見出し画像

序文 無料公開 『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』


 10月10日,医学書院より『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』が発売になりました!

 本書は,作業療法士免許を持ちながら出版の世界で活躍する医学書院の小段裕太さんの熱い想いを具現化した書籍になります.難しいテーマを少しでもわかり易くお届けするために,「マンガ」と「要点の解説」で構成で構成することにしました.原作は琉球リハビリテーション学院の上江洲聖さん,解説を齋藤が担当しました.マンガは清潔感のある絵に定評のあるえんぴつさんに描いてもらいました.
 
 このたび,医学書院さんのご厚意により本書の「序文」を無料公開させていただきます.購入を迷っている方も,まずは序文を読んでみてください.


―以下,無断転載禁止―


序文

 学生時代,はじめて先輩たちの実習報告会に参加したときに,「自分にこんなことができるだろうか…」「来年実習に行ったら自分もこれをやるのか…」そんな気持ちになりました.臨床実習が近づくにつれて不安はどんどん大きくなりました.でも何から手を付ければ良いのかわからない… 結局ROMやMMTなどの検査練習ばかりを繰り返しました… 本書を手にとってくれたみなさんにもそんな経験があるのではないでしょうか.作業療法はとても魅力的な仕事です.でも同時に,作業療法はとても曖昧でつかみどころの無い仕事のようにも感じます.

 高校時代,作業療法に興味を持ったあなたは,書籍やインターネットを使って作業療法について調べました.そこには,作業療法の対象が身体障害のみならず,精神障害や発達障害など多岐にわたること,また,治療手段として作業活動を用いることが記載されていました.「作業療法は心のケアも重視するのか」「工作をしながら治療をするのか」そんな作業療法の切片にわずかな興味を抱き,作業療法士を志した人も少なくないでしょう.

 しかし養成校に入学すると,そこで待っていたのは,解剖学,生理学,運動学などの基礎科目に加え,各種概論や基礎作業学などの専門科目,臨床医学…etc,想像をはるかに超える多分野の学習でした.それらの知識をつなぎ合わせ,自分の中に「作業療法とは」を確立することは簡単なことではありませんでした.

 臨床実習に出ると,臨床実習指導者から「作業療法士は何でも屋」「作業療法士は黒子」「作業療法士は対象者の生き様をつくる仕事」などといった抽象度の高い文学的な指導を受けたり,「作業療法はどんな領域でも同じ」「結局は解剖,生理,運動が大切」といった達観的雰囲気の帯びた指導を受けたりする中で,作業療法の範囲の広さや可能性に胸を踊らせながらも,それらの言葉を行動レベルに昇華させることは容易ではありませんでした.

 無事国家試験に合格したあなたは作業療法士としてのキャリアをスタートします.「作業療法士の専門性とはなんだろう?」そんな思いを頭の片隅にいつも抱えながら業務を遂行していると,いつの間にか日々の業務に存在する公約数をすくい取り,「作業療法士の仕事はADLの支援」などと専門性を狭く捉えてしまったり,無意識に自分の興味関心を肯定するような言葉を成書や文献の中に探したくなったりします.

 私は作業療法の曖昧さを探求し,悩みから解き放たれたのか?それとも悩むことから降りたのか?それを客観的に判断することは容易ではありません.読者のみなさんが作業療法の曖昧さから逃げず,自分なりの解釈で片付けてしまうことをせず,曖昧さを引き受けながら,曖昧さの正体を1つずつ紐解いていく,そんな勇敢な営みを支えるために本書は生まれました.

 本書のタイトルは,そのまま『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』としました.舞台は沖縄のリハビリテーション病院.主人公は,作業療法士養成校に通っており,現在臨床実習中の野原咲子(のはらさきこ),そして,作業療法士で野原の臨床実習指導を担当する花城ゆず(はなしろゆず)です.

 野原は何度も作業療法の曖昧さの壁にぶつかります.そして曖昧さの答えを花城に求めます.花城は野原が曖昧さから逃げないように,でも確実に答えに近づくことができるように,優しく野原を支え続けます.野原と花城のやり取り,対象者とのやり取りを通して,ぜひ読者のみなさんも改めて作業療法について考えてみてください. 

 すべての作業療法士は実習生でした.そして,すべての実習生はいつか作業療法士になります.学生さんも,臨床に出たばかりの駆け出しのあなたも,臨床実習指導者になったあなたも,だれもが今の自分やいつかの自分に重なる場面があると思います.

 対象者にとって有意義な作業療法を提供するために大切なことはなんだろう…本書がその答えやヒントを提供する羅針盤のような存在になることを願っています.

                        上江洲 聖,齋藤 佑樹


最後まで読んでいただきありがとうございました.


Amazon『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?