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なぜ今、ローカルなのか?

最近、ねとらぼでこんな記事がアップされてました。

もちろん都道府県が現在のかたちになるまで微妙に変わっていた時期のことなので、単純な数値として47都道府県で比較するのは難しいですが、現在のように東京をはじめとした大都市と地方の人口格差が広がり続ける前は、まだまだ地方ごとに人口が分散していたのは確かだと思います。

自分でもなんでローカルに注目しているのか、はっきりと答えられなかったのですが、先日、関西のローカルメディアの代表格の一つ「月刊島民」の大迫力さんから光栄にも取材していただく機会があり、大迫さんから、「なんでローカルなん?」という、大阪っぽいつっこみを最初にいただいた時に、いじめられっ子気質の僕はめまぐるしく思考をめぐらせ、結果として、なんとなく頭の中が整理されてきたような気がしました。大迫さん、ありがとうございます(詳しくは6月1日発行の「月刊島民」にて)。

東京に人口が集約されるようになる以前は、もっと地方ごとににぎわいがあって、その土地土地に文化が根付いていたように思います。しかし、雑誌やテレビなど、マスメディアや出版社が東京に集中するようになって、なのに予算もない編集部が全国くまなく新しい情報にアクセスするのは難しい(という怠慢)。すると、情報の偏りがどうしても生まれてしまい、全国のコンビニに並ぶような東京の雑誌で東京の食の情報が取り上げられると、東京に美味しいものが集まっているようにみんな錯覚してしまうのです。

でも実際は魚を食べるなら北海道や福井や長崎行った方が全然よくて、そういうところから東京に出てきた人は東京の魚がまずくて食べられないと言う。でもそんなことはマスメディアでは取り上げられない。情報の不均衡こそがさらなる都市への憧れを育み、人口の都市への流入を加速させた。食だけでなくあらゆるトピックで同じ現象が見られる。こういう状況を是正するのがローカルメディアの役割だと僕は思っています。

しかし、ローカルメディアを見ていても、最近流行のリトルプレスとかおしゃれなフリーペーパーを作って、それも東京の雑誌やウェブマガジンで取り上げられるのを目的とするものが増えてしまった。これには僕も少し責任を感じています(しかし、『ローカルメディアのつくりかた』を読んでくれた人は、最初に紹介した「みやぎシルバーネット」のように、東京の雑誌などで取り上げられることのないメディアに、どれほどの価値があるかを理解してくれているはず)。

つまり、人も文化も仕事も夢も出会いも、あらゆるものが集まっている東京的なスタンダードで認められたいという「色気」を出してしまいがち。こういう、Uターン、Iターンを「都落ち」であるかのように、どこか後ろめたい気持ちにさせてしまうのもこれまでの東京のメディアの功罪だと思う。一方、ローカルをテーマにした雑誌やメディアが最近好調なのは、単にローカルがブームだからではなく、都会では枯渇してしまったコンテンツがローカルにはまだまだいっぱいあるということを、読者も作り手も感じ始めていることの証拠だと思う。

東京vs地方という、単純で貧しい評価基準(クライテリア)でものを考えるのではなく、複数の評価基準をいかに身体化できるか。少なくともメディアに携わる人間は、情報の受け手のマインドセットを変え、選択肢を増やすことに努めなければならない。しかし、東京のメディア・出版関係者こそが、東京に集まる業界関係者で固まっていて、情報源に乏しい。複数の価値基準を身体化できない。ネットやSNSだけじゃないんです、出版業界が落ち込んでいるのは。

最近、ローカルの人ですよね、なんでローカルって言ってるんですか? と言われることが多いんですが、いやいや、東京vsローカルという目で見ないでくださいよ、って思う。その時点でその人の住む世界って狭いんだなと思ってしまう。あ、でも、関西の人に言われる場合はちょっと違うので誤解しないでください。関西は、「Meets」や「Leaf」のように、本当に地元の人に読まれていて、京阪神の魅力的な場所を取り上げて経済や文化を盛り上げているメディア関係者が多いし、そういう人たちはリスペクトしているので。

ローカルメディアというものがブームだとしたら、半分くらいの人が誤解しているのは、地元の魅力を都会(や海外の人)にかっこよく紹介するものだと思っていること。それって、資本主義の行き着く先であるグローバルスタンダードや東京スタンダードに隷属されたマインドだと思う。よく、地方で色気を出した自治体やクリエイターが出すおしゃれなローカルメディアを目にするのですが、それってまさにこれです。

クライテリアを複数化すること。地域には、その地域ならではの特色、文化資源、風土があります。一方、当然、資金もないし、クリエイティブな人材もいない。にも関わらず、東京スタンダードな雑誌を作れるわけがない。一流のデザイナーも、編集者も、ライターもいない。背伸びしたってバレてしまう。

だから、新しい価値基準を作る必要がある。それも、今まで反目し合っていた異なる世代、関心、属性を持った人たちとともに。宮本常一の「よりあい」のような、結論が出るまで何日も議論し続けるようなコミュニティで作る。もし、異なる属性を持つコミュニティが一つにまとまったら、それは大きな力になる。

