欧州クラブのチームモデル: アカデミー編

こんにちは。Yukesです。ユークスと読みます。前回の投稿では欧州クラブのチームモデルと題しまして、チームモデルの意味とチームモデルの構成要素、欧州クラブの取り組みについて導入として軽く触れました。今回はアカデミーのチームモデルについて扱います。またこのnoteを書いている時期にちょうどジュネーブで行われたInternational Sports Conventionに参加しました。そこでチームモデルについての話も出てきましたのでいくつか紹介したいと思います。

理想と現状


多くのクラブにとっての理想はトップとアカデミーのチームモデルが繋がっている状態です。ISCでクリスラムジーさん(Queens Park Rangersでアカデミーダイレクターをされています。)はこのようにトップとアカデミーのチームモデルが繋がっており、クラブと同じフットボールスタイルを持つ監督をトップチームに連れてくることができるクラブの状態をOne Club Modelと呼んでいました。

有名な例を挙げると、アヤックスやバルセロナがまさにそれです。トップのスタイルがアカデミーまで落ちてきていて、各ポジションの番号がクラブ内で統一されており、その番号を持つ選手の役割も明確化されています(最近はバルセロナも少し変わってきたみたいですが)。またスウォンジーやプレストンノースエンドもそういった方向にシフトチェンジしているそうです。しかし、これはあくまで理想の形であり、多くのクラブが現状ではアカデミーとトップで一貫したチームモデルを持つのは不可能とも話されていました。

彼は「イングランドのトップチームとアカデミーでは予算的に全く違う組織であり、目標も違います。トップチームでは勝つことが全てです。そのため、多くのクラブはあるフットボールスタイルを持つ監督が負け始めるとこのスタイルではうまくいかないと感じ、違うスタイルの監督を連れてくる、そしてそれにあった選手を他のクラブから獲得するといった方針(A方針)をとっています。QPRでは過去3.5年間で6人の監督がトップチームを率いました。またリーグ全体の監督のクラブ平均所属年数は1.1です。このような状況でトップチームの監督が主体となってクラブのスタイルを決めた場合、監督が変わるごとにカリキュラムを変えなければならず、長期的な選手の育成は不可能です。我々はクラブが主体となりアカデミーのチームモデルを作成しています。トップチームの監督からインスピレーションを受けることはありますが彼らが主体となって作ることはありません。」と話されていました。

上の画像は彼が以前トッテナムで指導していたハリーウィンクスのアカデミーからトップチームまでのパスウェイです。彼が育つ間にトップチームの監督は10人近く変わっています。

現状、多くのクラブではアカデミーとトップのチームモデルが繋がっている訳ではなさそうです(中にはそういったクラブもあります)。ただ、確実に言えることは少なくともアカデミーレベルではクラブの哲学を元にチームモデルを作成している、することによって再現性、生産性を高める手法が欧州では一般的になっているということです。

今回のISCに参加されていたDortmund、 LA Galaxy、 北京国安、(米中のクラブも含みますが、いずれのクラブもチームモデル作成時は欧州出身のコーチがクラブに所属していた)のユースコーチの方々とお話しさせていただいた際に「アカデミー内に共通のチームモデルはありますか?」と聞いたところ、どのクラブも「アカデミー内に共通のチームモデルがあり、クラブが主体となって作っている」と仰っていました。また、LA Galaxyのコーチの方からは「チームモデルに完成はないんです。それは毎年進化していくものなのでこれで出来上がりということはなく、有益なものが出てきたら積極的に取り入れるようにしています。」というメッセージを頂きました。


アカデミーのチームモデル: 実例


ここでは実際にアカデミーのチームモデルを紹介していきます。

*どのような情報が必要なのかということは各クラブによって変わってきますのでチームモデルの正解は存在しないという前提でご確認ください。また、「チームモデルを持つこと=正解」ではないということもここで強調します。チームモデルを持つ目的は言語化、可視化することだけではなく、どうすればクラブ内に情報を蓄積することができ、生産性を高めることができるかということ、情報が属人的になるのを防ぐことができるかということです。言語化、可視化はその為の一つの方法に過ぎません。またチームモデルを実行していく能力を持ったスタッフ、スタッフの育成も必要です。 

