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「ブラック・ミラー」とディストピアと中国デジタル事情

先日、出張で上海に中国デジタルマーケットリサーチに行かせてもらったのですが、出発前にその話をしたところ、複数人に「中国って管理社会で個人にスコアがつけられるていうアレでしょ?Netflixの『ブラック・ミラー』見てった方がいいよ」と勧められました。

「ブラック・ミラー」とは

「ブラック・ミラー」は、テクノロジーの進化により引き起こされる近未来での悲喜劇を描いた、ブラックユーモアSFドラマで、エミー賞も受賞したすごい作品です。前から話題で気になっていたのもあり、手始めに皆に勧められたS3E1「ランク社会」をすぐさま見ました。

”SNSでの評価が日々の生活を支配する世の中で、何とか星の数を増やしたいレイシー。セレブな結婚式に招待され、点数を稼げると有頂天になるが...。”
Netflix公式ページより

いや~面白い。互いにレーティングされる息苦しい人間関係、ささいなきっかけで下がるレート、社会から拒絶されていく恐怖感・・・。さすがですNetflix。
現在、全話制覇目指してどんどん見ています!サンジュニペロ最高でした!早くバンダースナッチも見たい。

中国での、実際の信用スコアはどうだった?

「ブラック・ミラー」はめちゃくちゃ面白いドラマです。しかしながら、中国でいろいろ見聞きしてきた後で思うことは、「ドラマと現実は違う」。
正確には、「ドラマのような顛末を避けるべく、現実には皆がいろいろな努力と工夫をしている」のだと強く感じました。

ところで、中国のスコアリングには2種類あります。
ごっちゃにして語られがちなのですが、中国政府によるスコアリングと、民間企業のアリババ(中国版Amazonみたいな会社)によるジーマ・クレジット(芝麻信用)です。

政府のスコアは非公開で、余程のことがなければ飛行機の搭乗拒否をされたりしません。ブラックリストのようなもの。

もうひとつのジーマ・クレジットは、アリババのECサイト・タオバオでの購入取引やアリペイによる電子決済などの使用履歴に紐づいていて、感覚的には「プレミア会員のランク付け」(たくさん買い物してるとゴールドメンバーになるよね的)なものだそうです。

スコアリング設計の基本理念が「(アリババ経済圏における)良いことをすれば得をする」に基づいて出来ていて、ちゃんと使った人にメリットをもたらし、行動がフィードバックされる仕組みが支持されています。
逆に、スコアが低い人にペナルティを課したりする作りではありません。(※末尾に補足)

一方、中国版Uberと言われるDiDiでのドライバーのスコアリングも、きめ細かい設計がなされています。
Uber同様にユーザーからのフィードバックもあるのですが、それだけではなく、アプリを通じてリクエスト応答の速度、運転の安全性や丁寧さ(スピードの加減速、ルートの正確性など)を自動計測してスコアリングに活かしているのです。

ユーザー評価はワイロが入り込む隙が生まれるため、嘘がつけない「行動そのもの」を評価するという仕組みです。こちらも、ルールに則って行動すればきちんとランクが上がり、ドライバーがメリットとフィードバックを実感して得られるようになっています。
「言葉より態度を信じる」というのはなかなか鋭いな~と思います。よく恋愛相談とかでも言われますよね(笑)

ディストピアを引き寄せるのか、遠ざけるのか

「ブラック・ミラー」でのスコアサービスは欠点がいくつもありました。
まず、相互評価のみで出来ていること。また、スコアの急下落があり、それによって生活が困難になるようなペナルティがあること。
例えば、あいまいな基準(何となく社内で疎まれる、とか)でスコアを下げられて会社の建物に入れなくなるなど、本人が因果がわからずにひどい目にあわされるのは明らかにサービス設計の欠点です。

総じて中国のITサービスにおけるスコアリングは、ドラマでの仮想サービスの欠点を克服しており、現実世界にフィットしユーザーの役に立つ形で機能していました。
UX設計と運用をまともな感覚で適切にこつこつ行うことでディストピアは遠ざけられる、という事実がたいへん身に沁みました。

私自身、映画や映像作品のいわゆる"ディストピアもの"大好きっ子なので、自戒を込めて言うのですが、こういった先進事例の一部を見て「あーディストピアだな、怖い怖い」で片づけてしまうことの、なんたる思考停止かと。

特にSFのような技術が現実世界に現れ実装されつつある今、ディストピアはみんなが距離を置いて楽しめるものというよりは、もっと切実に自分に近いものになっているかもしれません。

そんなとき、進化をただ嫌だな怖いなと言うだけじゃなく、過去のディストピア作品群を有用なバッドケースととらえて、「この最悪な事態を回避して、より良く暮らすにはどうするか」を考えるという姿勢を取れれば、未来は開ける…かもしれないです。

逆にディストピアをイメージのままで放置するムーヴは、「なにもしない」ことで現実の生活にディストピアを引き寄せてしまうのかもしれません。


※補足
基本的にペナルティはないと書きましたが、ただ、アリババ経済圏がかなり暮らしに密着しているため、あらゆる方面に影響はしてるみたいです。(婚活サイト登録時に信用スコアで審査されるとか。まあ年収や年齢そのもので切られるよりは優しい気もしますけどね・・・)

ジーマ・クレジットは、そもそも「信用」の概念がなくクレジットカードも浸透していない中国の商取引において、「商取引の円滑さ」を促すための大きな指標となっているようです。

※中国のスコアリングについてもっとまとまった素晴らしい記事を見つけました。

※中国デジタル事情はこちらをぜひご参照ください。UXの思想がすごすぎて死ぬかと思いました。

読めば読むほどサバイブできる自信がなくなる名著です!!

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