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【007"6-5"】クレイグ=ボンド 最終章『ノー・タイム・トゥ・ダイ』

ようやく10月1日(金)に公開された007シリーズ25作目『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。6代目ジェームズ・ボンドのダニエルク・レイグは今作で卒業。15年間の活躍にピリオドを打った。ボンドガールには前作からレア・セドゥは引き続き、新たにアナ・デ・アルマスが、さらなるヴィランにラミ・マレックを迎えた。1本の映画としての評価は出来ないほど、いろんな人の思いが詰まった今作について語っていく。

「007って何?」という方はこちら↓

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■私のポジション

2020年春の緊急事態宣言の自粛中、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』が夏公開予定だったので『カジノロワイヤル』から見始めたファン歴1年半の新参者。生まれた頃にブロスナンが引退、幼少期にクレイグへ。なかなか機会がなく、ハマるまでに時間がかかってしまった。2021年の夏休みに24作一気見。007要素も残しつつ、技術も進歩したピアース・ブロスナンが一番好きなボンド『トゥモロー・ネバー・ダイ』がMy Best 007!怒られるかもしれないが、ブロスナンの次は、ショーン・コネリーとダニエル・クレイグが同じくらい好き。そして『スペクター』『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は劇場で鑑賞しているので、思い入れは一番強い。歴代ボンド俳優はみんな好き。でも007自体に思い入れはないので、クレイグ版を一番ライトに観ることができたと思う。それが賛成派である最大の理由だと思う。

■主題歌『No Time To Die』

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画像引用元:Billie Eilish - No Time To Die
 (Live From The BRIT Awards, London)
https://www.youtube.com/watch?v=2I1ZU5g1QNo

今作の主題歌を担当したのがビリー・アイリッシュ。恥ずかしながら名前は聞いたことあるが、『Bad Guy』くらいしか知らなかった。この曲を聴きに行くだけでも、劇場に行く価値はある。そう断言できるほど、素晴らしかった。何より、自分と同じ世代の人が007の主題歌を歌ってるのが嬉しい。主題歌を担当するのは、その時代を代表するアーティスト。ついにティーンエイジャーが音楽のトップにくる時がきたようだ。円形が出てくる『ドクター・ノオ』を彷彿とさせる演出には痺れたよ。

■人間味溢れるボンド

▷ 消えない"ヴェスパー"の喪失

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Final US Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=N_gD9-Oa0fg

1作目『カジノロワイヤル』で愛した女性ヴェスパー。彼女のために辞職まで考えるも、裏切られてしまう。彼女はボンドに寝返ってくれるのだが、責任を感じて死を選ぶ。その死からも助けることができなかった。そんなヴェスパーのことを、未だに引きずっている。マドレーヌとベッドに入ったとしても、ヴェスパーのことが頭によぎる。過去と決別しようとヴェスパーの墓参りに行くと、敵組織から襲われる。トレーシーの墓参りの後、ヘリで襲撃に会う『ユア・アイズ・オンリー』を思い出した。真っ先に疑ったのはマドレーヌ。ヴェスパーがそうであったように、彼女もまた裏切って敵に情報を流していたのではとボンドは考える。「違う!私は何も知らない!」とマドレーヌの訴えも聞き入れず、彼女に別れを告げる。「もう二度と会うことはない」と。ヴェスパーのことを引きずっているから、マドレーヌを信じることができなかった。どんな悪女に裏切られても、引きずることはなかった。「情報を得るためにベッドへ誘う。情報を得たら捨てるだけ」そんなボンドはもういない。しっかり恋して、情報を得て、失恋して、引きずる。


▷"守るべき"人たち

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Trailer 2
https://www.youtube.com/watch?v=vw2FOYjCz38&t=1s

別れてから5年後、ボンドはマドレーヌの家に再び訪れる。その時、ずっと愛してたしこれからも愛し続けることや、駅で別れたことを後悔していること、などを伝える。青い目のブロンド少女を観て、自分の娘ではないか?と思う。この一連の会話でのボンドの声は震えている。


▷ひしひしと感じられる友情

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Trailer 2
https://www.youtube.com/watch?v=vw2FOYjCz38&t=1s

