霧がかる夜空

 早朝五時、まだ太陽が顔を見せない時間に私は目を覚ました。ゴミ捨ての準備をしている時、私にとっての今日が始まる。
 「ゴミ捨てついでに散歩でもしようか」と革製のバックを手に持ち、玄関の扉をくぐる。するとそこには、暗色ではなく霧が降りている景色が広がっていた。近視特有の靄がかかる感覚と似ている。とにかく前が謎で包まれている。誰もいそうにない。この死んだ空間に佇む人は、私ぐらいだろう。
 静寂。それは消音機能が備わる単語。歩道であるにも関わらず、ぎこちなく歩く己の肉体すらかき消す。異界にやってきたかのような異常。否、実際は夜明けを待つ状態ではあるのだが。
 気分転換にコンビニへ寄ろうとする。道中にある線路と駅のホームに目をやると、一本の電車がやってきていた。どうせ中は空っぽだろうと思い、適当に眺めていると、そこそこ人がいた。会社員だらけであった。横にもたれかかる中年男性、虚な表情をする若い男性など。共通点としては、「死」。恐怖と言い換えてもいいだろう。ああ、私も数年後にはこうなるのだろうか。そう考えると、不思議と達観した気持ちになった。先のことなんて後で考えよう、今できることをやろう。コンビニでレモンティーを買い終えた頃には、もう記憶から忘却していた。今日のレモンティーの味は、少し渋い。

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