文章が下手でも、デザインが下手でも、そんなの関係ない。有名人が出ていて、デザインがいいから評価するのは、視野の狭い東京のメディア関係者なので、そんなのは相手にしなくていい。自分たちの地域の魅力を、自分たちで見つけ、評価する。そういう、都市に隷属しないマインドセットを養うこと。これもマスメディアにはできないローカルメディアの役割なのではないでしょうか。

とはいえ、メディア関係者だけじゃなく、都市にはアートや文芸、アカデミズム、ライフスタイル、デザインなどなど、あらゆる業界で同じ関心を持つ人たちで固まっている。地域には、趣味関心の合わないあらゆる属性の人たちが存在します。しかし、人が多い都市では、同じ関心、研究テーマの人たちで集まることも容易い。でも、そういう人たちだけで集まっているから、他の価値観にアクセスすることも、他者を理解することもできない。これは、全国規模で同じ趣味の合う同世代で集まってしまう状況にも言えることです。

僕はローカルメディアを考える際、いつも参照するのが元祖地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の森まゆみさんのこの言葉です。

送り手と受け手に互換性があり、情報が双方向に行き来すること。私たちの雑誌は、まさにそのためのメディア (乗り物)であればよい。ーー森まゆみ

情報の発信者と受け手の関係に格差があるのが、これまでのマスメディアと読者・視聴者の関係でした。でも、ローカルという領域においては、この不均衡は存在しない。となりの漬物屋のおじさんが、読者にも、発信者にもなる。そうなると、互いに情報を発信・受信しあうことができる。これが、オーソライズされた”メディア”の概念を取り払った「ローカルメディア」の価値です。発信も受信もする。まさに「よりあい」となった地域の「異なるコミュニティ」が一つになる”乗り物”がローカルメディアなのです。

移動や移住が難しかった昔は、もっと、その地域に縛られているがゆえに、その地域で暮らしている他者と折り合いをつけながら、暮らしを豊かにしようとみんなが考えていたはずです。一方、効率がいいために同じ趣味関心の人たちで集まってしまうのが都会の問題です。本当の意味での「他者」と出会う機会がない。「他者」とどう向き合うかという大上段を構えているエリートにありがちなのが、結局同じ価値観を共有できる階層の人たちで議論しているという問題。エリートの趣味であるアートの世界でもよく見られがちな光景です。

こういう状況が加速すると、たぶん、日本もすぐにヨーロッパ的な階級社会に突入すると僕は思っています。アルマーニを制服にする小学校も出てきました。

一方、小木ママがテレビで、小学校こそ、階級や育ちのバラつきのある子供たちと出会う機会がある貴重な場所だと言ってました。服が汚い家の子供、皇族と縁のある家の子供、海外ルーツの子供、そんな多様な子供たちとその親御さんたちがともに地域に暮らしている。それって、軋轢もあるけれど、一つになったら、とても強い力になるとは思いませんか。

結局、ちょっとした意見の違いや、価値観の違いに眉を潜め、安心・安定を求める現代の都市生活者は、こうした些細な違いをストレスとし、向き合うことを諦めてしまいました。実は、こうした異なるコミュニティが分断することで、社会が停滞していくということを、みんなわかってない。

だから、ローカルに可能性があるのです。都会に比べて、地方に暮らす人は、こういう異なる他者への感受性が強い。自分とは違うということもよく理解しているし、だからこそ距離感の取り方もわかっている。もちろん、地方こそ世代や関心ごとにコミュニティは分断していますが、それらが一緒になる機会を作ろうと思えば作ることが容易い。それが、たとえばメディアをつくるという機会です。メディアを立ち上げるので、みんな集まりませんかと言えば、だいたい、全員に届く。回覧板一つ回せばとりあえず全員見る。そういう異なるコミュニティをつなぐのに、メディアはすごくいい手段になるのだと僕は考えています。

そんなローカルだとかメディアだとかをいろんな人と話して考えているのですが、奇しくも4月に出た二冊の本の刊行イベントが5月にもいくつかあります。興味ある方はぜひいらしてください。

○「ローカルメディアの視点から語るあだちの魅力」
5月27日(日)14:00〜16:00  仲町の家(足立区千住仲町29-1)
影山裕樹×舟橋左斗子

○「あたらしい路上と公共空間を考える」
5月31日 (木)19:00~20:30 東京・青山ブックセンター本店
影山裕樹×指出一正

○『ローカルメディアの仕事術』刊行記念
5月28日(日)19:30~ 大阪・スタンダードブックストア心斎橋
影山裕樹 x 多田智美

○『あたらしい「路上」のつくり方』刊行記念
5月29日(火)19:30〜 京都・ホホホ座
出演:影山裕樹 吉城寿栄 榊原充大



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影山裕樹

編集者、合同会社 千十一編集室 代表。著書に『大人が作る秘密基地』 『ローカルメディアのつくりかた』、編著に『あたらしい「路上」のつくりかた』『ローカルメディアの仕事術』などがある。山下陽光、下道基行とともに「新しい骨董」の活動も。http://sen-to-ichi.com

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