺されたのにどうしたらあの人たちを許せるの」
私の心の叫びを聞いたスダジイはまるで私を包み込むようにさらにこの世界の秘密を教えてくれた。
「そうだね、今のニコにはとてもつらいことだろう。
だがどうしても聞いてほしいんだが、実はニコの見ている世界はニコだけの夢の世界なんだ。
だって考えてごらん見るもの選んで聞きたいように聞いて心で意味をつけて世界だといっているのは誰だい。
ニコだろう。
ニコがいるからニコの見ている世界は存在できるのさ。
そしてほかの人が同じものを見ても同じ世界にはならない。
だって見え方も聞こえ方もそして何より人や物に対するとらえ方が違うからね。
だから同じ世界になりようがないのさ。
そして一番大事なことなんだがニコの世界に現れるすべての人やモノや出来事は、ニコが愛に目覚めて、すべてを受け入れて愛することができるようになるために色々な姿を見せてニコに教えてくれているんだよ。
そのためにこの世界はあるのさ。
もちろんニコにすべてを耐えろとは言わない、ただその者たちもニコが愛に目覚めるためのシナリオの役を演じるために現れたものだということを知っておいてほしいんだ」
スダジイの無心な祈りの言葉が私の悲しみと憎しみに占領された心のカギを開けてくれたみたいだった。
私は思わず聞いたの
「じゃあ、もしかして私のこれまで経験したすべての場面は私の心が愛に目覚めるために起きていたってこと?私が変わればせかいはかわるの!」
「そうさ。素直な心で感じてみれば解るだろう」
そのスダジイの無心な祈りの言葉を聞いて訳もなく涙があふれてきたの。
その涙は私の心の様々な思いを洗い流してくれたみたいだった。
私は気づいたの。
私の願いは心に貯めた憎しみや悲しみを愛に変えることだって。
スダジイは教えてくれたの
すべては愛から生まれたものだって。
「泣いているね。大丈夫かい。」
スダジイが優しく聞いてくれた。
その時私の中に今までとは違う愛が広がったの。
「私うれしいの。私はあの兵士たちを殺してしまいたいほど憎んでしまう私の心が怖かった。
だって殺してしまいたいなんてあの人たちと一緒じゃない。
多分誰かを責めなければこころがつぶれそうだったのね。
でもあの兵士達でさえ憎しみを超えてすべてを愛してごらんという私へのメッセージだったなんて。
私がこの憎しみや悲しみを超えることができたら世界が変わるんでしょ。
この世界のすべてを受け入れて感謝すること。
私の思いが大切なのよね。
私の愛で世界を変えてみたい」
私はうれしくて愛おしくてスダジイに頬ずりしたの。
そうしたらスダジイも嬉しそうに私の知りたいことをもっと話してくれたの。
「この森にも晴れる日もあれば曇りの日もある。
焼けるような夏もあれば凍えるような冬も来る。
わしらだって嵐が来て強い風が吹けば倒されるかもしれない。
でも嵐が自分にきついからといって嵐がなくなればいいとはわしらは思わない。
何故なら嵐はわしらを鍛えて強くもしてくれるし、何よりも嵐を必要とする者たちがこの世界にはいるからね。
この世界はいろいろな体験をさせてくれる遊園地、夢の世界さ。
わしらはそれを経験しにこの地球に生まれ、与えられた役割を楽しみ、苦しみ、悲しみ、喜び、心を鍛え、そして輝かせて故郷へ帰る。
わしらは人間のように難しいことは考えない。
ただこの地球の営みを信じて、すべてを受け入れ、今自分にできることをする。
それだけさ。
吹き荒れた嵐が静まるように戦争もいつかは終わる。
人の騒いだ心もいつかは静まるのさ。
お母さんが泣いているのを見るのはつらいだろうが、そばで見守っておやり。
人は泣くことで悲しみを越えられることもあるからね。
だいじょうぶ、いつかお母さんにも笑顔がもどってくるから、ニコは自分を信じて心のままに生きてごらん。
ニコのほほえみで照らせば世界は必ず明るくなる。
この世界もニコも大いなるものに守られていることを信じてごらん。
必ずニコを平安へと導いてくれる。
やがてすべての魂は平安へ導かれる。
それが地球の未来のシナリオということらしい。
だがそれにはまずニコが愛に目覚めたいと願うことから始まる。
愛とはすべて問題ないと思えることだよ」
私はスダジイの豊かな心に包まれていった。
私は今、こんな風に考えている。
戦争は嵐のようなもの。
大人も不安で怖いから時々吹き荒れる風になるけど本当はやさしいそよ風。
私たちの心を育んでくれる。
だから私は大人たちも愛に目覚めることを信じてみたい。
荒れ狂う嵐に立ち向かっても飛ばされるだけ。
だから嵐が静まるのを願い見守っていればいい。
嵐の中にいても私たちに出来ることはきっとあるはず。
笑顔で嵐の向こうに広がる青空を信じて歩いて行こう。
だって空のかなたではいつでもお日様が見守ってくれているのだから。
すべてを愛せたらうれしいな。
そうだよね、スダジイ。
ありがとう。
















 



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