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R18の自由を手にしたわたしたち

年を重ねるってうれしいな、と最近よく思うようになった。

思い立ったら一人でどこにでも行くことができる。お酒だって飲める。日付を跨いだって外で遊んでいることもできる。
いずれも子供の頃には叶わなかった。まだ若干21歳とはいえ、どれも大人ならではの醍醐味だなあと思うのだ。

そのうちの一つには、正々堂々R18作品を鑑賞し、胸を張って好きだと言えることがある。

たとえば、わたしが昔から愛読している江國香織さんの作品には、しばしば性描写が登場する。
小学生の頃、母はわたしが彼女の本を読もうとすると嫌がった。「まだちょっと早いから」とかなんとか言って。
子供のわたしに与えられたのは『ぼくの小鳥ちゃん』など、母の検閲を通過した童話ちっくなものばかりだった(それでも母の目を盗んでこっそり読んでいたけれど)。

それが今や、『ピースオブケイク』を二人で回し読みするようになったのだ。正々堂々作品の良さを力説し、ほんなら読んでみるわと普通に、ごく普通にやりとりをすることができる。そんな日が来るなんて、当時は思いもしなかった。


小説や漫画やイラストや短歌など、わたしが好きなものには性愛をテーマに扱ったものがとても多い。
そのことを自覚したのは、というか「言っていいんだ」と気づいたのは、ごく最近のことである。

先日、芸大に通う友人の卒業展示会に行った時のことだ。
漫画やイラスト、なんといっていいのかわからぬ立体物の作品に至るまで、そこにはエロや女性の裸体やそんなものが、ごく自然に当たり前のように溢れていた。

わたしは度肝を抜かれた。

勿論、見るのが恥ずかしいとかそんな理由ではない。
「え、こんなにオープンに、堂々と好きって言ってもいいんや……」という単純な衝撃ゆえである。

そこにはあるのは、いやらしさだとかを超越した圧倒的な「作品」だった。

いつもこっそりインスタグラムで眺めていた、たとえばたなかみさきさんのイラストや。「体などくれてやるから君の持つ愛と名のつくすべてをよこせ」といった岡崎裕美子さんの短歌や。彩瀬まるさんや角田光代さんや、東野圭吾さんなどそれぞれの作家が描くセックスと同じ。美しいばかりではない、むしろ人間の奥底の欲望や、見たくない部分から目を逸らさずなされる描写にわたしは、どうしようもなく惹かれてしまう。


昨日観た映画、『娼年』もそんな作品の一つだった。
松坂桃李主演、わりと話題になっているからご存知の方も多いのではなかろうか。何事にも夢中になれない男子大学生・リョウが、娼夫として数々の女性と関わってゆく物語である。

以前、週刊誌か何かで監督がこの作品を「セックス・エンターテイメント」と形容しているのを読んだ。
鑑賞後、本当にそうだと深く首肯せずにはいられない。

ばっちりR18指定。全編の8割を占めるという性描写は確かに過激だ。
民放のドラマのように、綺麗なところだけ切り取られたものではない。時にみっともなく、時に笑えてしまうほど滑稽で、でもすべての根底に共通するのは切実なまでにまっすぐな欲望なのだった。

登場人物は男女とも、みんな一見「ふつうの人間」だ。あふれ出さんばかりの色気を醸していたり、欲望をむき出しにした人は一人もいない(ホストをしているリョウの友人だけは別かもしれないが)。

しかし、ひとたび心を通わせたあと、あるいは理性さえも失うほどのきっかけののちに彼女と彼らはほんとうの自分をあらわにする。
欲望に抗えなくなった彼女と彼らの心の動きが、画面から生々しく伝わってくる。疑似体験といっても過言ではない。セックスを通じて自分を解放する女性たち、また少しずつ変わってゆくリョウの姿に引き込まれ、一瞬たりとも退屈することのない二時間だった。

上映終了後、館内に響いたのは女性二人組の高らかな笑い声。
「なにこれ!」「すごい、すごかったね!」
普段なら睨みたくなるところだが、今回ばかりは飛んでいって「ほんまそれ!」と思わず同意したくなった。

笑い出したくなってしまうほど、すごい。
なにがすごいって、めちゃくちゃたくさんの大人たちが、本気でこの作品をつくったという事実。

「一切の妥協を許さなかった」という監督の言葉が全編に表れていた。
こんなに見せて大丈夫? と思うほど、登場人物たちは心も体も、文字通りの丸裸。それでいて、いやらしさをはるかに超える清々しさが鑑賞後に残るから素晴らしい。日本ではとくにタブーとされがちな「性」を通じて、鑑賞者の心まで丸裸にしてしまうのだ。

あけすけ、というのとはまた違う。なかなか向き合いづらい部分を話題に上げ、気軽に考えるきっかけをくれるとでも言おうか。こんな作品、滅多にあるものではないと思う。

とはいえ過激であることに変わりはないので、わたし個人としては一人、もしくは気心知れた同性の友人と観ることをおすすめする。
帰り際に目にした初々しいカップル、すっかり固まってしまっていて気の毒だったな……。付き合いたての男女には向きませんのでご注意を。


R18の自由を手にしたわたしは、以前よりもうんと自分らしくいられるようになった気がする。

好きなものを好きって言えることは素晴らしい。
そしてその良さを真面目に語り合えるのは心底うれしいことだなあと、改めて思う今日この頃である。


#エッセイ #R18 #コンテンツ会議 #cakesコンテスト

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