個人の妄想を起点としたビジョン思考

待望の新刊、佐宗邦威さんの『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』が発売されました。

内容の素晴らしさはもちろん、かなり情報量が多く濃密なので、読者によって「何が刺さるか」は異なると思うので、ぜひ手にとって読んでみてください。安斎は発売してすぐにKindle版で読み、その後に単行本を会社用に購入し、さらにご恵贈いただいてしまったので計3冊所有しています笑

本書は、佐宗さんご自身が使いこなしている「デザイン思考」も含め、これまでの思考方法を以下のように相対的に整理しながら、本書の主眼である「ビジョン思考」の重要性を解いています。

① カイゼン思考:PDCAによる効率化を目指す
② 戦略思考:論理に基づき勝利を追い求める
③ デザイン思考:創造的問題解決
④ ビジョン思考:妄想を駆動力にして創造する

既存のユーザーニーズに従うのではなく、作り手のビジョンを提案することの重要性は、ロベルト・ベルガンティ教授の『突破するデザイン』の「意味のイノベーション」に関する理論においても強調されています。

しかしながら、2017年7月にベルガンティ教授を東大にお招きしてシンポジウムを開催した際に、日本のビジネスパーソンから挙げられた質問は「ビジョンがない場合は、どうすればよいのでしょうか?」という、とても残念な質問でした。佐宗さんの言葉を借りれば、そうした「他人モード」にハイジャックされてしまった人たちに対して、本書は示唆を与えてくれます。

いわゆる"メソッド"として形骸化した"デザイン思考"を導入して「うまくいかない」と嘆いている企業の多くは、作り手としての内発的なモチベーションを失った状態で、いきなりデザイン思考の"STEP1"とされている「ユーザーの観察」に取り組み、"正解探し"としての「ニーズ探し」に嵌っているように思います。ミミクリデザインが掲げる「創造性の土壌を耕す」というスローガンも、こうした問題意識が背景にあり、ビジョンや妄想とはまた少し違うかもしれませんが、プロジェクトメンバーの「内的な衝動」を耕し活かすプロジェクト設計を心がけているため、「外側から」ではなく「内側から」始めようという意味での「まず妄想から始めよ」というメッセージは、深く共感し、また実践的に参考になりました。(衝動に関する理論的解説は、また後日紹介します)

本書を楽しみにしていたもう1つの理由は、実は出版前の2018年の8月頃に、ミミクリデザインが運営する「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」の会員限定の動画コンテンツで佐宗さんとディスカッションをさせていただいており、その頃から佐宗さんの考えに共感していたので、「これがどんな形で世に出るんだろう?」と楽しみにしていたからです。

『VISION DRIVEN』の試論にあたる内容を伺いつつ、動画内で佐宗さんが「認知科学者と議論がしたい!」とおっしゃったことを受けて、その後、安斎の博士論文の副指導教員である、創造性の認知科学を専門とされている岡田猛先生(東京大学情報学環/教育学研究科 教授)をお招きして、WDAの研究会企画へとつながったのでした。以下、研究会を思いついた時の安斎の悪い顔…笑

"やばい研究会"のイベントレポートは以下からお読みいただけます。

上記で紹介した佐宗さんとの対談動画や、研究会のゲストプレゼンのアーカイブ動画は「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」にご入会いただければ、いつでもご視聴いただけます。当時は「ビジョン思考」ではなくまだ「アート思考」と呼ばれていたこともあり、岡田先生の視点からデザイン思考とアート思考の違いが議論がなされていました。そんなふうに、実際に出版された書籍との「差分」に着目してみても、面白いかもしれません。上記のレポートなどもあわせて、書籍『VISION DRIVEN』の理解の立体化にお役立ていただければ幸いです。



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安斎勇樹

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