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組織の理念や行動指針はトップダウンで浸透可能なのか?

ミミクリデザインで支援している組織開発のプロジェクトにはいくつかのパターンがあります。

第一に、組織に埋もれた見えない問題をインタビューやアンケートなどのサーベイによって可視化し、対話を通して現実を再解釈し、解決策としての施策につなげていくパターン。...[課題解決型]

第二に、組織の新たな理念、ビジョン、ミッション、ブランドアイデンティティを構築するために、組織内でワークショップを繰り返し、ボトムアップに言葉を広い集め、制作物に落とし込んでいくパターン。...[構築型]

第三に、すでにあるビジョンや理念、あるいは行動指針のようなものを、半ばトップダウン的に組織のメンバーひとりひとりに浸透させていくパターン。...[浸透型]

最後の[浸透型]の事例として、昨年実施した資生堂の行動指針の浸透プロジェクトがウェブサイトに掲載されました。2020年のビジョン達成に向けた8つの行動指針を全社員46000人に浸透させるというチャレンジングなプロジェクトで、とても思い入れのあるプロジェクトでした。

本件はワークショップデザインのポテンシャルをうまく活かせた成功事例でもあり、その裏話と成功の秘訣について、資生堂の田岡さん、今泉さんとともに、振り返りの対談をさせていただきました。(とてもご好評いただいている記事なので、ぜひご覧ください!)

記事内でも安斎が述べていますが、このようなトップダウン型の浸透プロジェクトは、単に浸透させたい理念をポスターや映像などでツール化して、上から押し付けていくかたちで浸透させようとしても、うまくいきません。頭では理解できても、腹には落ちないからです。

安斎 今回のプロジェクトは、全社的な理念をトップダウン型で浸透させていくプロジェクトでした。けれども人間は上から「これをやろうね」とか「これが大事だよ」と言われても、心の底から「わかりました」と納得するのは難しくて。組織として大切にしたい理念やビジョンを、自分の目線から能動的に「編集し直す」ような経験がないと、絶対に自分ごとにはなりません。それに、そもそもトップの方々も、上から押さえつけるのではなく、社員が主体的・能動的に働けるための指針としてTRUST8をつくっておられると思うんです。であるならば、浸透の方法も100%上から落としていくのではなく、どこかボトムアップ的な要素を入れる必要があると思ったんですね。(記事から引用)

上にも書いている通り、組織のメンバーひとりひとりが、自分の現場目線で、理念や指針を咀嚼し直し、ロジックではなくストーリー的に理解を深められるような支援が必要です。

上記のプロジェクトでは、記事でも詳細を解説していますが、「8つの行動指針のうち不要な1つ壊して、新たな1つに差し替えるとしたら?」というシンプルな問いを入れたことが、非常にワークしました。

8つの行動指針は経営トップが決めたもので、ビジョン達成に向けてどれもすべて重要なものですが、1つ1つの行動指針の意味合いは、部署やチームによって異なるはずです。たとえば「TAKE RISKS」という指針を一つとっても、マーケティング担当者にとっての"TAKE RISKS"と、人事部にとっての"TAKE RISKS"は全く意味合いが異なるでしょう。

そうしたことを踏まえて「私たちにとって、指針を1つ削除するとしたら..?」「その代わりに、新たな1つを加えるとしたら..?」という問いを考えることは、自然と自分たちのチームにとって、1つ1つの指針がどのような意味を持つかを考える契機となります。

実際にワークショップでは「この指針はあまり重要じゃないのでは?」「でも、それがないと、こういう場面で困るよ」「この指針はすでに達成できているし、他の指針にある意味で含まれるから、消してもいいかも」「それよりも、私たちにはこういう指針が追加されると、他の指針が活きるんじゃない?」などと、試行錯誤的に対話をすることで、1つ1つの指針の意味が、現場目線で再解釈されていくのです。

差し替えられる指針が「1つだけ」というのが設計の味噌で、チームで「これを消して、これを追加しよう」という合意を形成するのは難易度が高いのですが、だからこそ、それぞれの指針の重要性を精緻に対話・議論するきっかけが生まれ、結果として「浸透」の支えとなっていました。ワークショップや組織展開の詳細については、ぜひ対談記事をご覧ください。

上記の「1つ差し替える」というのは、あくまでアイデアの一例にすぎません。対談のなかで「ボツネタ」を紹介していますが、遊び心のあるアプローチで、理念浸透を図るアプローチは他にも無数に考えられます。

また手法を「遊び」に振らなくても、対話やストーリーテリングのアプローチを活用した方法も、効果的です。実際に別のプロジェクトでは、対話を得意とするファシリテーターの和泉裕之を中心に、また違ったやり方で浸透を支援しているプロジェクトもあります。

いずれにしても、上に書いた通り、完全にトップダウンで遂行するのではなく、現場目線で理念や指針を解釈・再編集できるようなボトムアップ性をいかにいれるかがポイントになります。組織開発領域のワークショップは手法が膨大に存在している一方で、既存の手法にはやや偏りがあるようにも感じています。今後、実プロジェクトを重ねながらも、方法論を研究し、体系化していきたいと考えています。

組織開発のプロジェクトのご依頼やご相談は、お気軽にウェブサイトからお問い合わせください。

※以下、[構築型]の組織開発について解説した関連記事です。


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