ホームページでアカデミーのチームモデルの概要を公表しているクラブ(クラブ哲学、クラブ哲学をフットボールで体現するためのプレースタイルまでは公表しています。)Rocdhdale A. F. C, Schalke 04, Port Vale FC, Derby County Ladies, Grimsby Town FC, Hull City, Newport County AFC, Stevenage FC, Swansea City AFC(One Club Model), Blackburn Rovers FC, Oldham Athletic以上のリンクはチームモデル作成のスターティングポイントだと考えることができます。

ここからさらに細かく内容を定めているクラブの資料も公表されてましたので以下にリンクを貼ってます。Preston North End

今回ISCに参加していたクラブの方々からアカデミーのチームモデルの資料を見せていただきましたが、実際にはPrestonの資料よりもさらに詳細に情報が言語化、可視化されており、新しいコーチがクラブに入ってきてもすぐに戦力になるように整理されていました。またトレーニングに関してはコーチの力量に合わせてクラブ側が指定する範囲が変わるそうです。新しいコーチに対してはクラブ側がカリキュラムに沿ったメニューを指定し、慣れてきたら徐々にコーチにメニュー作成を任すといった具合です。

クラブの資料ではありませんが、アカデミーのチームモデルを作る際にFIFAが公表しているユースフットボールの資料も参考になると思いますのでリンクを貼っておきます。FIFA Youth Football

複数のプレースタイルを習得するのは不可能か?

ここまでの内容で大きく分けて2つ、クラブのタイプがありました。1つ目がトップとアカデミーのチームモデルが繋がっているクラブ(タイプ1)、そして2つ目がトップとアカデミーのチームモデルが繋がっていないクラブ(タイプ2)です。タイプ1に関してはトップチームでどういったプレーが要求されるのかがすでにわかっているのでプレースタイルであったり、各ポジションのタスクも明確に落とし込むことができます。そしてそれをUnconsciously Competentのレベルまで持っていくことができます。問題はタイプ2のクラブです。欧州のトップレベルになればなるほどタイプ2が増えますが、彼らは現在10歳の選手が18歳になった時にトップチームがどんなフットボールをしているのかがわからない状態で選手を育て上げる状況に置かれています。

こういった状況でアカデミーとしてはゲームモデルを統一するべきなのか、それとも様々な状況に対応できるように選手を育成するべきなのかという二択が考えられます。アカデミーとしてゲームモデルを統一すると、一つのゲームモデルの中で多くのオプションを持つことができますし、それに加え、選手たちは長年培ってきた経験がプラスし、速いスピードの中でもことができます。しかし、他のゲームモデルのチームに将来入団した時、今まで培ってきたものがない為ゼロからのスタート、他の選手に遅れをとることになりかねません。生涯を通して1つのスタイルでしかプレーしませんでしたという選手は今後減っていくため、このやり方で育成されると選手生命のどこかでその壁にぶつかることでしょう。

この状況で選手が生き残るためには何が必要か欧州のクラブが考え、行き着いた1つの仮説は、複数のゲームモデル自体を教えるのではなく、フットボールというゲーム自体を教えるということでした。もっと詳しく説明します。

フットボールは勝つために点を取ること、そして自分のゴールを守ることがゲームの目標として存在します。相手よりも時間内に点を取ることができれば試合に勝てます(そうですね、チャンピオンズリーグだと負けても合計点で勝てたりしますがその試合には負けてます)。ただピッチ上に立っているだけではもちろん勝てません。相手よりもゴールを奪うためにはゴールに近づかなければなりません。相手のゴールに近づくためにはボールを前進させることが必要です。ボールを前進するための方法はチームによって違いますが(ゲームモデル)、ボールを前進するために選手がしていることは同じです。皆さんもご存知の通り、認知→判断→実行という3つのサイクルです(ある国でフットボールを学ばれた方は認知判断実行だけではなく、決断もあるという意見もあるかと思われますが、ここではこれを使わせていただきます)。認知する部分は従来、主にボール、スペース、選手、時間だと言われています。しかし、ここで大切なのは選手たちはただそれを認知するだけではなく、1. ボールとスペースと選手と時間が存在するフットボールのゲーム、そして人間という生物の構造上、ピッチ上でボールを運ぶために優位な状況というものが存在していること(WHAT)を理解して、それらを試合で認知しなければなりません。フットボールには時間制限、ピッチの範囲とゴールへの方向性が存在するためボールが運びやすい、ボールが運びにくい状況が存在します。*運べるかどうかではなく、運びやすいかどうかです。最近頻繁に呟かれている位置的優位、質的優位、数的優位...といったこともここに当てはまると思います。そして2. どうすればそれを認知できるのかといった部分(HOW)も勿論学ぶ必要があります。複数のゲームモデルを習得できる選手を育成したいクラブが力を入れているのはここではないかと感じます。最近PSGのアカデミーがエコノメソッドという認知にフォーカスを当てたトレーニングのを取り入れているという記事が出ていました。