今作で一番心を動かされたのは、CIAの友人フィリックス・ライターとの関係だ。フィリックスは裏切った仲間に撃たれて瀕死の状態に。しかも爆破により大量の海水が艦内へ。「俺たちは良い人生の選択をしたな」と言うフィリックスに、「あぁ、最高だ」とボンドは返す。フィリックスの亡骸を見て、死んだと分かっているはずなのに、ボンドはしばらく見つめていた。コネリーならすぐに脱出していただろう。

M(マロリー)の向かいにジュディ・デンチのMの肖像画があった。さらに左には『消されたライセンス』の時のMの肖像画が。これはフィリックスに良く無いことが起こると言う伏線だったのか…。しかし本編とは違い、奥様ではなく本人が命を落としてしまう。

▷ボンドの最期
007ではお馴染みのガンバレル。今作では血が出る演出がなかった。その時から「もしかして、ボンドが倒せない敵が出てくるのか?」と嫌な予感がした。『スペクター』のラストシーンから考えても、ハッピーエンドは無いと覚悟はしていたが、まさかボンドが自ら死を選ぶとは。ボンド自身が生物兵器になり、マドレーヌやマチルドを守るために命を経つことに。このラストに関しては、かなり賛否分かれているが、人間味溢れるクレイグ=ボンドの極地だったと思う。「冷戦の遺物」だと作品内でも言われ、時代遅れと社会の変化と戦ってきたボンド。彼が自国のミサイルで殺されるのは皮肉。

■字幕翻訳の問題

▷良かったところ
マドレーヌの娘、マチルドの目話すボンドの台詞「Blue eyes」=「僕の目」と訳していたのは良かった。「金髪で青い目のボンドなんてありえない」と酷評された15年前のことを思うと、刺さるものがある。金髪の何かも欲しかった。でもロジャー・ムーアも黒髪では無いので、「カッコよくない」「息が臭い」などと同じ言いがかりなのか。

▷気になったところ
今作で数回登場した「We have all time in the world」と言う台詞。『女王陛下の007』の挿入歌のタイトルであり、終盤に登場する名台詞でもある。『女王陛下の007』では「世界は僕らのものだ」だったのに対し、今作では「時間はたっぷりある」と訳されていた。字幕翻訳を務めたのは戸田奈津子さん。007シリーズの字幕を担当し、歴代ボンド俳優とも仕事をしたベテラン。しかし彼女は『女王陛下の007』のみ担当しておらず、ジョージ・レーゼンビーとだけは仕事をしていない。汲み取り切れなかったのか。たった1作しか関わっていないものは無いのに、それがこんなに大きな意味を持つことになるとは…。明らかに『女王陛下』を意識していたシーンだったので、ちょっぴり残念。

■現代版『女王陛下の007』

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Final US Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=N_gD9-Oa0fg

先ほども述べたように、明らかに『女王陛下の007』を意識した作りになっている。今作の序盤、ボンドとマドレーヌが車に乗って坂を降りるシーンは、『女王陛下の007』のラストシーンとほとんど同じ。マドレーヌが命を落としてしまうのでは?と思ったが、車の曲がる方向が逆。これは命を落とすのはボンドだという伏線だったのか。エンドロールで『We have all time in the world』流すのは良き。

■間違いなく 人気No.1

画像引用元: Greg Williams の公式Instagram 
https://www.instagram.com/p/CUxfCWsq1Pp/?utm_medium=copy_link

ジャマイカのCIAエージェント、パロマ。彼女は明らかに人気No.1 の魅力を持っているといっても過言では無いだろう。ボンドをバーで待っている時はジュースを飲み、初任務で緊張しているのが可愛らしい。ワインセラーでボンドの服を脱がそうとするも、「それはお互いのことをもっと知ってからの方が…」とボンドらしく無い発言を。ロジャー・ムーアなら確実に抱いてたであろう。しかしマドレーヌという存在がある以上、他の女性とのシーンが必要なくなった。それがボンドウーマンの起用の幅を広げた一方で、ボンドガールを懐かしむ声も。そんな彼女は胸元も背中もオープンなドレスを身に纏っていた。そんなセクシーな格好で舞うように可憐に戦うのだから最高。登場シーンの少なさは確かに感じたが、これ以上長く活躍されるとマドレーヌに勝ってしまうという問題点が出てきてしまうので、都合良くボンドを助けただけのキャラで良かった。Twitterでは「スピンオフ希望」の声が続出しているが、叶う日は来るのだろうか。正直、7代目ボンドよりも、パロマのスピンオフの方がアタる気がする(笑)。

彼女の写真がもっと観たい人、Instagramのリンク飛んでください!

