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現実もそんなに悪くなさそうな予感

ディズニーシーで働く人たちは、みんなずっとにこにこしていて本当にえらい。
「何名様ですか?」「5名様ですね。では2人と3人に分かれて、1番と2番にお進みくださーい!」「何名様ですか?」「2名様ですね。では3番にどうぞ!」「何名様ですか?」
アトラクションの乗り場では、延々とこれのくり返し。聞いてるだけでも気が滅入るようなくり返しであるにも関わらず、彼ら彼女らはいつ何時も、感じのいい笑みを絶やさない。2時間待ちの疲労をもいっとき忘れ、おもわず感じ入ってしまう。

パレードやショーに出演している方々の素晴らしさもまた、筆舌に尽くしがたいものがある。
ゲストを巻き込み空気を変える。そんな彼らの力によって、気づけばそこらじゅうの人々はみな、一丸となって何かに向かって声を上げ、はしゃぎ、顔を見あわせて笑う。
その対象は、もしかしたらショーに出ているキャラクターとか素晴らしいダンスとかではなくて、自分も含めたいまここ、この瞬間のとうとい空間すべて、なのかもしれないなどと思う。

まぶしいくらいに呼応するキャストとゲストの笑顔を見ていると、なんだかたまらず泣けてきて、わたしは大変に困ったのだった。
魅せる側と魅せられる側、その双方が完全両思いの空間にいるといつもそうで、数々のうれしそうな顔たちがわたしの心を直接ひっつかみ、揺さぶってくるような心地がする。

東京へのひっこしを翌日に控えたわたしは、友人とわかれて都心へ向かった。
さっきまでとはまるで趣の違うネオンにぴかぴか照らされて、新宿の街をひとり歩く。
夜の歌舞伎町は、これまたさっきまでとは質の違う、なまめかしい感じの生気に満ち溢れていた。どこでもいいやと飛び込んだ松屋のカウンター席で牛めしをたべた。きらきらしたきれいなものばかりに囲まれていた2時間前との落差が凄まじすぎて、なんだか笑えた。
夢のあと、という言葉が実によく似合う。誰かにそれを言いたかったけど、隣には知らないおじさんしかいなかった。

トイレットペーパーとウェットティッシュとメジャー。目についた100均でとりあえずそれだけ買い込んで、新居の鍵を回す。大きな窓がふたつも付いているので、明るくて感じのいい部屋だ。

部屋に空気を通しながらスーツケースを広げ、床に座ってセブンイレブンのコーヒーを飲んだ。セブンイレブンのコーヒーは、とってもおいしくて安いから好き。
iPhoneで音楽をかけると、なんにもない部屋じゅうによく響いて気持ちがよかった。単純なので、最近は東京事変ばかり聴いてしまう。「貴方の今を閃きたい」ってすごく好きです。

がらんとした部屋でこうして床に座っていると、隅々まできわだってよく見える。
くすんだ緑の枠組みと、つるんと光るフローリングと、白くざらついた壁紙の、ひとつひとつに目をやった。
次にこの光景を見るのは、果たしていつになるだろうか。
四時になったら引っ越し屋さんがやってくる。


#エッセイ #夢の国 #ディズニーシー #引っ越し #新生活 #春 #始まり #東京

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