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気軽に助けあおう

*このコンテンツは無料です。

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日本人は気軽に助け合うのが苦手です。

「ひとさまに迷惑をかけるな」と言われて育つので、困ったときにも「助けてください」と援助を求めることができず、「自分だけでなんとかしなければならない」と思いつめてしまいます。

ベビーカーで電車に乗る若いお母さんや妊婦に席を譲ることに関する話題でもそれを感じます。 「ベビーカーをたたんで乗れ」、「混んだ時間を避けろ」という批判だけでなく、「せっかく助けてあげようとしたのに断られたから次からはやめる」などの体験談もあります。「迷惑をかけるな」と攻撃されるので、助けようとする人があらわれても受け入れてはいけないような気がしてしまうのでしょう。

断るのが苦手なことも、日本人が気軽に助け合えない原因のひとつです。 自分自身が切羽詰まった状況であっても頼まれると「NO」といえずに引き受け、「こんなに大変なときに……」と相手への苦々しい思いを強めることになります。 逆に、軽い気持ちでお願いして、激しい拒否に出会うこともあります。

私自身も、これら全部を体験してきました。 とくに、13年前の新人作家のときの体験がトラウマになっています。あるベテラン作家と(当時まだあまり発展していなかった)ネットで親しくなり、毎日のようにメールで国際政治などについて意見をとりかわしていました。そのさなか、小さな件で依頼したいことができ、悩んだあげく「失礼かもしれませんが…..」と問い合わせたところ、「あなた、自分を何様だと思っているんですか!」と叱責されてしまったのでした。

この体験から、私は自分のほうからはなるべく助けようと決意しましたが、助けを求めるほうは苦手になってしまいました。

アメリカに来て驚いたのは、いろんな人が気軽に助けあっていることでした。

これは、私が出会ったエストニア人の青年から聞いた話です。

ボストンで注目されているスタートアップ会社GrabCADのCEOのハルディ・メイバウムさんは、占領されていた旧ソビエト連邦から1991年に独立したエストニア共和国で生まれました。

世界中のメカ系エンジニアが3D CAD(コンピュータ支援設計)データをシェアできるオンラインコミュニティを友人と作り上げたメイバウムさんは、ユーザーの大半がアメリカ在住だということに気付き、アメリカ移住を企てました。

すでに結婚して幼い娘が2人いた28歳の青年は、貯金の半分以上を費やして家族連れでアメリカを訪問しました。持ち金2000ドル(20万円程度)で2週間滞在し、会社設立の準備をするという無謀な計画です。

アメリカにコネがまったくなかったメイバウムさんは、CADのコミュニティがあるボストンとスタートアップのメッカであるシリコンバレーをターゲットにしました。そして、到着するなり、「会ってください」という電話攻撃を始めたのです。

彼が驚いたのは、「保守的で冷たい」という先入観があったボストンでした。有名で多忙な人たちがちゃんと電話に応じてくれただけでなく、実際に会ってくれたのです。

見知らぬ外国人の青年であるメイバウムさんの話に耳を傾け、援助できない場合にはほかの人を紹介してくれるアメリカの著名人たちに、メイバウムさんは驚き、感動しました。

「エストニアだったら、地位がないかぎりは電話もつないでももらえませんよ」と彼は笑います。

メイバウムさんの奥さんも、彼を助けてくれた人びとの多さに驚いていました。

「彼は、エストニアでは『思い上がっている』とか『礼儀知らず』と眉をひそめられるタイプだったのに、アメリカではみんなが『あいつは面白い』『元気がある』『いいやつだ』と可愛がってくれるんですよね。」

(メイバウムさんと。彼の新刊『The Art of Product Design』はこちら


最近は企業のCEOやベストセラー作家などに会うことも増えたのですが、そういう忙しい人たちであっても、その人物が興味深いことをやっていて、共感を覚え、やっていることを応援したいと思ったら、直接自分の利益にならないことでも気軽に手を貸します。

そうやって気軽に繋がった人たちと、後で一緒に仕事をすることになったり、助けてもらえるようになることを、彼らは実際に体験してきているのです。

私もアメリカでメイバウムさんのような体験をしていますが、ツイッターをやるようになって知ったのは、日本人でもそういう気軽な助け合いをできる人がたくさんいるということでした。

私は2009年1月にツイッターを始めたのですが、そのころのはツイッターは住民が少ない「村」のようなものでした。その当時から参加して親しくなった方々は、気軽に繋がることに慣れているせいか、頼んだり、頼まれたりすることもとても気軽なのです。

電子書籍『どうせなら、楽しく生きよう』を手作りすることに決めたとき、一番悩んだのは「本の質を守ること」でした。作家が書いたままで世に出せるような本はめったにありません。プロの編集者が内容をチェックし、読者に伝わりやすいように書き直しを提言し、誤字や脱字がないように著者と一緒に校正して出来上がるものです。

しかし、個人でプロの編集者を雇うと、電子書籍の値段を普通の書籍程度に値上げして、冊数もたくさん売らねば大赤字になってしまいます。でも質を犠牲にはしたくありません。

そこで私は思い切ってソーシャルメディアで知り合い、親しくなった方々に「原稿を読んで、率直なご意見をお聞かせください」とお願いしたのです。もちろん「お忙しいと思いますので、その場合には『今回はパス』とおっしゃってください。ほかにも頼んでいる方がいるのでぜんぜん気にしません!」と付け加えました。

すると、ほんとうに多くの方が手伝ってくれたのです

誰にも1日は24時間しかありませんし、自分の仕事で睡眠時間もないときに他人を助けるのは容易なことではありません。

求められても共感できないことはあるでしょうし、たとえ共感を覚えても得意ではないこともあるでしょう。

そういった理由でお手伝いできないときには、私も「今はちょっと時間がないので」とシンプルに断るようにしています。

そのときにはできなくて断ったのに、後で仲良くなって応援させてもらった人もたくさんいます。

そういう助け合いをするための基本ルールは、「相手に過剰な期待をしないこと」だと思うのです。

「ちょっとお願い」「ごめん、今回はできな〜い。次はかならず」といった感じで、頼むのも、頼まれるのも、気軽にやっていこうではありませんか。


*自費出版した『どうせなら、楽しく生きよう』が、飛鳥新社から紙媒体として発売されました。

読みやすいように章を入れ替え、新しい章も加わっていますので、電子書籍をお読みいただいた方にも楽しんでいただけると思います。





*Noteで著者が使用している写真はすべて著者が所有するもの(ペンギンを含む)か、公共の使用が許されているものです。無断使用は禁じます。

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