アクティブラーニング失敗原因マンダラ

アクティブラーニングの失敗学:授業の失敗は誰のせい?

文部科学省の平成26年度「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」の成果物として「アクティブラーニング失敗事例 ハンドブック」という資料が公開されていました。

アクティブラーニング型の授業を実施するにあたって起こりがちな問題ケースと、それに対する原因と対策がまとめられ、それが「アクティブラーニング失敗結果/原因マンダラ」というかたちで一枚絵にまとめられています。

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失敗の原因はどこにあるのか?

アクティブラーニングの「難しさ」に焦点を当てて、失敗学的に原因と対策を曼荼羅的に可視化しようとする試みは、意義があり、また組織論的な課題も含めている点は興味深いと思いましたが、これを読むのは授業をデザインしファシリテートする立場である教員であることを考えると、内容には若干の違和感を感じるところもありました。

たとえば「課外活動における学生の怠慢な態度」という問題ケース。要するに、地域のフィールドワークなどの課外活動中に、学生がスマホをいじっていたり、雑談したりしていて「怠慢である」ということですね。この「問題の原因」として、「単位取得目当ての学生が履修していること」「熱心ではない教員が配置されていること」などが挙げられています。

また「グループワークでの学生の貢献度の差異」という問題ケースについては、これは現場では「あるある」の課題だと思いますが、原因として「ゼミ長のリーダーシップ不足」「指導者がメンバーの自主性を尊重したため」といったことが挙げられています。

他にも授業の成果として「社会人基礎力の向上が認められない」という問題については、「学生が社会人基礎力の必要性を認識していない」ことが原因として指摘されていました。などなど、他にも、アクティブラーニング型の授業で学生が考えた商品が「実際に販売することが難しい」問題から、評価の課題など、多様な問題について言及されています。学生が考えた商品を販売するのが難しいのは当たり前じゃないか..などツッコミを入れたくなりましたが笑、多角的に課題が抽出されている点は、参考になりますね。

授業の失敗は、学生のせいなのか?

私が違和感を感じたのは、学生が怠慢であることの原因を、学生の元々の意欲のなさに帰属させたり、学生のパフォーマンスや授業目標の失敗の原因を、学生自身の能力不足や認識不足に帰属させている点です。

私自身も、これまでさまざまな学力レベルの大学で非常勤講師としてアクティブラーニング型授業を実施したことがあるので、こうした課題があることや、「こういうことを言いたくなる気持ち」は理解できるのですが、授業の失敗の原因を学生の性質に帰属させてしまったら、そこで教員の"授業実践者"としての熟達はストップしてしまうのではないかと思うのです。

能動的な学習者像を信じ、方法論を探求する

もし学生が授業内容を理解せず単位目当てで取得していたり、また活動に対して意欲的でないとするならば、それはワークショップデザイン論的には広報(シラバス設計や周知の方法)とイントロダクションの失敗です。もっといえば、単位目当てで履修されることなんて、ある意味「当たり前」のことなのだから、外発的な学生を授業の前半で「その気にさせる」ための仕掛けを忍ばせておかなければならないと思います。また、学生のリーダーシップが未熟であっても、なるべく全員が貢献できるように、プログラムの課題設定と足場かけを丁寧に工夫してあるべきですし、その授業経験を通して、学生のリーダーシップが育まれるようなプロセスの支援があるべきです。

もちろん、上記に書いたことは、未熟な授業実践者である私自身も、まだまだ十分にはできません。講師を担当するたびに反省ばかりです。けれども、アクティブラーニングの授業を実践する以上は、自分自身も授業方法を探求するアクティブラーナーである必要があると思っているので、授業の失敗の原因を学生の性質に帰属させることは決してしないようにしています。

もしアクティブラーニングの困難さとその原因について考えるのであれば、基本的には「どんな学習者であっても、内発的動機と知的好奇心を持っているはずであり、それに蓋さえされなければ、本来的にはアクティブに学ぶはずである」というデューイ的な学習観と信念を基盤にして、失敗の原因は「授業デザイン」や「ファシリテーション」の戦略と技術に帰属させながら、教員側の学習によって乗り越えようとすべきではないでしょうか。

試行錯誤を楽しむための実践知

このように書くと「授業がうまくいかないのは、すべて教員のせい」という口ぶりで、教員側からするとネガティブな気持ちになるかもしれませんが、むしろその逆で、「教員の工夫次第で、授業はよりよいものになる」と捉えることで、授業実践は楽しいプロセスになると思うのです。以前にWDA会員の大学教員の方が「ワークショップデザインを授業に導入するようになってから、自分自身が授業を楽しめるようになった」とお話しされていて、とても感激したのを覚えています。ちなみに別の機会で、その先生のゼミで学ぶ学生さんにもお会いしたのですが、その学生さんもまた、学びを能動的に楽しむ"アクティブラーナー"を体現したような方で、教員の学習観はコミュニティの風土として伝播するのだな、と感じました。

もし自分が「アクティブラーニングの失敗学」を構築するのであれば、実践者が読んでいてワクワクするような、現場をエンパワメントするような実践知として作っていきたい、と改めて思いました。

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追記:安斎自身のワークショップ・ファシリテーションの失敗談については、以下の記事にまとめました。




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