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【日記】「写真家がハンドメイドで写真集を作り、一度燃やしてから出版しなおし、売り歩いた話」を聞いてきた


2年前、フェイスブックか何かでこんな記事が流れてきた。

仲のいい祖母と孫で、お互いがお互いの一部のようで、時には恋人どうしみたいに見えるこの2人が迎えた結末。あまりのことにひどく心を揺さぶられて、しばらく忘れられなかった。

優しい彼は何かに行き止まりを感じていたのかも、大事な人を失う未来に耐えられないと思ったのかも、身近な人が知らない別の顔があったのかも。この写真しか知らない私ですら、その理由を探してしまう。でも永遠に、答えはない。

記事をブックマークして、誰に言うでもなく時々眺めては、悲しくなったり、誰かに優しくしたいなと思ったり、生きることについて考えたりした。写真集があることを知ったけれど、ものすごく生々しい他人の悲しみを手元に置いて、これ以上深入りするのが怖かった。


今年に入って、この写真を撮った吉田亮人さんが偶然にもここ彦根でトークイベントをすることを知った。思ってもみない出来事だった。その日は用があって行けないけど、すぐに調べて全国ツアーだと知って、京都 誠光社での回を予約した。怖さや迷いはもうなかった。 

吉田さんは、想像よりずっと気さくな人だった。デザインから裁断、糸で綴じる製本まで全て自分でやって111冊の私家版写真集を作った話を聞かせてくれた。そのうちの1冊を、2人の墓前で燃やしたことも。写真集を燃やしたら、苦しかった心がすっと落ち着いたそうだ。それがなぜか、吉田さんは言わなかった。語られないことは、自分だったらと想像できる。写真集は燃えて、煙になって、2人のいる天国に行ったんだ。自分だけのものだった心の中のかたまりが空気に溶けて、この世界の一部になったんだ。

出版された写真集は、写真家の手から私の元にやって来た。写真と私をつなぐ1本の道ができた。今はこの写真集を開くたび、いなくなった2人だけではなく、それを撮った写真家の優しい顔が思い浮かぶ。写真のいいところは、撮った人の目を借りられることだと思う。遠い場所で、私の知らない人達の間で、こんなことがあったと知らせてくれてありがとう。


吉田亮人さんの情報や、今後のイベント予定は公式WEBサイトから。
http://www.akihito-yoshida.com

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