恋には落ちたくないわ……

映画監督としても知られるミランダ・ジェライの長編小説『最初の悪い男』。秋の夜長に読むにはぴったりの1冊だ。

主人公で語り手のシェリル。イタイ人だ。究極の断捨離「システム」を推し進めるなんて、私の周囲にはいてほしくないタイプの人。「毎日の手触りはつるつるになって、もはや自分で自分を感じられないような、自分が存在していないような気にさえなってき」ているなんて、この人の心は大丈夫なんだろうか!?

こんな描写をするあたりに、ミランダ・ジェライらしさを感じる。映画監督でもあるので、言葉の紡ぎ方が、情景を見せるようなのだ。

シェリルは、上司から頼まれた20歳の娘クリーを預かることになった。巨乳美人だが風呂に入らないため足が臭いクリー。このクリーによって、シェリルの生活は崩壊していく様がなんともすざましい。沈黙と暴力のバトルが、やがて女子プロバトルみたいな演技的なものになっていく。そして、クリーが妊娠したことをきっかけに、2人はやっと会話が成立するようになっていく。が、子供を産んだクリーは出ていき、シェリルが育てる。その子が成人して結婚し、飛行場に行って年老いたシェリルを迎える場面で物語は終わる。

え~、こんなストーリー、ありなの!?

どんなにがんばっても私にはできないが、普遍的なものを抉り出すその文章に、読者は、物語に引きずり込まれて、これでもか、これでもかと翻弄されて、ヘロヘロにされて、たまに、そばによってきたかと思ったら、突き落とされる。悪女と付き合いボロボロにされていくような感じだ。読み終わると、ぐったり。でも不思議なことに、幸福な気持ちになっている。そうだ。この小説は、ヘロインだ!

「心理状態しだいで人はどんな人間とでも、いやモノとさえ恋に落ちる」というけれど、これを読むと、恋には落ちたくないなと思う。

日々の子育てと仕事に疲れているからであろうか。今は、平穏な心で生きていくことを切望している私には、本だから許されるダークな妄想なのかもしれない。

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秋山ゆかり

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