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とくべつな春の綺麗な日

京都駅を過ぎた電車は、おもしろいほどに空いている。荷物が置けるほど座席が空いている電車なんて、一体いつぶりだろうか。

平日の昼間であるせいか、車内の年齢層は結構高めだ。ジャージにダウンを着込んでリュックを持ったグループが目立つ。
この先に山があるのだろうか。みな、登山にでも行くような軽装だ。

「あんた、そろそろお腹すいてへん? 私パン持ってきてるからな、いつでもゆうてや」
「私もあめちゃん持ってきたで」
「お菓子もあるからな」

推定年齢60代中盤、となりのボックス席に座る3人組の女性たちの会話が耳に飛び込んできた。
3人とも例に漏れずジャージ+ライトダウンという格好をしており、リュックのサイドポケットからは水筒が飛び出している。

まるで、小学生の遠足だ。それがなんだか微笑ましくて楽しそうで、わたしはちょっぴり羨ましくなった。


各駅停車の電車は、のどかな町の上をゆっくりと走る。
みずうみ、田んぼ、畑に民家に、遠くには山々、したには家電量販店などが見える。人の行き来が激しい京都と比べると、時間の進み方さえも違うようだ。

まるで空が世界を祝福しているようないい天気。
むんむん飛び交っているはずの花粉さえも感じない。空気までくっきり澄みわたっているような感じがする。


きょうは、春休みのショートトリップ。
一昨年は名古屋、去年は台湾に行った。さて今年は、と考えた結果わたしは、恋人の住む福井県へ行くことにしたのだった。

就職活動の本格解禁より約1週間。大学では毎日会社説明会が行われており、わたしもだいたい毎日参加していた。

もちろん今日も開催されているから、旅行なぞしている場合ではないような気がしなくもないが、本心まあよいではないかと思っている。
楽しくやるって決めたのだ。しんどくならない程度でちょうどよい。


昨日より8度近くも気温が下がるというから覚悟していたのだが、車窓からさし込む日差しはうらうらとあたたかい。

久しぶりに恋人と逢う日。はじめての福井県。がらがらの電車。よろこんでくれるかなシフォンケーキ。リュックにつめた問題集。田んぼ田んぼ田んぼ山山山。ときどき家。線路沿いに雪が残っていたのには驚いた。

今日はこれから、どんなものに出逢えるだろう。
とくべつな春の、綺麗な日。


#エッセイ #旅行 #春

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