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ワークショップを「空間」から発想する

学びの場作りとしてワークショップデザイン論を捉えた場合、上位概念としての「学習環境デザイン論」の枠組みがあることを以前に紹介しました。

学習環境デザインとは、人が能動的に学び合う環境を「活動」「空間」「共同体」「人工物」という4つの要素に分解し、それぞれを結びつけながらデザインしていく考え方です。

活動:どんな目標、タスク、ルール、プログラムを通して学ぶか
空間:どんな建築空間、家具レイアウトで学ぶか
共同体:どんな人たちとどんな関係性で学ぶか
人工物:どんな道具、教材、素材を活用して学ぶか

このうち「空間」の要素は、ワークショップの実施においてはたかが空間、されど空間。いつもの会議室や教室のテーブルを島配置にすることで無難に済ませることもできるし、ワークショップの内容に合わせて「いつもと違う場所」を思い切って借りて実施することもできる。またいつもの会議室や教室を、あえて非日常的に装飾を加えてアレンジすることもできる。そんな風に、こだわりの余地がたくさんある、ワークショップの企画に大きな影響を与えうる重要な要素です。

ワークショップの空間が企画に与える影響については、大学院時代の研究室の先輩であり、ワークショップ実践仲間だった牧村真帆さんの修士研究『ワークショップ実践家が捉える空間の利用可能性に関する研究』が参考になります。

会場下見から浮かぶ、ワークショップの企画案

上記の研究では、実践者がワークショップをデザインする際に「会場を下見する」場面に着目し、空間を下見する経験が、ワークショップのデザインにどのように影響しているかを明らかにされています。以下に抄録を引用しておきますので、興味がある方は是非本文をご覧ください。

ワークショップのデザインプロセスのうち,初期段階のアイディアの生成過程における実践家の思考過程を明らかにすることを目的とし,6名の実践家を対象に,思考発話法と半構造化インタビューを用いて実験を行った.案の生成と下見時の空間体験との関係について分析を行った結果,新たな案が生まれる際に,空間がそのきっかけとなっていることが明らかになった.また,デザインプロセスにおいて既出の案が別の案へと展開される際にも,多くの場合空間に関する気づきや解釈がきっかけとなっていることがわかった.

この実験は学習空間としても建築としてもさまざまな工夫がこらされた「情報学環・福武ホール」で実施されているため、その条件が調査結果に多分に影響しているとは思いますが、そのことを差し引いたとしても、ワークショップのアイデアを考える上で、空間は一定の影響を与えると感じます。

空間からワークショップアイデアを発想・成長させる

たとえば会場がすでに決まっている場合、内装や家具のセッティングが特徴的な会場であれば、下見をするなかで「この窓をうまく使えないだろうか」「椅子の数が足りない。どうやって対処しよう?」など、「この空間だから実践できるデザインとは?」と考えることで、ワークショップデザインのアイデアを刺激することが可能です。

会場がまだ決まっていなければ、「このワークショップに最適な空間とは?」「あえてこんな空間でやってみるとどうなるだろうか?」と考えてみることで、いつもとは違う空間を積極的に選択し、見つかった空間にあわせてワークショップデザインをよりアップデートすることもできるかもしれません。

空間といっても、必ずしも「ワークショップスタジオ」や「会議室」を選ぶ必要はありません。たとえば「廃校になった学校の教室」「アートギャラリー」「屋外」など、いつもと違う空間をあえて選んでみることで、ワークショップの非日常性が引き出される場合がありますし、さらに選んだ空間にあわせて「ここだったら、こんな活動を足しても面白いかも」「この活動は、こんな風に進めてもいいかもしれない」とアイデアのブラッシュアップにつながる可能性もあります。

例えば、過去に「三鷹天命反転住宅」を借りてワークショップをしたときは、なかなか使いこなすのに苦労しましたが、会議室ではできない活動の展開ができました。他には「アーツ千代田 3331」なども、気軽にレンタルすることができるのでおすすめです。※本記事のヘッダー画像は、三鷹天命反転住宅のウェブサイトから引用

ワークショップデザインの8割は「プログラム」のデザインによって決まると考えていますが、そのプログラムのポテンシャルを活かし、さらにブラッシュアップさせるための土台としての「空間」にも、ぜひ意識を向けてみてください。


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