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トランスジェンダーのトイレ利用に関しての裁判例

(東京地裁・2019年12月12日判決/東京高裁・2021年5月27日)
原告・経済産業省職員(トランス女性)
被告・国(経済産業省・経済産業大臣)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/244/089244_hanrei.pdf

「性別は、社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており、個人の人格的な生存と密接かつ不可分のものということができるのであって、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益として、国家賠償法上も保護されるべきものというべきである。」

「そして、トイレが人の生理的作用に伴って日常的に必ず使用しなければならない施設であって、現代においては人が通常の衛生的な社会生活を送るに当たって不可欠なものであることに鑑みると、個人が社会生活を送る上で、男女別のトイレを設置し、管理する者から、その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは、当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たる。

被告(国)は「原告の身体的性別又は戸籍上の性別が男性であることに伴って女性職員との間で生ずるおそれがあるトラブル(中略)を避けるために本件トイレに係る処遇を行うことが、庁舎管理の責任者である経産省において果たすべき責務を遂行した合理的な判断である旨を主張している」が、「当該性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等を踏まえて、その当否の判断を行うことが必要である。」

①原告は、性同一性障害の専門家である医師が適切な手順を経て性同一性障害であると診断した者であること、

女性ホルモン投与によって原告が女性に対して性的な危害を加える可能性が客観的にも低い状態に至っていたこと、

③経産省の庁舎内の女性トイレの構造に照らせば、利用者が他の利用者に見えるような態様で性器等を露出するような事態は考えにくいこと、

④原告は私的な時間や職場において、行動様式や振る舞い、外見の点を含め、女性として認識される度合いが高かったこと、

⑤身体的性別及び戸籍上の性別が男性で、性自認が女性であるトランスジェンダーの従業員に対して、特に制限なく女性用トイレの使用を認めた民間企業の例が存在すること、

⑥我が国において、トランスジェンダーが職場等におけるトイレ等の男女別施設の利用について大きな困難を抱えていることを踏まえて、より働きやすい職場環境を整えることの重要性が強く意識されるようになってきており、国民の意識や社会の受け止め方には、相応の変化が生じてきていること、

⑦当該変化の方向性ないし内容は、諸外国の状況から見て取れる傾向とも軌を一にすることから、「被告の主張に係るトラブルが生ずる可能性は、せいぜい抽象的なものにとどまる」。

被告は、原告が女性用トイレを使用することに関して抵抗感等を述べる声が存在していた旨を主張しているが、原告が「執務室と同じ階又は1階離れた階」の女性用トイレを使用した場合に限って、被告の主張に係るトラブルが生ずる可能性が高いものであったこと等をうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。「そして、仮に、上記の被告の主張に係るトラブルが生ずる抽象的な可能性が何らかの要因によって具体化・現実化することを措定したとしても、回復することのできない事態が発生することを事後的な対応によって回避することができないものとは解し難い。

「したがって、経産省(経済産業大臣)による庁舎管理権の行使に一定の裁量が認められることを考慮しても、(中略)庁舎管理権の行使に当たって尽くすべき注意義務を怠ったものとして、国家賠償法上、違法の評価を免れない。」

その後、2021年5月27日、東京高等裁判所で控訴審の判決が出たが、原告が被告側に性同一性障害と告げた2009年時は各官庁で指針となる規範や参考事例はなく、(戸籍上で)性別変更をしていないトランスジェンダーへの対応は未知だった」ため、「注意義務を尽くさなかったとは認め難い」として違法ではないと判断し、違法性を認めた一審・東京地裁判決を覆した。

しかし、「性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは法律上保護された利益」として、引き続き別のフロアにある女性用トイレの使用を認めている。

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