■ボンドのダークサイド

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Final US Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=N_gD9-Oa0fg

今回登場の新ヴィランはサフィンという男。なぜ日本風のものが秘密基地にあるのか、能面(のようなマスク)をしているのか全く分からないがとにかく怖い。アバンタイトルは完全にホラー映画だった。『スペクター』でマドレーヌが話していたことを映像化するという画期的なスタート。しかもこの男、ボンドの影のような存在だ。Mr.ホワイトに大切なものを奪われたこと、復讐を試みたが途中で辞めたことの2点で同じである。(こうしてみると、ここまで重要人物のホワイトの存在感が弱いことは少し問題かもしれない。せめて眼帯をするなど、見た目にインパクトがあれば良いのだが…)サフィンはボンドに腕を折られるが、その後はあっけなく射殺される。腕が鉄になり、ドクター・ノオのようになって欲しかった気もする(ラミがドクター・ノオ説も出ていた)。それかダース・ヴェイダーやメカゴジラのように"悪"なのに"カッコいい"新しいヴィラン像を作り上げても良かったと思う。ラミ・マレックを起用しているならなおさら。もっと活かすことはできたのでは?と思うところもある。でもマッツ・ミケルセンからクリストフ・ヴァルツまで、ヴィランの最期はあっけない。

■アクションの畳み掛け

▷森の中の戦闘

画像引用元:NO TIME TO DIE | Trailer 2
https://www.youtube.com/watch?v=vw2FOYjCz38&t=1s

フィリックスを殺したCIAエージェントに今にも車が倒れてきそうになっている。ボンドは命乞いする彼に容赦なく車を落とす。これは『ユア・アイズ・オンリー』で、車に乗った人を崖から蹴り落とすシーンのオマージュ。ムーア=ボンドはそんな殺し方をしないと物議を醸したので、今作ではフィリックスの復讐だと正当化しているのだと感じた。


▷階段を登る無双ボンド

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Final US Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=N_gD9-Oa0fg

ラストでは、決着をつけるために階段を登り制御室へ向かう。階段を登りながらたった1人で、多数の敵を倒していく。クレイグ版1作目『カジノロワイヤル』では、ボロボロのボンドが1人の敵と戦いながら階段を降りていった。1本目と5本目が対比的に描かれてあるのが興味深い。

■賛否両論?!

『スカイフォール 』『スペクター』では「これが最後だ」と主張し、ラストでもおかしくないような演出で終わっていた。15年という長期間、クレイグのモチベーションが続かず、やる気がないのでは?と言われることもしばしば。しかし50歳を越えて、撮影の1年前からトレーニングに励んでいた彼が、本当にやる気が無かっただろうか。監督脚本が急遽降りてしまい、権利問題やコロナで延期を繰り返すアクシデントはあったので、スムーズに進むよりはモチベーションは低かったかもしれない。しかし、その責任をクレイグ1人に押し付けるのは間違っている。そもそも、やる気が無い人の演技には一切見えなかった。

007シリーズはかつて、1話完結の緩いアクション映画だった。しかしクレイグ版の5作品はストーリーが続いている。しかも現代版にアップデートして、高い完成度を持っていた。だからこそ、かつては気にならなかったことも、気にしてしまう人も多いようだ。でもそれは過去作を思い出させる演出&ご愛嬌と受け止めてあげて!

