昭和の新興住宅地に生まれて

伝統的な祭に参加する友人への羨望

建売の小さな家が立ち並ぶ、首都圏の郊外の昭和40年代の典型的な住宅地で育ちました。

クラスの半分はそうした住宅地に住む人達。
半分は昔ながらの大きな家に住む人達。
たまに遊びにいくと、家の大きさにびっくりしたものです。

住んでいる場所によって特別な差はなく、住む場所を意識せずに遊んでいました。私は自分の住む住宅地の子とはあまり気が合わず、住宅地外の子と遊ぶことが多かったかもしれません。

ただ一年に一度だけその違いを意識する行事がありました。

地元に古くから続く、秋祭りの日です。

何台もの地区ごとの大きな山車が、賑やかな掛け声と祭り囃子と共に街の中を行き交います。
歴史と伝統を感じる祭りで、沿道には的屋の屋台が立ち並び、多くの観光客が市外からもやってきて、街は異様な熱気に包まれるのです。

その地区に住む子ども達は、授業を早退して祭りに参加します。
各地区の法被を着て、山車を引っ張る人もいれば、祭囃子に参加する人もいて、それはとても大人びて素敵に見えたものです。

氏神様不在の新興住宅地の祭り

歴史のある秋祭りは大人達の祭りですが、私達新興住宅地のお祭りは子ども向けのものでした。

お神輿は花紙で作ったもの。
まるでスーパーの特売日のような派手な青色のレンタル法被。
花紙のお神輿でぐるっと地区を回ると、駄菓子の詰め合わせをもらえる、というもの。

そもそも地区に神社がないので仕方ないわけですが、これは本当のお祭りではない、お祭りごっこなんだ、と子ども心に思ったものです。

大人になってからは、住んでいるマンションのお祭りも経験しました。
花紙の神輿より、もうちょっと格好いい派手なお神輿を子どもに担がせることができましたが、そのお神輿はダス○ンさんのレンタルでした。
法被はもちろん、なんと出店運営までダス○ンさんのレンタル。
お祭りの形にはなっていますが、やはりそこに神様はいませんし、子ども向けであることも否めません。

ただ現実問題として、レンタル活用するとしても祭り運営というのは大変なことで、打ち合わせや準備など、子どもの頃には見えなかった大人の苦労も沢山知りました。幼い頃の花紙で作ったお神輿にもそうした大人たちの苦労があったんだろうな、と想像して、感謝の気持ちを持ったりもしました。

核家族化の当事者である親世代

戦後、核家族化が進んだことで、全国各地に新興住宅地が登場し、本来の土地を離れた人たちがどんどん移り住みました。

地方の村のお祭りではお神輿の担ぎ手がいなくて、お神輿は飾るだけ、という話も聞きます。大きなお祭は残っていても、消えてしまったお祭りもまたあるのかもしれません。

大都市への人口の集中と、核家族化によって、過疎化が進む。
首都圏の街に生まれ育った私にとって、遠くの過疎地のことは、どこか他人事でした。でも私たちの親はまさにその当事者だったわけです。

根なし草として生きることの心細さ

私たち一家は、神輿のある村を出て、東京の労働力として郊外の住宅地に引っ越してきた家族で、昭和の典型的な核家族だったのだと思います。

私の母からしたら、父の家族と同居をしなくていい、というのは凄く大事なことだったかもしれません。
家から解放された母は明るく、そうした環境の中で私はのびのびと育ちました。

だからそれを否定するわけではないのです。

ただ一方で、
方言を持たず、共通語で話す、とか
伝統的な地域の祭りに参加資格がなく、子ども向けの祭りしかない、とか
地域の産業に関わりがない生活、とか...

こういう中では地域人としてのアイデンティティは育ちにくく、私自身郷土愛みたいなものはあまりありません。

生まれながらにして根なし草のようなところがあります。

家を持って定住していても、何となく他所者であることを意識したり、人間関係の希薄さに物足りなさを感じたりするのです。

地域のコミュニティがセーフティネットなんだと意識するとき、自分の所属する地域の気楽だけど希薄な繋がりにふと不安を覚えたり。

ハロウィンやクリスマスなど、私たちが商業的なイベントに乗っかってしまうのは、自分たち独自の祭文化を壊されてできた穴の埋め合わせなのかもしれない、とさえ思えてきてしまいます。

地域独自の文化を持った土地に古くから住む人たちのお祭りは、維持するのもきっと大変で、合理的でない習わしと一緒に、人によっては負担が重いこともあるのだろうと想像します。その大変さを含めて「憧れ」と形容することは、まさしく現実を知らない人間の戯言なのかもしれません。

ただ、土地に生きる人の大変さは比較的語られる機会があるように思うのですが、根なし草の形容しがたい不安定な気持ちはあまり語られることがないような気がして書いてみました。

結局は隣の芝生だとばっさり切って落とされそうですが。

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