このセクションを書く上でUEFA Aライセンスを保持し、フィンランド1部のチームでコーチとして活動されている方に認知を鍛えることにフォーカスを当てた『エコノメソッド』についてお話を聞きました。(エコノメソッドを全面推奨しているわけではなく、認知を鍛える1つのやり方としてエコノメソッドが存在しますというメッセージです。また彼はエコノメソッドの社員でもないため彼自身の解釈も含まれるという前提お読みください。)

エコノメソッド

「(まずですが、エコノメソッドは何にフォーカスを当てたトレーニングなんですか?)エコノメソッドはフットボールをプレーする上で誰もがしている認知→判断→実行という3つのステップの『認知』に焦点を当てたトレーニング方法です。我々は認知をさらに深く、何を?いつ?どうやって?といったことを理解するためにエコノメソッドを使っています。そして、その何を?に関していうと、ゲームモデルよりも上の階層に位置しているGame Fundamentalsのことを指しています。(ゲームモデルよりも上の階層とは?)ゲームモデルは監督のフットボールのアイデアであり、非常に主観的な階層です。ロングボールであれ、ショートパススタイルであれ、どうやってボールを前進することができるかということは監督のアイデアによって決まります。全ての人間に共通する原則が存在しません。ゲームモデルが変われば原則も変わります。しかし、エコノメソッドは、ゲームモデルではなく、フットボールをプレーする全ての人間に共通するフットボールというゲームの特性を選手に理解させることが目的です。我々はGame Fundamentalsと呼んでいますが、呼び名は問題ではありません。フットボールの中には人間がボールを前に運びやすい状況、運びにくい状況が存在します。そしてこれは全ての人間に当てはまることだと考えています。(もう少し具体的に?)わかりました。

上の1と2の状況をみてください。我々は黒チームで、白が相手です。上方向に我々のゴールがあると考えてください。この状況で白の相手のラインを超えたいです。1と2のどちらの方が前にボールを運びやすいですか?**繰り返しになりますが、前進させることができるかどうかではなく、選手にとってしやすいかどうかです。(2です。)それはなぜですか?(1だと相手の視野の中に選手とボールが入ってしまい、相手がマークがしやすいから?2の方が相手から遠いし、ワンタッチで簡単に超えられるから?)まあそれでいいでしょう。2が持つ優位性はフットボールにピッチの範囲が決められいること、ピッチ上に配置できる選手の数が決まっていること、人間が馬のような視界を持っていないこと、人間は瞬間移動できないこと、人間の足の長さが4mないことといった人間とフットボールの特性によって生まれていると考えています。どんなゲームモデルのチームでも2の方が運びやすいと答えるでしょう。この図はほんの一例ですが、人間の体の作りとフットボールという試合の特性によって、このようなどうしても優位性が生まれる場面は試合の中で数え切れないほど存在します。それを我々はGame Fundamentalsと呼んでいます。(Game Fundamentalsは戦術ではない?)違います。Game Fundamentalsは全ての人間に当てはまります。上の図でどちらの方法で前進させたいですか?と聞いたら1と2に分かれると思います。これはゲームモデルが違うからです。ただどちらの方が進みやすいですか?と聞いたら、相手が人間であるなら2です。イニエスタはどちらでも簡単に突破できますが、そんな彼でも2の方が前に運びやすいというでしょう。よくエコノメソッドの話をするとスペイン流のフットボールの解釈ですよね?と聞かれますが違います。スペイン人であろうと日本人であろうとフィンランド人であろうと当てはまるものがGame Fundamentalsです。(これが複数のプレースタイルを習得するための助けになる?)これは個人的な意見ですが、大きく見たときのプレースタイルは違ってもフットボールというゲームの根底に存在するGame Fundamentalsが同じなのでそこを理解すれば選手は違うプレースタイルにも対応できると思います。例えば先ほどの位置的優位や数的優位という考え方はプレースタイルが変わっても必ず存在します。(なんとなくわかったような気がします。日本にエコノメソッドが取り入れられた時は個人戦術みたいな感じで紹介されたと思います。)繰り返しになりますが、Game Fundamentalsはゲームモデルを実行するための戦術と同じ階層に存在していません。戦術はチームによっては当てはまらないことがあります。

