見出し画像

「腐る経済」を読んで


田舎のパン屋と腐る経済

2013年に発売されたこの書籍。
パン学校の同期の良かったという感想をきいて自分も拝読。
もし発売当時に出会っていても脳内rasにひっかかっていたとは思えない。
多分いまの自分だから関心をもてたのかも。

腐らない食品、腐らないお金

サラリーマン、長時間労働のパン屋を経て資本主義と社会構造に疑問を抱き、マルクスや発酵・菌と人の暮らしをからめて考えられたことが詰まっている。
ここでまとめるのは難しいけれど、本来自然界ではモノはいずれ発酵または腐敗していくのが摂理。
一方でお金だけは唯一腐ることがなく、その不自然なモノを追い求めていく結果、利潤を目的とした腐らない食品が増えていくという。
腐らない食品は、添加物を入れて日持ちを良くしたり、大量生産することで低価格で市場を席捲していく。
同じ賃金でも労働時間を増やせば、雇用者(資本家)は利潤を増やすことができる。労働者は自分の時間、労働力を売ることで賃金を得ているのは、自身ではお金を稼ぐ資本(機械設備等)をもたないから。
生産物は大量生産で利潤を得るため、画一化された作業のなかで職人の技術は次第に不要となっていく。
誰でも出来る仕事になるから使い捨てになってもかまわない。

そこで労働者自身がお金を稼ぐための設備などを自前で持ち、いわゆる「小商い」をする社会であれば、資本主義の問題点(ITや物流など良い点もあると書かれている)を克服できるのではないだろうかと説いている。

資本論の是非はあるけれど、著者の経験と現代日本の状況を挙げて考察されていて、自分もうなづく箇所がところどころにあった。

病院薬剤師として見てみると

雇われの医療従事者としてもうんうんとうなづくことがある。
自分の勤務先でいえば、何年間も続けて病院機能の拡大を続けてきた。
規模に見合う以上の高度医療の提供、救命救急の拡大、集中治療ユニットの増床、大学病院以上の感染症患者受入、Nsやコメディカルとの比率を考えても異常な医師数の多さ(診療サポートが回らない)、、、
施設設備やスタッフのキャパを明らかに超えていることを厭わない。

進化をやめたら組織としてナンセンス、常に変わっていくものと言い聞かせてなんとかそんな無茶ぶりに対応しようとしてきた。
医療で地域に貢献、人命を救う、社会の安心核となる。
反論できないモットーに身を奮い立たせてきたけれど、最近はどうも距離をとって見てしまう。

国や自治体の交付金を使って大きな事業をする。それもいい。
利益が出たら機器保守や新しい医療機器・工事に投資する。それもいい。
お金はしっかり循環していそうなのはいいこと。
でも働き手は永遠に忙しくて、給料は上がらない。
身の回りのことだと、治験や手術には多くの労力を要し、裏では個人で扱うことが一生なさそうな大きなお金が動き、そもそも社会的意義や倫理性が適切なのか疑問をもつケースもないわけではない。

もっと田舎のパン屋と経済の話をイメージしていたけれど、なかなかシビアなところをついてくる本だった。

著者のお店「タルマーリー」さんのパン発酵の考え、あり方はドリアンと違うところもあるけど、重なるところ、似ているところもちらほら。
お店のHPを拝見するとなんと素敵な場所なんだろう、、、
生き方=働きかたとして体現していることにすごいって思うけど、憧れないでお手本にするんだ!と意識するのだった。

「菌の声を聴け」も面白そうだから読んでみようかな~。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?