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なぜファシリテーターは理論を学ぶべきなのか

ワークショップデザイン・ファシリテーションを学ぶためのオンラインコミュニティ「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では、毎週土曜日に動画の学習コンテンツを公開しています。

今週の動画は、組織開発の理論と実践のバイブルとなっている書籍『組織開発の探究-理論に学び、実践に活かす』について、安斎の視点から解説させていただきました。この本、とても分厚いですが、必読です。

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組織開発の歴史を学ぶことは、ワークショップのスピリットを学ぶことである

実践者向けに平易に書かれているものの、組織開発の背後にある膨大な理論群が次々に登場するので、研究者にとってもとても読み応えのある本となっています。買ったけどまだ読みきれていない方や、大型連休でようやく読み終えた!という方も多いのではないでしょうか。

本書は、組織作りに少しでも関わる人は当然必読として、ワークショップやファシリテーションに関わる人はすべて読んでほしい1冊です。実際に、現在進行中の講座企画「ワークショップスピリット」では、著者の中原淳先生のご指定で、この本が「ワークショップのスピリットを学ぶための課題図書」となっています。

本書では、組織開発=「組織をworkさせる意図的な働きかけ」として広く定義され、職場の多様化に従って、組織がバラバラになりがちな状態(=遠心力がかかっている)から、求心力を働かせるための手段として、組織開発が意味づけられています。具体的には、見えていなかった課題の「見える化」と、それに対して解釈するための「ガチ対話」と、ビジョンや施策を構築する「未来づくり」の3STEPで説明されています。

第1部を読むだけでも、組織開発の概要とプロセスがざっくり理解できるので、そこで満足される実践者も多いと思いますが、本書の醍醐味は、なんといっても第2部以降の歴史と哲学にどっぷり浸かっていく理論編です。

理論編以降を読めば、この本が「ワークショップのスピリットを学ぶための課題図書」とされているのも納得で、組織開発の歴史を理論的に辿ることは、なぜワークショップにおいて対話をするのか。なぜ可視化を重視するのか。なぜ身体を動かすのか。なぜコミュニケーションから生成される意味にこだわるのか。ワークショップが大切にしている諸処の形式や特徴に対する「理由」を理解することに他ならない、と感じました。

理論を学ばずして、深みのある実践はできない

特に安斎が感銘を受けたのは、以下の一節です。

組織開発についてのセミナーや書籍というものは、どちらかというと、事例や手法などハウツーの話が多いように思います。もちろん、それらも「貴重な実践知」であることに違いはありません。しかし、事例や手法や実践を下支えしているのは、哲学であり、思想であり、それに根ざした概念です。そこを理解せずに、形式的に事例や手法だけをまねしようとしても、私たちは「這い回る経験主義」に堕してしまいがちです。

例えば、昨今、組織開発の現場で非常に多く実践されているAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)という手法があります。AIを形式的に手法として模倣することは、そう困難なことではありません。しかし、AIのベースにある哲学や理論、例えば社会構成主義やポジティブ心理学に関する理解などをすっ飛ばして、「あなたにとって最高の瞬間は何ですか?」とメンバー同士でペアインタビューをしても、組織を本当の意味で変革しうるような、さらに深い対話を導き出すことは、極めて困難です。(第3章より引用)

理論を学ぶだけでは、頭でっかちになるばかりで、良い実践をすることはできません。けれども、理論がなければ、実践に深みを出すことはできないと、安斎も強く思います。

理論とは、現場の事象をある視座から見立てて、概念的な構造として抽象化をしたものです。たとえば、組織開発の哲学的基盤の一人である精神分析学者のフロイトは、人間の意識を<氷山>のアナロジーで見立てました。海面から見えない顕在化されていない大部分を、人間の心理的な葛藤や抑圧の根源として「無意識」と名付けました。そして海面の奥底に沈んだ抑圧を、言葉にして拾い上げるプロセスとして「対話」を実践の手法として位置付けました。

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フロイトの理論はその後の「集団精神療法」の理論的基盤になっており、それが現代の対話型ワークショップの手法の下支えになっています。そうした理論的なメガネを持たぬまま、"対話の手法"を形式的に真似をしても、手法が実践においてうまく機能したのかどうか、深い対話が促せていたのかどうか、吟味・評価することは困難です。

また、ひとつひとつの手法が「なぜそうなっているのか」を深く理解していないと、自分の実践の領域や対象にあわせて、「より対話を深める」ために、手法の形式やその使い方をカスタマイズしていくことができません。

例えるならば、理論を学ばずにファシリテーションの形式だけ模倣する実践的態度は、日本料理屋を開き、板前として実践をしていく上で、すべてのメニューをインターネット上の借り物のレシピで作り続けるようなものではないでしょうか。

なぜその調味料を使うのか。なぜその味付けなのか。この下準備に、どんな意図と効果があるのか。料理名の由来はどこにあるのか。どのようにして素材を活かしているのか。栄養素はどうか。..そうした理解をスキップして、借り物のレシピで「それなりの料理」を作っていても、熟達者としての"実践論"は深まりません。

ワークショップ実践者としての探究の軸足をつくるためにも、本書はおすすめの一冊です。WDAの動画解説もあわせてご覧ください!

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