(今これを使っているチームは?)有名なのはPSGです。

2015年に彼らはアカデミーのテクニカルダイレクターにエコノメソッドのメンバー2人を招聘しました。PSGはお金があるため、ネイマールやムバッペといったビッグネームに注目が集まりますが、アカデミーの生産性も非常に高いです。またもう1人、コーチとしてエコノメソッドのメンバーからPSGに入りました。この3人がPSGで選手とコーチの育成に勤めています。この人事雇用のポイントは1つのプレースタイルを落とし込める監督ではなく、複数のプレースタイルを理解するためのGame Fundamentalsを教えることができるスタッフを雇ったということです。またSwedenの1部リーグである、GIF Sundsvallの監督もエコノメソッドを活用し、トップチームを作り上げ、現在彼らはスウェーデンのバルセロナと呼ばれています。(それって個人でも学ぶことはできるんですか?チームにしか販売していませんか?)個人で購入できます。あとヨーロッパではコースが行われているのでそちらにも参加できます。次はバルセロナで開かれるみたいですね。(そうなんですね。時間とお金と気力があれば是非行ってみます。ありがとうございました。)」

*プレースタイルに関して、今回のnoteは特に認知の部分にフォーカスを当てましたが、プレースタイルが変われば必要となってくるフィジカルやメンタル部分も変わります。認知だけが全てということではないことを強調させてください。またエコノメソッドを今回は取り上げましたが他にもこういった取り組みを行っている組織は存在します。エコノメソッドが全ての正解ではないことももう一度ここで強調します。

まとめと感想

今回のnoteを簡単にまとめると、トップとアカデミーのチームモデルを統一するのが難しい現状。統一できているクラブはOne Club Model。また、アカデミーで複数のプレースタイルに対応できるキャパシティを持った選手を育成しようとしてる。その1つの方法が認知をするべきことを教え、鍛えるエコノメソッド。ということでした。

前回のnoteから今回のnoteを書くにあたって、ISCで紹介されていた分析やスカウティング、コーチングの新アプリでもエコノメソッドでも、欧州で生まれるフットボールイノベーションはいつもピッチベースだということ、どれも現在の欧州のフットボールタイムラインに沿った発明だという2点を感じました。今までの長いフットボールの歴史の中でまだカバーされていない部分を誰かがカバーするために開発する。この流れが徹底して存在しているなと認識しています。また欧州の人々が誰もカバーしていない部分をこんなに頻繁に見つけることができるのはフットボールが体系化され、チームモデルやゲームモデルといった枠組みが既に存在しているからだと考えています。ただこういった新情報を日本に輸入してくるとなると欧州と同じタイムラインで存在していないため、かなり慎重に輸入しなければ情報が使えません。その2つのタイムラインに互換性を持たすことができないかなというのが、僕の今頭の中にある疑問です。あとエコノメソッドについては一度自分で内容を見てみます。

あともう1つ今回のnoteを書いて感じたことはチームモデルを作っていく上で「優先順位」と「効率を考えた際の決断力」といったものが必要であると感じました。育成がうまくいっているクラブでも何でもかんでもやっているわけではなく、自分たちがやりたいことにフォーカスをあて、それに必要なものを持ってくる。「全てを教えることはできません。」と言える勇気が自分にはないなと思いました。皆さんはどうですか?Twitterで教えてください。



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Yukes

2001-2002シーズンUEFA CLのビデオを見てフットボールの虜になる。 最も印象に残ったのはレヴァークーゼンvsリヴァプール(4-2)。 2002年3月10日のサガン鳥栖vsセレッソ大阪が初めての現地観戦。 プレイヤー経験は高校サッカーの3年間。 1994年生まれ。

チームモデル

チームモデルのnoteです。 最初に書いたnoteは誤って2つとも削除してしまいました。 こちらのリンクからお読みください。
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