就活日記③ 〜産みの苦しみ・ES編〜
「学生生活において、一番がんばったことはなんですか?」
だいたいどの会社のESでも聞かれる質問事項。いつもわたしは迷わず、「文章を書くこと」と答えてきた。
それなのに、である。
「ESが、書けへん……」
悔しいくらいに我慢をしていた。しかしそれもいよいよ限界で、わたしはパソコンを前に泣いていた。
一応、指定字数は満たすことができている。文章も破綻していない、書いてあることも別に変じゃない。にもかかわらず、だ。
なんよこの、薄っぺらくてありきたりで、上澄みだけをすくったようなしょうもない文章は。
これほどの自己嫌悪に苛まれたのは、ひさしぶりのことだった。
それもなぜか、志望度が高い会社になればなるほど、そのきらいが強くなってしまう。どこかで聞いたことのあるような、さらさらと手触りだけがいいような、からっぽの文章。
わたしというものがちっとも見えてこない文章。何も面接官と向かい合っているわけではないのに力んでしまうのだろうか、それが情けなくて仕方なかった。
こんなん出しといて、「文章を書くことをがんばってきました!」なんて書いたら笑われるわ。
そう思えて仕方なかった。
「わたし、文章書くん下手なんかもしれん……」
母の前でぼろぼろ泣いた。悔しかった。
「そんなことない。思いを形にする、ってほんまに難しいことやで」
本当に、難しい。声に出さず頷いた。
情熱だけは溢れんばかりにたぎっているのに、それを形にするとなると、途端に勢いをなくしてお行儀よく並んでしまう。
書くことが唯一の武器だったはずなのに。
わたしは、自分に裏切られたような気持ちになっていたのだった。期待通りにできない自分自身に失望し、傷つけられていたのだ。
わたしは、伝えたいことをゆっくり母に語り始めた。
なぜ絵本が好きなのか。絵本は子どもだけのためのものじゃないと思う理由。心動かされたエピソード。出版物としての未来。
すると、さっきまでせき止められていた想いが、びっくりするほど素直にするする出てきたのだ。
話している途中から、「あ、」と思った。そうだった、わたしが本当に思っていたのはこういうことだったのだと。
夢中になって語り終え、そのままの勢いでパソコンに向かう。
嫌いな文章は思い切ってまるまる消した。どんどん手が進む。それっぽい表現も捨てた。正直な想いを打ちこんでゆく。
やっとそこに、ほんとうの自分が現れた。
口にすることで、はじめて目に見える想いもあるのだと、今更になって気づかされる。
いつも自分に誠実であることは、想像以上に難しいみたいだ。あの手この手を駆使しつつ、なんとか形を保ってゆきたいものである。
頭を悩ませ涙を流し、でもそうしてできあがったESは、我が子のように愛おしかった。
…というのは言い過ぎにせよ、人一倍親バカになっている感じはどうも否めない、かもしれないな。
※ES…エントリーシート。志望理由書のこと、です!
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