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自己認識の科学:「問い」を通して、内なる「衝動」を耕す

組織心理学者のターシャ・ユーリックの著書『insight(インサイト)』を読みました。起業家やリーダーにおける「自己認識」の重要性と、その具体的な方法論についてエビデンスに基づいて体系的に解説された本です。ワークショップデザインやファシリテーションの観点から他者や集団の内的な「衝動」を耕し、メタ認知を促す方法論の参考にもなると思い、手にとってみました。

自己認識の方法論

本書では、自己認識を「内的自己認識(自分で自身をどれだけ理解しているか)」「外的自己認識(他者からの認識をどれだけ理解しているか)」の2つに大別した上で、それぞれを妨げる障壁として前者であれば「無意識を理解できるという迷信」「確証バイアス」などが挙げられ、後者には「周囲が真実を言ってくれない」「自らフィードバックを取りに行かない」ことなどが挙げられています。

また、自己認識を高める具体的な手段としては、適切な「問い」を活用したリフレクションの方法や、「愛がある批判者」に適切な質問を投げかけることで良質なフィードバックを得ることなどが提案されています。リフレクションやフィードバックの観点として、「価値観」「情熱」「願望」「フィット」「パターン」「リアクション」「インパクト」の7つが「自己認識の柱」として置かれています。

リフレクションを促すための「問いのデザイン」の観点からも示唆的で、人間は無意識の動機を探索することができないことから、「なぜ〜」と問うことは、あまり効果的でないことなどがエビデンスに基づいて示されていました。

問いのデザインで「衝動」を耕すために

ミミクリデザインでは、イノベーションプロジェクトの成否を決める「創造性」の要素の一つに、作り手の内側から湧き上がる「衝動」を大切にすることを重視しています。どんなに効果的なツールやフレームワークを使ったとしても、変化を担う当事者たちの内発的な衝動がプロジェクトに宿っていなければ、納得感のあるアイデアは生まれず、アイデアは実現されず、組織の変革にはつながらないからです。

しかし、この話をすると必ず聞かれるのが、「うちのチームには衝動があるように見えないのですが..」とか「組織に衝動がない場合はどうしたらよいでしょうか?」といった、なかば愚痴や嘆きの混じった質問です。

経験学習の文脈において「衝動」の重要性を説いたジョン・デューイは、衝動は人間の本能に近いものであり、精神的な病気で無気力になってさえいなければ、誰にでも備わっているものだと考えていました。もしそれが組織において発揮されていないのだとしたら、それは衝動がそこに存在しないのではなく、衝動に"蓋"がされている状態と考え、ワークショップデザインの力でエンパワメントすることができると考えています。

本書の巻末資料には、そのヒントとなり得る「問いのリスト」が掲載されていました。特に自己認識の7つの柱のうち「価値観」「情熱」「願望」に関する問いのリストは関連が強そうなので、以下に引用しておきます。

▽「価値観」を探る問い
1.あなたはどんな価値観で育てられましたか?自分のいまの思考体系は、それらの価値観を反映しているものですか、それとも育てられたものとは違う視点で世界を見ていますか?
2.幼い頃や思春期における最も重要な出来事および経験はなんですか?それらが自分の世界にどう影響を与えましたか?
3.職場や私生活で、どんな人たちを一番尊敬していて、その人たちのどんなところを尊敬していますか?
4.一番尊敬していないのはどんな人で、なぜそんな風に思いますか?
5.これまでで最高(最悪)の上司は誰ですか?そう思うのは、その上司が何をしたからですか?
6.自分の子どもを育てたり、他人を指導するにあたり、一番伝えたいのはどんな行動で、一番伝えたくないのはどんな行動ですか?
▽「情熱」を探る問い
1.朝ベッドから飛び起きたくなるような一日はどんな日ですか?
2.決して飽きたりしないプロジェクトや活動はどんなものですか?
3.自分が何より楽しめないプロジェクトや活動はどんなものですか?
4.明日仕事をリタイアしたとして、自分の仕事の何が一番恋しくなると思いますか?
5.あなたの趣味はなんですか?その趣味のどんなところが好きですか?
▽「願望」を探る問い
1.若かった頃、大人になったら何になりたいと思っていて、なぜその職業に魅力を感じていましたか?
2.いまの時間の使い方は自分にとって意義深く満足のいくものですか?何か欠けていると感じるものはありますか?
3.第三者の立場で自分の価値観や情熱のリストを読んでいるところを想像してください。このタイプの人は、どんな仕事や経験を望むと思いますか?
4.どのようなレガシーを残したいですか?
5.この世にあと一年しかいられなかったとします。どのように時を過ごしますか?

個人的には、上記そのままではワークショップにおいて「衝動を耕す問い」として活用するにはまだ不十分だと感じていますが、当事者の内省を促し、内発的な動機付けを行う上で、上記の類の問いを現場で試行し、効果検証をしていくことは、一定の意義があるはずです。

上記のように「個人の内面」に焦点を当てた問いのデザインを「内的なアプローチ」とするならば、以下の記事のようにプロジェクトの課題をリフレーミングすることで当事者の目線を変え、動機づける「外的なアプローチ」もまた、プロジェクトメンバーの衝動を触発する上で有効だと感じています。

引き続きミミクリデザインでは、内的なアプローチと外的なアプローチの双方を組み合わせながら、問いのデザイン論を発展させ、プロジェクトにおける「衝動」を耕すためのワークショッププログラムとファシリテーションの探求と開発を続けていくつもりです。

以下の2つの記事を未読の方は、保存版のつもりで書いたので、是非お読みください!


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