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二次創作アレルギーが治った話

少し前からとある分野(後述)の二次創作を楽しんでいます。とても楽しくて、この年末年始は寝食を忘れる勢いで制作に没頭していました。

でも実を言うと私は最近まで二次創作に対して抵抗があり、ずっと意識的に避けてきました。


二次創作に抵抗があった理由

理由の一つは私がイラストレーターとして仕事をしていることと関係があります。

二次創作とはグレーなもの、公式の権利を侵害するリスクをはらんだものという意識が以前の私には強くありました。

仮にもプロの商業イラストレーターとして仕事をする上で、もしクライアントが私のSNSなどに二次創作作品がアップされているのを見たら、権利関係にルーズな人だと思われるかもしれません。

私の二次創作が、(例えばAmong Usのような)一定のルールのもとで公式に二次創作が認められているジャンルのものであっても同じことです。恐らくクライアントは公式が二次創作を許可しているかどうかなんて知らないことが多いからです。

そういうリスクを考えると、二次創作は手が出しにくいものでした。

そのほか、何となく「クリエイターは自分のオリジナルで勝負してこそ一流なんじゃないか」「二次創作をするのは素人で、プロはそういうことはしないのでは」みたいな考えもあったように思います。今思えば、素晴らしい二次創作作品を制作するプロの方もたくさんいるのに、当時は無知でした。

考えが変わったきっかけ

VTuber文化との出会い

そういう考え方が変わる大きなきっかけになったのが、去年からVTuberの動画を見るようになったことでした。

2023年の春頃からLive2D(2次元のイラストを3Dのように動かす技術)の制作を始め、Live2Dが最もよく使われるのはVTuber用モデルの制作なので、VTuber用モデルにどのような動きが求められるのか知っておく必要があるだろう…ということで、人気のVTuberさんの動画を見始めました。

結果、まんまとVTuberにハマり、私のYouTubeの再生履歴はVTuber一色になりました。

そうして動画を見たり、ツイッターで専用アカウントまで作って界隈に入り浸ったりしているうちに、VTuber業界ではファンによる二次創作、つまりファンアートがとても重要なものとして機能していることを知りました。

公式が一定のルールのもとで二次創作を認めているだけでなく、それぞれのVTuberさんが専用のタグを作って、「このタグをつけてファンアートを投稿してください」「タグがつけられたファンアートは活動で使用させていただくことがあります」とアナウンスしています。そして選ばれたファンアートは実際に動画のサムネイル画像などに使われるのです。

人気のVTuberさんは日々たくさんのファンアートが作られ、そのおかげで彼ら・彼女らの配信のサムネはバリエーション豊かなイラストで彩られています。中には神絵師と呼ばれる人気のプロイラストレーターさんによるファンアートもあり、どれも本当に素晴らしいクオリティです。

▼2023年の女性ストリーマー世界第一位になった人気VTuber兎田ぺこらさんの配信サムネ一覧

「作品は対価を得て作るもの」「対価を支払わずに作品を使用するのはいけないこと」という意識が刷り込まれていた私は、この文化を見て最初とても驚きました。

でも界隈の文化を知るにつれて、使われたファンも嬉しく、ファンアートを描かれた本人にも大きなメリットがあるこのシステムがとてもうまく回っていることがわかり、すごくいいなと思いました。

ちなみに基本的にVTuberさんは動画の概要欄にサムネ使用イラストの制作者名を表記してくれるので、制作者にとっては宣伝にもなります。

HIKAKINさんも二次創作から

考えを変えたもう一つのきっかけが、言わずと知れた人気YouTuber、ヒカキンさんの存在です。

今ではゲーム実況からバラエティ系まで様々な動画をアップしているヒカキンさんが最初に注目されたきっかけは、スーパーマリオの曲のビートボックス動画がバズったことだったそうです。

マリオの曲のビートボックスパフォーマンスというのも一種の二次創作と言っていいと思うので、そう考えるとヒカキンさんも最初は二次創作で有名になったことになります。

これがもしマリオの曲ではなく、「自分で作ったオリジナルの曲をビートボックスで披露しました」という動画だったらどうだったでしょうか。

才能あふれるヒカキンさんだから、それでも有名にはなったかもしれません。でもその場合、成功するのにもう少し時間がかかったかもしれないと思うのです。「みんなが知ってるマリオの曲」をビートボックスにしたからこそ、多くの人に見られたのだと思います。

