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ワークショップは「知識伝達の場」ではない、と考える前に

今週の「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」の動画コンテンツは、ミミクリデザインの竹田琢による書籍『講義法』(佐藤浩章編著)の解説でした。大学の授業における「講義」を効果的に設計し実施するための方法が、認知科学や教育学的な知見を基に語られています。僕もこの本は未読だったのですが、学問的裏付けと実践的ノウハウのバランスがよく、動画の解説を聴いて大変参考になりました。※トップ画像は、本書でも紹介されているボローニャ大学における1350年代の講義風景を描いた写本挿絵

ワークショップと講義法は相入れないのか?

以下の記事で解説した通り、ワークショップデザインと、研修や講義の設計方法(インストラクショナルデザイン)は、考え方が根本的に異なります。

しかしながら、だからといって「ワークショップデザイン」or「講義法(インストラクショナルデザイン)」と考えるのではなく、うまく組み合わせられるようになると、人材育成のファシリテーターとしては非常に幅が広がります。学びを支援する現場において、多くの場合、目標とする学習は、ワークショップで支援できる学習と、講義で支援できる学習が、入り混じっているからです。

たとえば、就職活動を控えた大学生にキャリア学習の支援をする場面を考えてみてください。満足のいく就職活動をするためには、就職活動の作法やルール、いつまでに何をやっておくべきなのか、また効果的なツールの活用法など、一定レベルの「教えるべきこと」があるはずです。講義法を活用して、知識を効率的に伝達するための授業設計が必要です。

他方で、「自分は何がやりたいのか」「どんな働き方がしたいのか」は学生によってひとそれぞれで、自分自身の人生を振り返って納得解にたどり着くまでの支援は、講義による知識伝達だけでは支援が不十分です。このような「自分にとって意味のある学び」を促進するには、講義よりもワークショップデザインが得意とするところです。

したがって、効果的な就活生の学びの場は、ワークショップだけでも講義だけでもなく、その組み合わせによって支援できるということになります。この例に限らず、人材育成の現場で掲げられる学習目標の多くは、ワークショップデザインと講義法/インストラクショナルデザインの組み合わせでだいたいカバーすることができます。(カバーできなければ、それはおそらく「組織開発」でアプローチすべき課題です。)

ワークショップにも必要な"短い講義"

また、ワークショップのプログラムデザインとファシリテーションそのものの観点からも、講義の方法は無視できません。

ワークショップの定義や形式について語るとき、一斉講義のような知識伝達の場ではない、ということがよく強調されます。しかしながら、ワークショップのプログラムの基本構造でも示した通り、ワークショップでは新しい知識をインプットする[知る活動]が必須です。

このパートをファシリテーターの話題提供で進行する場合、たとえ10〜15分程度であったとしても、ショートプレゼンテーション(短い講義)として戦略的に設計しておくことは重要です。

初心者のワークショップでは、プログラムや問いの設計がよくても、知る活動の話題提供がグダグダで、場の熱量が冷めてしまうケースを見かけます。

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ワークショップの世界を学ぶと、一斉講義や知識伝達の場を否定したり、疎かにしたりしがちですが、ワークショップデザインを探究するからこそ、人間の知識定着と理解のメカニズムを十分に理解し、伝統的に築き上げられてきた講義の方法論も手懐けておきたいと改めて感じました。

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