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王は天から選ばれるが天は繁栄を約束したわけじゃない「天命思想」の話

前回、古代中国の天命思想についてすこし話をしたけれど、「天に委ねる」ってものすごい東洋独特の考えかたらしい。

この天命思想がいまいちピンときてない人は、「月の影 影の海」から始まる小野不由美の「十二国記」シリーズを読むとわかりやすいのでおすすめ。

地味な女子高生が紆余曲折を経て中国風な異世界の国王になるお話なのだけど、世界構造の作り込みが緻密で、天命思想を見事に物語の世界に落とし込んでいる。以下、wikiさんより十二国記の世界観について。

不老の神仙が存在し、妖魔の跋扈する世界。十二の国があり、文化、政治形態は古代中国(特に周王朝)に類似している。しかし世襲制ではなく、神獣の麒麟が天意に従って選んだ王により統治されており、麒麟が王を補佐する。麒麟は慈悲深く、血や死の汚れを嫌い、汚れによって病む。王の資質のある人間が選ばれると言われているが、それぞれの王によって国の繁栄の度合いは異なる。王は諸侯を封じ、政治を行う。王や一部の高位の官は神仙として不老を与えられ(特殊な武器で殺すことは可能)、王は死ぬまで統治をおこなう。王の治世は、数年で終わる場合もあれば、数百年にも及ぶこともある。(wikipediaより)

麒麟という生き物が麒麟の意思ではなく「天意に従って」王を選ぶのがポイント。女子高生の陽子も麒麟によって選ばれた。

政治には天が定めたとされる絶対のルールがあり、王がそれを破り道を誤ると麒麟が病み、そのまま改めなければ麒麟は死ぬ。王を王たらしめた麒麟が死ぬと、王も死ぬ。または、麒麟が死ぬ前に、王が天に願って禅譲する(死を選ぶ)こともできる。反乱によって討たれることもある。王が死ぬと麒麟が新たな王を選ぶ。麒麟が死ぬと世界の中心にある山に麒麟の実がなり、新たな麒麟が生まれ王を選ぶシステムとなっている。王は必ずその国の人間である。王の在位中は妖魔の活動は抑えられ気候も安定し、王がいなければ国は乱れる。このようなルール・システムは天帝が定めたと言われるが、天帝に会った者はいない。(wikipediaより)

麒麟と王、国の関係やルールは、小説を読んでいくうちに自然とわかってくるようになるので詳しくは実際に読んでもらうとして。

王が正しい道を外れると麒麟が病むというのは、前回話した窯の中の突然変異で生み出される「曜変天目茶碗」にちょっと似ている。

古代中国で「曜変天目茶碗」が秘密裏に壊され抹消されてきたように、麒麟が病んだことを隠そうとする他国の王がお話に出てきたりするあたりなんか近いものを感じる。

物語の中で出てくる天啓や天意。
自分の意思とは違うところにある上位的存在。
天意に沿う、天意に従う。

一見、これって自分の自由がなく窮屈に感じるだろうけど、何が本当に正しいのか不確かな社会においては安心という部分で意外と有効で、何より天が判断してくれるというのはラクだよね。なんだろう、判断を委ねるっていうのは甘えるのに似ているのかもね。

ただ、麒麟が王を選ぶというわかりやすいシステムが現実あったら本当ラクなんだろうなと思う反面、選ばれた王の政治によって繁栄した国もあれば長続きしなかった国もあり、そのあたりの現実の厳しさが小説のわりになぜか妙にリアル。

結局のところ、天は直接的に何かしてくれるわけじゃない。
天意を都合よく解釈し、何かを下すのはやっぱり人間なのだ。
じゃあ、天意ってなんなのか。

普通の女子高生だった陽子もこの異世界ルールを学び、同じように悩み、考え、国を統治する人間になっていく。まるで歴史小説を読んでいるかのよう。陽子と一緒に為政者の視座に立って物事を考えてみたら楽しいと思う。

近々長編書き下ろし(シリーズ完結編)も出るらしいし。何年振りの新作だろう?楽しみ楽しみ。


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