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乗り物にただ、乗ってみる景色

「乗り物に乗る」という行為が好きだ。
人がまばらな乗り物で、窓の外を眺めてのんびり過ごす、その時間が好きだ。
どこに行くわけでもなく電車にひたすら乗りたいと思うし、バスに長々揺られながら移り行く風景を眺めていたい。
飛行機の窓から雲を見下ろしたいし、新幹線の中から猛スピードで流れていく夕闇を横目に見続けていたい。
人によっては面倒で退屈で疲れてしまうかもしれない乗り物の移動が、私は多分好きだ。

通勤電車は好きじゃない。
混んだ電車、立つ人がいるような空間は息が苦しくて、少し疲れている日には吐き気さえ催してしまう。
だけど、人がまばらな乗り物やそれなりのパーソナルスペースが与えられている空間で移動することに、どこか寛いだ気分になることができる。
何をするわけでもなくひたすら移ろいゆく景色を眺めていられることは、日常生活ではあまりないことだからかもしれない。

1時間の高速バスも、2時間の新幹線も、4時間の鈍行列車も、7時間の飛行機も、多少疲れはするけれど、その移動そのものに楽しみがある。
その乗り物に乗って過ごす時間に、価値がある。

去年時間を持て余していた頃、閑散とした昼間、通勤に使っていた電車に乗り込んで終着駅まで乗り続けたことがあった。
思っていたよりも混んでいる電車はそれでも隣の席に人が座っている程度で、普段使っていた駅の先には思い描いていたのとは違う景色が広がっていた。
高速道路だったり、工場地帯だったり、田園風景だったり。
日常の範囲を少し超えたところには、まるで遠くに行ったかのような景色が隠れている。

乗り物に乗ることそのものは、目的に辿り着くための手段だったりするけれど、その過程や手段だって楽しめる人がいたりする。
そういう視点を持ったらまた、少し変わって見えることもあるかもしれない。

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