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思いどおりになんて育たない : 反ペアレンティングの科学

私の子どもの育て方は正しかったのか。子どもたちの人格形成に私はどんな影響を与えたのか。それを振り返ってみて、私はこうした疑問自体が不適当だったと強く感じている。
出典:「思いどおりになんて育たない : 反ペアレンティングの科学」(アリソン・ゴプニック著)


先日、娘は病院で「チックですね」と言われました。

最もベーシックな「頻繁に目をギュッとつぶる」という症状が出ているのですが、チックはストレスに起因すると言われています。

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もうすぐ3歳になる娘と生活している私は、習い事を始めるべきかなとか、読み聞かせの時間を増やすべきかなとか、Youtube見せる時間を減らすべきかなとか、(集中力がある子なので、その力を伸ばしてあげたいな...)という魂胆で3歳の誕生日プレゼントは小さめのブロックにしようかなとか、尽きることのない娘への関心を日々もっています。

それは娘を妊娠した時から始まっていて、母乳かミルクかの葛藤から始まり、今はトイレトレーニングのタイミングなど、娘との「正しい」関わり合いを求めない日はないと言ってもいいくらいです。

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そんな私の最大の関心ごとである娘がチックに。

私はチックを、今までの子育ての結果のように感じました。
私の娘との関わり方が正しくなかったから、娘にいらぬストレスを与えたのではないか。
3歳にも満たない子どもがストレスに晒されているなんて、ごめん。。。
何が悪かったんだろう、どこにストレスがあるんだろう。どうしたら治るんだろう。。。

病院では「一過性のことが多いので、気にしすぎないように」と言われましたが、現在進行中で悩んでいるし、娘への申し訳ない気持ちも多分にあります。

そんな私の心を少し軽くしたのが、タイトルの「思いどおりになんて育たない : 反ペアレンティングの科学(アリソン・ゴプニック著)」です。


著者のプロフィールは以下の通り。

アリソン・ゴプニック
カリフォルニア大学バークレー校心理学教授・哲学客員教授。マギル大学で修士号、オックスフォード大学で博士号を取得。子どもの学習と発達に関する研究の第一人者として著名。「心の理論」の研究分野の創始者の一人であり、近年は子どもの学習に対してベイズ推論と確率モデルの考え方を導入したことでも知られる。

私は知らなかったのですが、有名な方らしく、子育てについて科学的に、そして哲学的に本書を書いています。
とても良い本だったので特に子育て当事者の方にはオススメできますが、軽い本でもないので私の感想とともに少し紹介します。


ペアレンティングへの反論


本書には「反ペアレンティングの科学」という副題がついています。

ペアレンティングは「育児」と訳せますが、本書では「自分の子どもを何とかして、よりよい大人、より幸せな大人、より成功する大人に育てるために行う活動」と、より深い意味で使っています。

こんな風に言ってしまうと「そんなこと思って育児してないわ」という人から反発も起きそうですが、多くの親は子どもが生まれた瞬間から願いをたくしますよね。名付けという形で。
私が娘の名前に「自分の人生を自分の力で切り拓いていってほしい」という意味の名前をつけたように。

そしてそこからの育児は、どうやったら子どもがそのように育つだろう、と試行錯誤するのです。

本書はそんなペアレンティングに異論を唱えます。

著者は進化論(生物は進化したものだとする提唱)の立場に立っているのですが、子どもを理想通りに育てるペアレンティングが正しいのだとしたら、
「他の動物同様にすぐ大人にならないどころか、無秩序状態である子ども時代が長くなったのは何で?」
(実際にネアンデルタール人の子ども時代は、私たちより短いらしい)と問題提起します。

そして「子ども時代が長くなったのは人間の進化の結果である」と無秩序な状態の重要性を主張するのです。


子どもの学習能力


著者は、この本の中でなんども「子どもの学習能力は私たちの想像を大きく上回っていること」を様々な研究、実験から主張しています。
(ある実験では、複雑なパターンで光るブロックのおもちゃを幼児にみせた際、バークレーの学生よりも幼児の方が仕組みを理解した)

しかも、子どもたちは、私たちが意識的・計画的に教えよう、とすることよりもずっと多くのことを私たちの無意識の行動から学ぶというのです。

「親は子どもの見本」というのはよく言われることですが、そう単純なことでもなくて、子どもはとにかくとっても色んなことから、しかも高度に、「学ぶ対象が信頼できる人なのか」「その行動の意図はなんなのか」そして「時には統計的な計算と確率」も考慮に入れて学ぶらしいのです。

子どもの学ぶ力を表すのに、「なぜなぜ期」のことについても書いてありました。
なんと、就学前の子どもの1時間の平均質問数は75前後で、数年で何十万という質問を子どもたちはするらしいのです。

娘も最近「なぜなぜ期」に入っていて、「なんで雨が降るの?」という割とベーシックなものから「なんで本屋さんは遠いの?」とか「なんであの人は太っているの?(電車の中)」という非常に答えにくいものまで、かなり質問をしてきます。

でもそれが数年で何十万となるなんて....

子どもの学習能力は驚くべきもので、様々なことを複雑に関連づけながら些細なことからも多くを学んでいくので、こちらが意図的に教えることなんて子どもの学習のほんの一部であり、意図的にコントロールできるものではないようです。
本書では、子どもが安心して探索できる環境を与えることが、親の役割だと言います。

本書は一貫して

「思い通りになんて育たないよー!」
「子育てにべき論が沢山あるのはおかしいよー!」

と言っていて、それはよくある主張のように思えるかもしれませんが、それを「子どもの学習と発達に関する研究の第一人者」が「最新の科学的知見から」主張していることに価値を感じます。

おかげで子育てのべき論をしばらくは無視できそうだし、私自身のべき思想を少し緩くできそうです。

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「私のせいでチックになった」と思うことは、おこがましいことかもしれません。
娘は日々、様々な人や物事から学び刺激を受けていて、きっとチックの要因も1つではなくて。

きっと明日には、また娘が目をギュッと瞑るのをみて落ち込んだり、申し訳なく思ったりするのだろうけど、、、、
きっと、彼女にとっての安心して探索できる環境はなんなのかと思い悩んだりするのだろうけど、、、、

娘は、私が思っているよりもずっと予想外で、ずっと力強いのかもしれません。



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