死と隣り合わせの誕生日会


サンドラ・ビーズリー著『食物アレルギーと生きる詩人の物語』は、乳製品、卵、大豆、牛肉、エビ、松の実、きゅうり、カンタロープメロン、ハネデューメロン、マンゴー、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、カシューナッツ、めかじき、マスタードにアレルギーを持つ著者が、アレルギーとの生活を綴っている。タイトルの、死と隣り合わせの誕生日会とは、誕生日会にデザートを食べた後、誰かが必ず「バースディ・ガールを殺さないでね」というところからきている。誕生日会には、ケーキがつきもの。サンドラが、アナフィラキシーショックを起こすため、乳製品・卵等を食べた人は、絶対にサンドラにキスをしてはいけないのだ。

この数年でもっとも共感の多い本だった。

理由は単純。私自身が、エピペン・サルタノール・プレドニン・セレスタミン・タリオンを肌身離さず持ち歩く生活(つまり、同じ食物アレルギー患者)だからだ。ちなみに、私は、たばこに含まれる燃焼促進剤にアレルギーがあり、宴会帰りの夫は、衣服を全部脱いでビニール袋に入れてから、家に入り、そのまま風呂場へ直行する。一度、忘れていてそのまま家に入ってきて、私が発作を起こして呼吸停止したことがあるからだ。以来、「ゆかりちゃんを殺さないように」というのが口癖だ。

サンドラ・ビーズリー著『食物アレルギーと生きる詩人の物語』は、2015年の2月に購入したのだが、長らく積読していた。読もうと思って買った直後に、切迫早産で絶対安静となり、病院や夫が私のために出す食事は、「絶対にアレルギーが出ないもの」。ひどくつまらない食生活にイラついたが、多くの薬にもアレルギーを持つため、「絶対にリスクを取らない」で出産までこぎつけないと、母子ともに助からない可能性が高かったので、致し方なかった。

そんな中で、この本を読んで、「挑戦」をしたくなったらまずいなと思い、出産までは読まずにいようと積読に入れておいた。出産後は、娘の入院・手術などにてんてこ舞いで、いつの間にか積読の山に埋もれていた。

「2018年も終わりに近づいたから、本の整理をしなきゃ!」と、夫がいう「たまに訪れる突然の断捨離」を実行中に、積読の山たら出てきたので読んだのであった。

食物アレルギーと生きる詩人の物語』は、患者の立場で書かれている食物アレルギー入門書として、極めて分かりやすい本だ。単なる患者の回想録ではなく、アレルギーの仕組みや、治療法などをわかりやすく書いており、食物アレルギー患者の周囲にいる人が、正しく知識を身につけるサポートになるだろう。食物アレルギー患者の家族には、ぜひとも読んでもらいたい。

くら~い回想録ではない。「わたしたちは世界をほんの少し違う形で体験しているだけ」と著者が書いているとおり、著者は人生を楽しむために料理教室に通ったり、著者がアレルギーを持つ肉や乳製品・ナッツが多数出るような結婚式にも出席して、海外旅行にも出かける。

アレルゲンを完全除去する生活などほぼ不可能で、暴露することは必ずある。20種類以上のアレルギーを持つ人が、1人の人間として、楽しんで生きるということがどういうことなのか。自分が置かれた立場で人生をエンジョイするのだという力強いメッセージが書かれているのだ。

「サンドラにやさしい食事」にありつくまでの話は、同じ食物アレルギー患者としては、はらはらドキドキする。何度も救急に運び込まれる危ういシーンも出てくる。でも、「世界は私を守るためにまわっているわけではない」という言葉にあるように、この世界の中で、食物アレルギー患者がほかの人と同じように人生を楽しむサンドラの生き方は、100%正しいやり方だとは思えないけれど(自分の命をリスクにさらすため)、それでも、自由に生きていこうとする彼女の姿勢から学べるものは多い。

また、ピーナッツアレルギーを恐れ、学校に持ち込み禁止をしようとする運動に対しては、疑問を唱えるなど、アメリカ社会における食物アレルギーがどう扱われているか、患者の気持ちだけでなく、家族や恋人、お医者さんたちなどの、さまざまな視点から食物アレルギーについて伝えようとしている点は、素晴らしいと思う。

何がいいのか、悪いのか、どうあるべきなのか。2011年執筆当時の最新の治療についても書かれているが、いろんな視点から物事を見ることの大切さは、食物アレルギーの患者でなくとも学べる本だろう。

私はこの本を読みながら、もっと家族に感謝すべきだろうと思った。夫は、私が重度の食物アレルギーと診断されてから今日に至るまで、アナフィラキシーショックを起こした私を絶妙な角度でホールドしながらなんとか吸入させてステロイドを飲ませ、病院に運んできている。初期のころは吸入の量を間違えたり、私がたぶん大丈夫といったのをうのみにしてステロイドを飲ませず、その後アナフィラキシーショックを起こして呼吸が停止したことなどあったが、今やアナフィラキシーショックを起こす直前の「ゼロゼロ」音を聞き分ける能力は天才の域に達している。(サンドラは、「ロンロン」と表現しているが、私の場合は、ゼロゼロだ。)娘の食物アレルギーがあるので、外食の際、娘と私の食物アレルギーを考慮してメニューをオーダーするという難しい作業も難なくこなしている。ありがとう。本当にありがとう。言葉で直接言ったことはないけれど。

周囲の知識と経験と愛によって、私たちは生きていけるのだ。

Top image by Annie Spratt on Unsplash

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秋山ゆかり

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