監督と脚本家の交代劇があり、脚本がない状態で撮影がスタート。『慰めの報酬』と同じ状況で撮られたうえに、クレイグ版最終章。その点を考慮すれば、良い出来ではないだろうか。

敵があっけなく倒されたり、なぜ日本風なのかが分からなかったり、雑すぎるスペクターの扱い、何度も引退&復帰するボンド、定まらない作風、不安定な尺…etc 好きではなかったというか、批判されても仕方がないと思うポイントはもちろんある。しかしこれらは今作だけでなく、クレイグ版に一貫してある問題だ。クレイグを溺愛しているバーバラ・ブロッコリーのコントロールが全く出来ていない。何のために父・アルバートの後を継いで、ブロフナン中期からずっとプロデューサーをしているのか分からない。7代目ジェームズ・ボンド探しを来年あたりから始めるそうだが、しっかりコントロールして欲しいと思う。

子供ができたり、純粋に恋したり、女性と寝なかったり、でも陸海空の大迫力アクションはしたり…。「こんなの007じゃない!ボンドじゃない!」と考える人の気持ちもよくわかる(私がシャーロック・ホームズは原作ファン&グラナダ版ジェレミー・ブレッド原理主義者だから、他の俳優の新たなホームズは受け入れ難い)。50年間かけて作られたジェームズ・ボンドという人物像を大きく変えた。良く言うと「更新」、悪く言うと「ぶち壊し」た。『スペクター』ではかつてのバカバカしさを入れたが良い反応は得られなかった。また新しいことをしたら、「こんなの007じゃない!」と酷評。007自体が限界なのかなと感じる。「世界中の美女を抱かないのは寂しいし、スパイのガジェットもたくさん出て欲しい。世界征服を企む悪の秘密結社もいて欲しい」と願う古参ファンは、クレイグ以前の過去作だけを観れば良い。逆にクレイグ版から入った人は、過去作は観なくても良いのかもしれない。古参ファンを切り捨ててまで、多数の新規ファンを獲得したクレイグ版007。それがきっかけに売れた人たちも大勢いる。なかにはクレイグ版は好きだけど、かつてのシリーズはそこまで…と言う人もいる。007シリーズを完全にリブートし、世界観をぶち壊してまでダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じた意義はあったと確信している

■細かすぎて伝わらない好きなシーン

▷お酒を飲むシーン①
ロシアの科学者が逃亡を試みた時、パロマが持っていたお盆とグラスをボンドが取って、博士にお盆をフリスビーのように投げつける。その後、お酒を飲み、グラスを割る。ボンドの一連の所作がカッコいい。

▷お酒を飲むシーン ②

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Trailer 2
https://www.youtube.com/watch?v=vw2FOYjCz38&t=1s

MI6を出し抜いてCIAに博士を連れて行くため、車が必要に。カオスと化したパーティ会場のバーコーナーにボンドとパロマが集まり、お酒を入れて乾杯。すぐに車を探しに行くのだが、今飲酒したよ?

ちなみに、車に乗ったパロマが足場に突っ込んで、足場が崩れ落ちるのは『私を愛したスパイ』のようだった。

▷マニーペニーのジョーク
ノーミに「ボンドを撃ったことがあるんだって?」と聞かれたマニーペニーは、「一度は撃ちたくなるのよね」と返す。あんなに心配してたくせに、何その返し!笑最高かよ。

▷首元を緩めるシーン
ボンドがCIAと合流すると、蝶ネクタイとシャツの第一第二ボタンを外す。ラフな格好になり、だらしなく見えるはずなのに、カッコいい。なんで?

▷そのまま買い物行けるくらいお洒落なQのパジャマ

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画像引用元:NO TIME TO DIE | Trailer 2
https://www.youtube.com/watch?v=vw2FOYjCz38&t=1s

▷スイッチを放り投げるシーン
毒草島で爆弾を仕掛け、起爆装置を押して爆発させる。爆破後、その起爆装置を放り投げる所作がめちゃくちゃカッコいい。

James Bond Will Return.

2022年から7代目ボンドを探し始めると言っていたブロッコリ。クレイグを越えれないなら、作り続ける意味はない。様式美に囚われすぎるのも良くないし、壊しすぎると007ではなくなってしまう。新たなボンドに期待を込めて…。

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