このことを考えると、すでに人気があるものの力を借りることの効果はすごく大きい、自分の活動でもそういうことができたら…と思うようになりました。

手描き切り抜き動画という文化

二次創作への抵抗が少しずつ薄れ、かつVTuberにハマった去年の私の心をがっちりと捉えたのが、手描き切り抜き動画というコンテンツでした。

近年、YouTube動画の面白い部分や要点などを第三者が抜粋して短い動画にした「切り抜き動画」の人気が高まっていますが、VTuberの世界では元動画の音声に自作のアニメーションをつけた「手描き切り抜き」と呼ばれる動画が盛んに作られています。

中にはすごく凝ったアニメーションのものもあり、普通の切り抜きに比べると圧倒的に労力がかかります。しかし本家のVTuberは限られた動きしかできなかったり、どうしても背景は固定だったりすることが多いのに対して、生き生きと動く可愛いキャラクターや場面に合った背景の展開とともにVTuberの声を楽しむことができる手描き切り抜きはとても魅力的で、「声」が大きな魅力とされるVTuberとの親和性が非常に高いコンテンツです。元々趣味でアニメーションを作っていたこともあり、見ているうちに自分も作ってみたい!と思いました。

また、私がよく見ているのは大手事務所ホロライブのVTuberさんたちなのですが、ホロライブは公式に二次創作ガイドラインを出しており、その中で切り抜き動画の作成や収益化も一定のルールのもとで許可されることが明記されています。

そしてVTuber本人たちもファンによる手描き切り抜きを喜んでくれていることが多く、例えばホロライブのさくらみこさんは定期的にベストオブ手描き切り抜きを紹介する配信を行っています。

このように公式ガイドラインで明確にやっていいことの範囲が示してあり、本人たちも良く思ってくれている様子が伝わることから、この分野ならこれまで二次創作に対してあった「グレーなもの」というモヤモヤした気持ちを抱くことなく、安心して作品づくりができると思えました。

やってみたら楽しすぎた

そういうわけで年末にYouTubeのチャンネルを作り、1月初めにかけて数本の手描き切り抜き動画をアップしてみたところ、予想以上にたくさんの方からコメントや登録をいただきました。

オリジナルのキャラクターのアニメーションなどだったら、決して短期間でこれだけの方に見てもらうことはできなかったと思います。やっぱり二次創作の力はすごいということを実感しました。

そして登録者が増えて嬉しいということだけじゃなく、大好きな推しのコンテンツを作って、同じものを好きな人たちが「すごくいい!」とか「素敵なファンアートを作ってくれてありがとう!」と反応してくれるのは本当に嬉しく、とても幸せな気持ちになります。

とはいえ一定の緊張感は持っていたい

二次創作に対する抵抗がかなり薄れたと書きましたが、それでもやはり一歩間違えば他人に迷惑をかけるかもしれないという緊張感のようなものは常に持っていなければとも思います。決して「私たちの二次創作は公式の利益にも貢献してるんだもん!」などと考えて変な正当化をすることなく、謙虚で慎重でいたいです。

他人の著作物を利用する以上、公式のガイドラインを守っているつもりだったとしても、誰かの権利を侵害したり不快にさせたりする恐れはあると思います。

例えば、VTuberさんは切り抜きを喜んでくれることが多いと書きましたが、悪意のある切り抜き方をされることを理由に自身の動画の切り抜きを禁止にしたVTuberさんもいるそうです。

(ただ、これは主観ですが、手描き切り抜きでは問題ありそうな切り抜き方をほとんど見かけないと感じます。手描き切り抜きは本当に大変な労力がかかるので、推しを応援したい、推しの良さを広めたいという一心で作っている人が多く、大きな愛が無ければできないことだからじゃないかなと思っています。)

ちなみにホロライブに関しては切り抜きチャンネル運営者専用の登録フォームがあり、そこから登録すると切り抜きガイドラインに関連するお知らせを受信できたり、作成したコンテンツに問題があった場合に、プラットフォーム上で削除手続きをされる前に削除依頼の連絡をもらえたりします。こういう仕組みがあるのも、公式と二次創作の作り手の健全な関係を作り、維持していくためにとても良いなと思います。

公式とファンとクリエイターがともに嬉しさを享受できるこの素敵な二次創作文化がずっといい形で続き、広がっていくことを願っています。たくさんの素晴らしいファンアートを見たいし、作りたい。ルールを守りつつ、公式や推しへの感謝とリスペクトと愛を第一に、自分にできる創作で好きなものを応援していけたら幸せです。



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